- 30年以上にわたって数百冊のSFを編集してきた私の目から見ても、ユーグレナ社の研究者たちは、強靭すぎる知性と意志を持って、100年後の未来を掴み取ろうとしている。
- 塩澤 快浩(早川書房)
- 内容たっぷり、まだ見ぬ未来の世界がリアルに描かれています!4作全ての素敵なところは今の私たちのように未来の日常を生きる人たちの視点で書かれているところです。そんな世界に生きていたら、どんな仕事についているか、誰と友達になっているか、何に命を燃やしているだろうと考える間に本の中に引き込まれます。
- 渡部 翠(ユーグレナCFO:最高未来責任者)
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貧困の博物館
貧困が滅んだ世界で、それでも残る「新たな貧困」とは。
ようこそ、未来の博物館へ!ここに展示されているもの、それは、世界から根絶された貧困。目玉は、かつての途上国の暮らしを再現した「貧困体験プログラム」。水も電気も、栄養すらも不十分な世界で、あなたは何を感じ、何を考えますか?先人たちの奮闘の末、SDGsが達成された未来。果たして人は、豊かで健康になったと言えるのか?そして、次に解決すべき課題とは何か?100年先の世界を考え、変えるためのヒントを巡る物語。
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モラトリアム
宇宙は、人類の居場所になれるのか。
人々が宇宙へ移住し、核融合で得られる無限の電力によって、働く必要すらもなくなった未来。翠谷悠里は、関わっていた月の鉱山が閉山することを知る。地球に行くことを決める仲間の月人たちをよそに、月に残ることを選んだ悠里は、宇宙空間で素肌を晒して歩く女性を目撃する。彼女は、遺伝子調整と化学工業が生んだ「電気吸い」だった……。宇宙という新天地を、人間の生きる場所に変えるための「条件」とは?
解説
永田 暁彦取締役代表執行役員 CEO
100年後の世界を想像するに、さらなるテクノロジーの飛躍的な発展により、人類は寿命や病、食住、エネルギーといった生物的な制限から解放されていると思います。そして、生存することのハードルがなくなることで、社会概念のパラダイムチェンジが起こっているはずです。本能、労働、愛、ジェンダー、家族、好奇心、社会的承認など。
私が今回の企画でトライしたのは、100年後の世界で、このような社会概念の変化に伴うさまざまな欲求を満たすために、人はどのような行動をし、科学はその行動に対してどのように貢献できているのかという思考実験です。
物語の主人公である悠里は、もはやフロンティアではなくなっている月面世界で暮らしています。悠里と悠里を取り巻く仲間たちの冒険の旅をぜひ楽しんでください。
なお、登場する各種テクノロジーは、単なる空想上の産物ではなく、100年後には論理的にも技術的にもリアルに社会実装されていること前提に描いています。 -
共棲の始まり、そして未来
生命は、存在は、永遠か。
ES(ecosystem sheet)と呼ばれる生態系復活装置を用いて、荒廃地の食料供給計画に従事してきた己龍ケイン。大規模自然災害により傷ついた地球環境の復興支援を使命に向かった宇宙で、彼は最愛の妻を失ってしまう。その後、ケインは恒星間小惑星宇宙船「遥」の開発へと着手する……。宇宙環境に適応し、不死の領域に到達した人間が夢見た「永遠」とは、何だったのか?
解説
鈴木 健吾執行役員 CTO
私自身、宇宙に強い憧憬を抱き、宇宙空間での生活における微細藻類ユーグレナの応用研究を日々続けている科学者の一人として、ワクワクしながら今回の企画に参画しました。
100年後には不老長寿・不老不死技術が一般的になり、人の生活圏が地球外に拡大して、他の惑星や、新規にスペースコロニーを構築して生活することも当たり前の世の中になっていると想像しています。
さらに、私は地球上でも地球外でも人間が災害や事故から身を守り、生存環境を確保することができる、最小単位の生態系を構築することについて非常に関心を持っています。その生態系が小規模にユーグレナをはじめとする微生物や高等植物などを含む形で、個人レベルの生命を維持できる移動可能な物質の循環系となり、最終的にはその生態系を他の人間と共有や継承も可能になる未来もあるかもしれません。
宇宙と言うと無機質なイメージがあるかもしれませんが、物語の中では家族愛も描かれており、ここにも100年後のテクノロジーが活かされています。 -
幸せな長い人生
寿命と記憶の間で揺れる、幸せの定義。
22世紀中盤。科学の発展により、人類の病がほぼ克服されつつある未来。健康寿命が伸びた一方で、記憶の底にある個人のトラウマだけは未だ解消できていなかった。医師である「私」は、そんな辛い過去の記憶をピンポイントで消し去る「積極的健忘治療」を、自らの身体で治験していた。治療から目覚めた「私」は、男との会話を通じ、新たな思いを抱き始める……。寿命と記憶の間で揺れ動く、未来の人間の生き方を問う。
解説
高橋 祥子執行役員 バイオインフォマティクス事業担当
100年後には、間違いなく健康寿命が大きく伸び、病気の大半は予防・治療が可能、体で不調な箇所は人口臓器がiPS細胞から作った臓器への交換も日常化。リアルとバーチャルも融合し、AIが意思決定に大きく関与していることでしょう。
私は、そういう環境の中で、人々の精神や生き方、そしてコミュニケーションがどのように変容していくのか関心があります。
SF作品では、テクノロジーが発展した世界でディストピアが描かれていることが多いのですが、私はあくまでテクノロジーで実現される、明るくハッピーな世界を描きたいと思いました。テクノロジーによって、明らかに現代より良くなっている世界。それでも最後に人間に残る心(幸福)の問題に焦点を当て、その中でも希望を見出していく、もっと未来にエネルギーを注ぐ前向きな気持ちになれる、そんな思いをこの作品に注ぎました。読者の皆さんが、そんな思いを受け取ってくだされば幸いです。
解説
出雲 充代表取締役社長
物語に登場する「貧困博物館」は、実際に私の師であるユヌス先生が作ることを目標としている博物館です。絶滅した恐竜が展示してある「恐竜博物館」のように、「貧困」がどのように根絶されていったのか、その方法や軌跡に関する展示が行われている博物館です。
これは決して夢物語ではありません。100年後より、ずっと早い段階で世界中から「貧困」は根絶され、「昔は貧困というものがあった」と語られる時が訪れます。「貧困」ゆえに叶えられなかった夢が現実的なものとなり、埋もれていた様々な才能が世界中で開花したりもするでしょう。
ただし、「物質的な貧困」がなくなったあとも、残念ながら差別やいじめといった、「心の貧困」からくる社会課題は少なからず残っていると思います。
それでも私は非常に楽観的です。それは、世界中の人々が「ハピネス」や「ウェルビーイング」といった「心の豊かさ」を手にするために、自助努力と相互協力で課題解決に取り組んでいくことを信じてやまないからです。