地球上には、多種多様な微生物が存在しています。その存在は、地球の豊かさの象徴でもあります。近年の研究では、微生物を活用することで、地球温暖化をはじめとする環境問題や、宇宙ビジネスの課題を解決できる可能性が明らかになってきました。
今回は、微生物や宇宙ビジネスなどに造詣の深いフリーアナウンサー・榎本麗美さんをゲストに迎え、微生物のひとつである微細藻類ユーグレナの研究者・鈴木建吾と、微生物を活用した新しい未来について語り合っていただきました。
“理工学につよいアナウンサー”という強みを生かしたい
—榎本さんは、いつから微生物に興味を持たれているのですか?
榎本麗美さん(以下、榎本):子どもの頃から、理科の実験などが好きだったんです。微生物に興味を持ったのは、大学で理工学部バイオサイエンス学科に進んでからでしょうか。
自分の足元に何億匹もの微生物がうごめいているところを想像するだけでワクワクしてくるし、なんだか自分の悩みごとがちっぽけに感じられて、元気が出てくるんですよ。
鈴木建吾(以下、鈴木):それは、微生物に関心がある人の“あるある”ですね(笑)。ちなみに大学で学んだ後、研究職に就かずアナウンサーの道を選ばれたのはなぜですか?
榎本:研究職に就きたかったのですが、就活を控え、エントリーシート用の証明写真を撮るために写真スタジオを訪れた際に、たまたまアナウンサー試験を受ける高校時代の友人に出くわしまして。「心細いから一緒に受けよう」と誘われるままに試験を受けたところ合格し、気づけばこの世界に足を踏み入れていたという感じです。
ただ、アナウンサーになってからも理工学系分野への探究心は薄れることなく、「いずれは科学や物理の面白さを伝えられるような仕事がしたい」とつねづね思っていました。その願いが叶い、去年からとある番組内で「宇宙の日」というコーナーを設けていただけるようになったんです。月に一度、宇宙ビジネスの分野で活躍する方をお呼びしてお話を伺うコーナーなのですが、楽しくて仕方がないですね。
鈴木:僕が榎本さんに初めてお会いしたのも、ちょうど榎本さんが「理工学につよいアナウンサー」として活躍し始めた2019年の3月ごろでした。
JAXAやリアルテックファンドなどが始め、ユーグレナ社も参画している「Space Food X」というプロジェクトのイベントに登壇したのですが、そこで司会をされていたのが榎本さんで。「アナウンサーでありながら理工学系につよい」というキャラクターが異色でしたし、お話もとても上手で印象に残りました。
榎本:そこで鈴木さんにお会いしたことをきっかけに、後日、「宇宙の日」にゲストとしてお招きすることになって。そのとき、宇宙ビジネスについていろいろ教えていただいたんですよね。
食・医療・環境。ユーグレナはさまざまな問題を解決するキーになる
—今日お2人に語っていただきたいテーマは「微生物と宇宙」なのですが、一見かけ離れているように見える両ジャンルがどう結びつくのか、教えていただけますでしょうか。
鈴木:現時点で、宇宙に微生物が存在するかどうかについては実はまだ解明されていないんです。ただユーグレナ社では、人の宇宙での生活において微生物は非常に重要ではないかと考えています。
中でも私たちの研究対象であるユーグレナは、「光合成で増える」「二酸化炭素を吸収して酸素を吐き出す」という生物としての特徴に加え、動物性の栄養素を含んでおり、宇宙における人の生活において非常に有益だと考えています。
榎本:微生物であるユーグレナが宇宙で培養され、人の栄養素として力を発揮する—。とてもスケールの大きなお話ですよね。
しかも伺ったところによると、宇宙空間でユーグレナを育てるために必要な空間はほんの少しでいいとか。「宇宙産ユーグレナ」なんていう新種が登場する日も、そう遠くないかもしれませんね。
鈴木:そうですね。ユーグレナを培養するためには水が必要なのですが、人間1人が生活できるユーグレナを作るには400ℓ、ドラム缶2本分程度の水が毎日必要となります。これは、ほかの食物などと比べると比較的に小さなスペースで供給できるといえると思います。「宇宙産ユーグレナ」、是非挑戦したいですね。
また、ユーグレナは地球温暖化にも貢献できると考えられています。最近は、「いかにしてCO₂排出削減を成功させられるか」という研究が盛んに行われていますが、ユーグレナにCO₂を吸わせ、そのユーグレナをバイオ燃料などに活用することで、温暖化解決の糸口になるのではないか? という取り組みも進んでいます。
榎本:地球の空気まできれいにしてくれるなんて、本当にユーグレナのパワーは計り知れないですね。
私は大学の研究室で免疫学を学んでいたのですが、ユーグレナは人間の体内の細胞に対しても働きかけてくれるんじゃないかと思っていて。将来的に、がん治療などにも効果を発揮してくれたらいいな、なんて勝手に期待しているんですが…。
鈴木:ユーグレナがその期待に応える未来、いつかやってくるかもしれません。
がんなどの悪性腫瘍は、特定の免疫システムをコントロールすることで発症や進行を防げられることが分かっています。そして、ユーグレナの中に多く含まれている多糖は、まさに人の免疫をコントロールする力を持っているのではないかと考えられているんです。
医療品の開発はかなりのロングスパンで考える必要がありますが、食の分野から健康維持・増進に貢献することはすぐにでも取り組めると考えています。同じような研究を進めている東北大学医学部のスタッフと一緒に、この領域の研究を強化しようとしているところです。
榎本:今まさに、現在進行系で研究が進んでいるんですね。驚きました。
鈴木:さらに宇宙と紐付けると、将来、有人飛行が当たり前になった際に重要になってくるのが宇宙飛行士の健康維持です。宇宙放射線や無重力状態が人体に及ぼすリスクが避けられない中で、いかに心身ともに快適に過ごしてもらえるかは今後重要な課題になってきます。
宇宙におけるヘルスケアの分野においても、食を通じてユーグレナが貢献できることは大きいはず。私たち研究者だけではなく、宇宙開発に携わる人、食に携わる人を広く交えながらディスカッションを重ね、よりよい開発につなげていきたいと考えています。
「宇宙ビジネス」へのイメージをキャッチーに変えていきたい
—そうしたユーグレナの可能性を広く知ってもらうことが、今後の課題になってきますね。
鈴木:そうなんです。僕たちが「ユーグレナは素晴らしい!ユーグレナが大好きだ!」と熱く語るだけでは、正直限界があると思っていて。研究者って、どうしても偏屈な人間に見られがちなんですよね…。
そこで、榎本さんのように知識をお持ちで、さらに伝えるスキルを持っている方が、ご自身の言葉で、ご自身の視点を加えながらユーグレナの魅力を伝えていただけたら、僕たちもユーグレナもすごく救われると思っています。
榎本:ありがとうございます。実は私、昨年「星空準案内人」という資格を取ったのですが、資格を取った理由のひとつが「みなさんに、きちんと話を聞いていただきたい」という想いだったんです。
研究者のみなさんが偏屈に見られてしまうのと似たようなもので、私の立場から宇宙や微生物をただ好きだと語るだけでは、「変わった子」「不思議ちゃんだね」とみなされてしまう。
それを、とても残念なことだと身をもって感じていたので……。資格を取ることで、少しでも真剣に私の話に耳を傾けていただける方が増えたら、という気持ちが強かったんですよね。
—榎本さんご自身の強い想いがモチベーションになっていたのですね。ちなみに「星空準案内人」とは、どんな資格なのですか?
榎本:天体観測などのイベントで、望遠鏡の組み立て方から星座の成り立ち、神話などについてレクチャーする資格です。もともと興味があったビッグバンとかダークマター、宇宙開発や宇宙ビジネスのジャンルとは違った天文学よりの資格なので、勉強にはちょっと苦戦しましたけど。
鈴木:どちらかというと、覚える形の勉強ですからね(笑)。
榎本:そうなんです。でも資格を取ったことで、世界が本当に広がったなと実感しています。
先ほどお話ししたような小さな偏見が減ったことも、「宇宙の日」の企画を通していただけたことも、イベントに登壇して鈴木さんのような研究者の方と出会えたことも、すべて私にとっては大きな収穫でした。この波に乗って、宇宙に興味を持っていただける仲間をどんどん増やしていきたいです。
鈴木:特に女性の中には、まだまだ縁が遠い世界の話だと感じている方も多いかもしれませんね。
榎本:その通りですね。実際イベントに来てくださる方も、本当に「宇宙が大好き」といったマニアの方や、将来宇宙ビジネスに参画したいとおっしゃるビジネスマンが多いのですが、やはり男性の方が多いと感じます。
「宇宙ビジネス」というとまだ敷居が高いので、もっと気軽に女性が興味を持ってくださるように、宇宙カテゴリのハードルを下げていきたくて。鈴木さん、どうすればいいでしょう?
鈴木:やっぱり「食」×「宇宙」のように、身近なことをテーマにするのがいいんじゃないでしょうか。食は性別・年齢関係なく興味を持ってもらいやすいジャンルだと思いますし、ユーグレナ社としても後押しできる分野でもありますから。
榎本:確かに食は強いですよね。あと、美容と掛け合わせることで、興味を持ってくれる方が出てくる気もします。どんな風に宇宙と掛け合わせるかは未知数ですが、こちらもユーグレナ社さんに商品化をお願いして。
鈴木:それもいいアイデアですね(笑)。こんな風に、宇宙をテーマに新しいカルチャーをイメージして、一つひとつ具現化していけたら楽しいですよね。
榎本:本当にそうですね。直感的に「面白そう!」と感じていただけるような企画を、今後どんどん仕掛けていきたいです!
※文章中敬称略
構成:波多野友子/撮影:丹野雄二/編集:大島悠