2019年9月、長崎県壱岐市は日本の自治体として初めて「気候非常事態宣言」を宣言しました。
なぜ、長崎県の離島である壱岐市が自治体で最も早く「気候非常事態宣言」を宣言したのでしょうか?そして、自治体として民間企業と共にどのような島の未来を創っていきたいと考えているのでしょうか?その背景や取り組みについて、副市長の眞鍋陽晃さんにお話を伺いました。
なぜ「気候非常事態宣言」を宣言したのか
—「気候非常事態宣言」を宣言されました。どのような背景があったのでしょうか。
眞鍋陽晃さん(以下、眞鍋 ):近年、人の活動を起因とする気候変動が顕在化してきています。そして気候変動によって、世界各地で山火事や洪水、海面上昇、干ばつなど甚大な影響が出てきています。
これらの影響は壱岐でも例外ではありません。例えば、壱岐市では従来と比較して台風の規模が大きくなり、進路が変わったことによってこれまでの治水設備では対応できない豪雨や洪水が増加しています。壱岐は第一次産業が盛んな離島です。農作物や海産物の収穫量への影響などが広がっています。
これらの影響をもたらす気候変動を抑制するため、壱岐市では2015年からの総合計画において「低炭素のしまづくりの推進」を掲げ、各種の取り組みを実施してきました。そして、2018年にSDGs未来都市※に選定されたことを追い風として、低炭素化に関する取組みを更に加速させていきたいと考えています。今回の気候非常事態宣言は、これまでの壱岐市の取り組みの延長線上にあり、今後さらなる取り組みを推進する宣言という位置づけです。
※SDGs未来都市:SDGs の理念に沿った基本的・総合的取組を推進しようとする都市・地域の中から、特に、経済・社会・環境の三側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い都市・地域として政府により選定されるもの。
—日本の地方自治体では初の宣言だと伺いました。
眞鍋:2016年以降、すでに世界では18か国、901自治体が「気候非常事態宣言」を宣言しています(2019年7月末時点)。また、自治体だけでなく、大学や各種団体、学会なども宣言していて、世界基準でいうと決して珍しくはありません。日本でも2019年8月に環境経営学会が声明を出すなど、徐々にですが認知と賛同が広がってきています。気候変動の対策に関しては、個別の自治体でできることは限界があります。今後、自治体をはじめさまざまな団体で宣言が広まってほしいと考えています。
市民の協力を得て、環境活動を実施
—これまで取り組まれてきた取り組みについて教えてください。
眞鍋:これまで、省エネや4R(Refuse,Reduce,Reuse,Recycle)活動に取り組んできました。省エネ関連では、「壱岐市地球温暖化対策実行計画」を策定し、2020年のエネルギー消費を2014年比で6%削減するべく市役所を挙げて取り組んでいます。4R活動では、すでにリサイクル率約36%(長崎県下1位)を実現しており、2027年度には同比率を40%以上に向上させる予定です。また、古着、焼酎瓶の回収や、レジ袋や生ごみの減量、堆肥化の奨励なども行っています。
このような取り組みには、市民の協力が不可欠で、環境教育や行動経済学的手法などを通じて意識改革や行動変容を促しています。例えば、市民一人ひとりに当事者意識を持ってもらえるように、ごみを出す際、ごみ袋に名前を書いてもらう取り組みを実施しています。このような取り組み1つ1つが気候変動を抑制するための鍵になると考えています。
—取り組みで課題に感じている部分はありますか?
眞鍋:壱岐市は離島のため、周りを海に囲まれています。ですので、特に海洋汚染の原因になるプラスチックごみについては、徹底して4R活動に取り組んで行きたいと考えています。また、再生可能エネルギー導入率が現在9%程度なので、この比率を高めていきたいとも考えています。具体的には、2030年度に再生可能エネルギー導入率を24%、2050年までに100%の比率を目指しています。風力、太陽光発電に加えて、水素を活用した発電についても民間企業などとともに調査研究を開始しています。
—発電の低炭素化について、積極的に取り組んでいますが、燃料の低炭素化についてはいかがでしょうか?
眞鍋:他の離島と同じく、壱岐市の公共交通には限界がありますので、自家用車の利用率が非常に高いです。電気自動車や燃料電池車の導入を推進したいと考えていますが、充電ステーションや水素ステーションの整備には多額の資金が必要です。
また、壱岐は漁業が盛んなため漁業関係者が保有する漁船も多いですが、この漁船で使う燃料も低炭素化の手段が見つかっていません。
—バイオ燃料の特徴の1つとして、既存の供給インフラをそのまま使えるというものがあります。低炭素化の手段として、この点はどう評価されますか?
眞鍋:財政面から見て、インフラ整備の初期費用がかからないという点は魅力です。また既存のインフラを使えることで、現在、燃料供給に携わっている事業者がそのまま事業に従事できるという点も、事業者の負担が少なく、普及がしやすいのではと考えます。
今後、2030年のあるべき姿に向け、取り組みを加速
—今後取り組んでいきたい環境事業を教えてください。
眞鍋:壱岐市では、2030年の壱岐市のあるべき姿を定めています。具体的には以下の5つをイメージしています。
①1次産業のスマートイノベーション
②電動輸送機器を活用した高齢者の移動サポート・大気汚染の低減
③若年から高齢まで幅広く交流し、互助関係の確立による安心・安全なまちづくり
④クリーンで持続可能なエネルギーづくり
⑤外部から多様な知恵を取り込み、進化と変化を恐れない柔軟で強靭な地域づくり
新しい技術や人材、知恵を活かして、1次産業を中心とする産業や移動インフラ、人材の育成を図り、また、省エネや再生可能エネルギー、4R活動などの推進にも同時に取り組むことで持続可能な循環型の地域社会を実現することを目指しています。
壱岐市の産業は、漁業や農業、畜産など1次産業が中心です。温暖化対策などに取り組み、気候変動を抑制することは、産業にとっても不可欠な取り組みで、これからも地域社会全体で取り組んで行きたいと考えています。
—私たちユーグレナ社のようなベンチャー企業には、どのような役割を期待されますか?
眞鍋:壱岐市の目標達成には島内の事業者だけでは限界があると考えています。2030年に向けて目指していく壱岐市の5つのイメージのとおり、島外からも先進的な技術を取り入れていく必要性を認識しています。ユーグレナ社のような島外の企業にも壱岐に進出していただき、先進技術を活用してSDGsの達成に向けた様々な取り組みを提案いただければと思います。
—ありがとうございます。私たちユーグレナ社は長崎県の離島(壱岐、五島、対馬)と長崎空港を結ぶ地域航空会社、オリエンタルエアブリッジの株主でもあります。離島の美しい自然に触れるために、CO₂を排出しながら壱岐に観光客が訪れるのは悲しいことだと思っています。是非、いろいろな形で壱岐市のような先進的な自治体と連携して、気候変動の解決に向けて取り組んで参りたいと思います。
本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
眞鍋:こちらこそ、ありがとうございました。
長崎県壱岐について
福岡県と長崎県対馬市の中間地点で玄界灘に面する島で、壱岐本島と23の属島からなる。「魏志倭人伝」や「日本書紀」にも登場し、弥生時代から長年にわたって海上交通の要衝となった。現在は漁業と農業などの一次産業が盛んで、また自然の美しさを活かした環境業も盛んである。博多港から高速船で約1時間、長崎空港から壱岐空港まで約30分。