考古学や哲学、テクノロジーさらにはアートの視点からも、人の未来を考える。
「世界初のリアルテック特化型クリエイティブファーム」KANDOを率いる田崎佑樹さんは、気候変動時代を生き抜く住環境に向けた事業開発など、独自の活動を展開しています。

「最近は環境問題のことばかり考えています」という言葉から始まったインタビュー。多分野を横断する知見から、地球と人類の課題を解決する道筋についてお話しいただきました。

ミツバチの存在からみる環境変化

―田崎さんは現在、気候変動に関して強い危機感を抱かれていると伺いました。

田崎佑樹さん(以下田崎):先日の台風19号級の台風は世界中で生まれています。これは地球温暖化による気候変動によって生まれる災害の一端です。私たちは今、企業利益の追求と化石燃料に依存した社会整備によりこれまで経験した事がないほどのCO₂濃度の世界で生きています。
先日ニューヨークで開催された「国連気候アクション・サミット2019」では、世界の主要機関投資家がサミットに参加する各国政府に対し注文をつける共同宣言を行いました。この共同宣言に参加した機関投資家の運用額は合計で3,770兆円にもなるとの事で「具体的なアクションを取らないと地球は持続しない」という危機感の具体的な現れと理解しています。

個人としての使命感を強めるために、「人類にはあと10年しか残されていないんだ」と思いながら活動しています。

田崎 佑樹 Yuki Tazaki(リアルテックファンドエンビジョンマネージャー/KANDO代表取締役)
クリエイション / リベラルアーツ x テクノロジー / サイエンス x ファイナンス / ビジネスを三位一体にする「Envision Design」を提唱し、テクノロジーのクリエイティブな社会実装と、テクノロジーとアートも含めた人文知を融合させる次世代文化創造を担う。Envision Design実践例として、REAL TECH FUND投資先であるサイボーグベンチャー「MELTIN」、人工培養肉ベンチャー「インテグリカルチャー」担当。その他にパーソナルモビリティ「WHILL」のMaaSビジョンムービーなど。アートプロジェクトとしては、彫刻家|名和晃平氏との共同作品「洸庭」、HYUNDAIアートコミッションワーク「UNITY of MOTION」、東京工業大学地球生命研究所リサーチワーク「Enceladus」、荒木飛呂彦原画展「AURA」など。

―あと10年、と思いながらはすごいですね。具体的にはどのような活動をしていくのでしょうか?

田崎:僕が注力したいのは、生態系の中心にいる「ミツバチ」と台風、水没、水位上昇でも生きていける「新たな住環境」を組み合わせる事業です。実はミツバチは人類が食べる農作物のうち約7割を媒介する生物で、彼らの連鎖的な働きは経済的には数十兆円とも言われています。でも、ミツバチは近年急速にその数を減らしていて、このことは農作物の生産にも影響を与えています。 
養蜂を中心にライフスタイルを構築して、毎年訪れる危険性の高い台風や水害などにも対応できる方舟の様な住環境を作りたいです。

新しさ×先人の知恵が面白い

―実現に向けて必要なことは何でしょうか?

田崎:課題解決のためにイチからリアルテックを育てることも必要ですが、すでに存在している技術を組み合わせて、スピーディーに展開していくことも大切だと思います。
例えば工芸分野では「奈良の大仏」。あんなに大きくて、経年劣化しやすい木材を使っているのに、今も立派な姿を見せてくれています。長く培われた技術は長い時間で検証されているので、新しい技術よりも信頼性が高いという側面があります。かつ、地球に還元される技術を用いている。だから、そうした知恵や技術を組み合わせていくべきなんじゃないかと考えています。

―先人の知恵を生かすということですね。技術だけでなく、人を集めることや組織についての課題はありますか?

田崎:同じようなことをやりたいという心強い仲間達が集まってきてくれています。ただ、こうしたプロジェクトを動かしていく際は、成長にともなって人や組織に関する課題が出てきますね。そうなったときには、哲学とか人類学とか、いわゆるリベラルアーツに分類されるような知見から人や組織を見つめていかなければいけない。それがまた面白いのですが。

テクノロジーの進化には想像力が欠かせない

―リベラルアーツについては、独自のメソッドである「ENVISION Design」でも言及されていますね。

田崎:「クリエイティビティ/リベラルアーツ」「サイエンス/テクノロジー」「ファイナンス/ビジネス」の三位一体によって、より良い未来と新たな文化を具現化していくというのが僕がやっているKANDO(リアルテック特化型クリエイティブファーム)の基本的な考え方です。僕がもともと学んでいた考古学や建築がバックボーンとなっています。

KANDOのサイトより

こうした考え方にいたった背景とは?

田崎:ちょっと大きな話になりますが…太古の人類について考えると、その感性や想像力は「サバイバル」のために必要な能力でした。例えば「ここに足跡があるから、あっちにライオンがいるかもな?これ以上進むのは危ないな」という危機回避能力です。

時代は過ぎて、産業革命をきっかけに科学革命が起こります。大昔の「想像力」は「脳内でシュミレーションする能力」のことでしたが、科学革命によって、「想像力」を具現化できるようになり、新たな技術や未来を創造する「創造力」が重視されるようになりました。例えば、エネルギーが足りなくなったら、化石燃料の採掘技術や原子力の活用を推進する。そんなふうに科学技術は、次々に新たな技術やプロダクトを生み、それを消費して経済限界を押し広げてきました。
経済限界を広げ、利益を増やし、科学技術に投資する。人類は約500年前からそんなサイクルを歩んできたことになります。一方で、(特に日本は人文と科学を分けたこともあり)「創造力」の基礎となる哲学、人類学、表現など「想像力」には、あまり投資をしてきませんでした。

しかし、革新的な科学技術であればあるほど、比例して「想像力」が必要となります。1930年代に核分裂反応を発見した科学者は、決して大量破壊兵器を作りたかったわけではないはず。それなのにこの技術は悲惨な未来を招いてしまいました。

― テクノロジーの行く末にどんな未来が待っているのか、それを想像する力が必要だということですね?

田崎:はい。もう少し身近な話でいうと、生物の発酵は、いずれ地球に戻るために用意された仕組みだと言えます。しかし人間が近年生み出してきたのは、化学繊維など「地球に戻れない」ものばかりです。科学技術を適切に使うための想像力が必要なのだと思います。

哲学の世界では「人間とはどうあるべきか」ということを長い時間をかけて考えてきました。そうした歴史のある学問が積み上げてきたものを、科学技術と融合させていかなければならないのだと思います。

「アート」と「スタートアップ」は立ち位置が似ている

―田崎さんはデザイナーとしてキャリアを積んでこられていますが、アートと社会についてどう考えますか?

田崎:アートの分野で言えば、現代美術につながる流れの中には「既存の常識に対するカウンター」になろうとする精神があると思っています。1874年に開催され、後に印象派と呼ばれる作家達の最初の合同展覧会を開いた際には、世間から大バッシングを浴びました。

それまでの美術は写実的であり、聖書や神話の世界を題材にして写真のように精緻に描く技法を高めてきました。印象派作家はモチーフを日常の風景に求めて聖書から離れ、光の一瞬の印象を捉えようとした彼らの作品は、既存の美術に対する強烈なカウンターだったんです。その流れの先に、社会への批評性を表現する現代美術が生まれました。常に批評性が見え隠れする現代美術は、「楽しい」とか「安らぐ」といったものではなく、今生きている社会や日常に潜んでいる問題点や解決の糸口を見つけていく作業が非常に大切にされています。

―想像力が批評性を産み、作品を通して社会への警鐘を鳴らしているということですね。

田崎:そうですね。これって、僕はスタートアップの立ち位置に近いような気がしています。ユーグレナ社もそうですが、スタートアップというのはそもそも既存社会や既存ビジネスに対するカウンターですよね。既存の価値観を一気に覆すこともあります。

これは伝え聞いた話ですが、フランスのスタートアップ起業家は、起業の前にアートを学ぶことがあるそうです。なぜアートを学ぶのかというと、アートの前提である「想像力と批評性の概念化」という能力を養うためなんです。
リアルテックのスタートアップもアートも、「想像力」と「創造力」を持って取り組めば、既存の価値観を覆し、社会をよりよくできる可能性がある。これからもその可能性を本気で追いかけていきたいと思っています。

※文章中敬称略

編集:多田慎介/撮影:稲田礼子

参考記事:
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67794
https://wired.jp/2016/08/18/weather-of-the-future/?fbclid=IwAR20dPjpl_TNTIhbeFsMSV_HkTWl1zXsz04yQmR02SkZcIYhWI9Mh09aTUc#galleryimage_237094-1177_1
http://karapaia.com/archives/52224585.html
https://www.sankei.com/life/news/160305/lif1603050004-n1.html