人々の健康意識を高め、健康寿命と平均寿命を限りなく一致させていく。
その実現に向け、ヘルスケア分野のデジタルマーケティングに強みを持つ株式会社MEJが2019年5月にユーグレナグループへ加わりました。
どうやって目標に向けて進んでいくのか。
ともにヘルスケア領域で事業を展開し、ベンチャー起業家でもあるMEJ代表取締役CEO・古賀徹とユーグレナ社社長出雲充の対談から、これからのヘルスケアの可能性を考えます。
20歳で起業、成功と挫折の末「ヘルスケア」にやりがいを見出す
出雲充(以下出雲):古賀さんは若くして起業されていますが、もともとはインターネットの世界ではなく、建築業界を志望されていたと聞きました。
古賀徹(以下古賀):父が建築などに使う彫刻の工房を経営していたんです。それで私も建築家を志すようになり、建築系の学校に進学しました。パソコンを初めて買ったのも、CADなどを建築に必要な知識を学ぶためでした。パソコンからインターネットに触れて、「こんなふうに世界とつながれるんだ!」と感動したのを覚えています。それから、どんどんインターネットの世界にのめりこんでいき、建築どころではなくなってしまいました(笑)。それが19歳の頃ですね。
出雲:古賀さんが19歳ということは、2005年頃ですよね。当時はWindowsのOSでいうと……。
古賀:「Windows 2000」の頃だと思います。ちょうどライブドアやアメブロなどのブログサービスが出てきて、個人が情報発信できる時代に入っていました。私自身も当時人気だった携帯(ガラケー)ゲームの攻略サイトを立ち上げて情報発信をしていました。今でこそゲーム攻略サイトはいろいろあるのですが、当時はほとんどなかったこともあり、1年ほど続けると徐々に収益が出るようになりました。
出雲:それが起業につながったんですよね。
古賀:はい。PVが伸びていくのと同時に収益も伸びていくのが本当に面白くて。そして事業として本格的にやるためにMEJを立ち上げました。もともと建築家として独立することを目指していたので会社員になるつもりはなかったのですが、起業の手段がインターネットに変わったという感じです。
出雲:すごいですよね。20歳で起業して、黎明期の分野で事業を伸ばして。
古賀:ただ、その後は大きな壁にもぶつかりました。広告事業なども手がけて3年ほどは順調に推移していたのですが、Googleのアルゴリズム変更をきっかけに、売り上げが数千万円からゼロになったんです。
出雲:それまで積み上げてきたものが消えてしまった。
古賀:はい。めちゃくちゃ落胆しました。でもその時、「自分が本当にやりたいことって何だろう?」と自問自答することができました。そして、当時(2010年ごろ)は楽天やamazonがものすごい勢いで伸びていて、平均寿命が伸び続けている日本では、ヘルスケア分野のEC市場が確実に伸びるだろうと思っていました。
マーケティングの力で、ヘルスケア分野の社会課題を解決
古賀:ヘルスケアに興味を持ったのには、原体験があります。私の父が50歳という若さで他界したんです。私も大人になるにつれて、もっと人が健康に生き続けられる社会を作れないか。そんな思いをずっと抱えていました。市場が拡大し、これまでの経験も生かせるECと人々の健康に貢献する「ヘルスケア」を結びつけ「ヘルスケアDtoC(Direct to Consumer)」※事業を立ち上げました。
※ヘルスケアDtoC(Direct to Consumer)事業:ヘルスケア分野の商品やサービスを直接消費者に届けるビジネスモデル
出雲:とても面白いビジネスモデルですよね。オリジナルのサプリメントを、インターネットのみで販売していくと。これって、従来はテレビ通販などが得意としていた領域じゃないですか。
古賀:そうですね。時代が変わり、流通経路も変わってきました。テレビ通販などの経路だけでやっている企業は、今後、伸び悩んでいくかもしれません。40代、50代もインターネットを当たり前に使う時代ですから。
出雲:そうなると、ゆくゆくは小売業などもなくなるのでしょうか?
古賀:それはないと思います。現状、世界でいちばんECが進んでいると言われる韓国でも、個人が買い物をする際のインターネットでの購入比率は約18%です。日本では現状この比率が5%ぐらいで、約95%が「非ネット」経路で購入されています。私は、この比率は上がっても20%くらいじゃないかと見ています。
ECのメリットとして、よく便利ということがあげられますが、私は、本当のメリットは「消費者に付加価値を提供できる」ことだと思うんです。例えば、家庭のトイレにIoTセンサーを設置することで、自分のヘルスケアデータを収集し、それに基づいて、最適なサプリメントをアドバイスしてもらうというようなことができるようになると思います。そんなふうに、単純にモノを販売するだけではなくて、「消費者に付加価値を提供できる」ことがDtoCの強みではないかと。
出雲:ユーグレナ社としても、そうした領域にぜひ挑戦したいんですよ。
古賀:以前からMEJにはM&Aの提案をたくさんいただいていたのですが、率直に言って、あまり興味がなかったんです。でも出雲さんを紹介していただき、「人と地球を健康にする」という考え方に強く共感しました。
私たちは「新たなヘルスケア文化を創造する」というミッションを持って経営しているのですが、ユーグレナ社と一緒になれば、自分たちだけでやるよりも成長を加速させることができ、「社会価値の最大化」ができるのではないかと思いました。ユーグレナ社には、デジタル領域でまだまだ伸ばせる余地がありますよ。
出雲:私たちも「この会社を仲間にしませんか」という提案はもらうのですが、MEJのように理想を本気で共有できる企業はそうそうないと思いました。科学的エビデンスに基づいたアドバイスを得て、みんなが健康になり、幸せになっていく社会を作りたい。そのためのアイデアはたくさん出てきますが、どうやってマーケティングしていけばいいのか? という課題に常にぶつかってきたので。
古賀:これは私が日々直面していることなんですが、「消費者に思いが届いたな」と実感できるのは、社会課題の解決とマーケティングの成功が合わさったときなんです。それができる会社が本当に伸びるのだと思っています。
目指すのは「売らないマーケティング」で知らないものが届く未来
出雲:私としては、最終的な夢として「売らないマーケティング」を実践していきたいと考えています。
古賀:売らないマーケティング?
出雲:はい。「あなたから注文があったけど、これはあなたが本当は必要としていないものだから売りません」「ユーグレナ社は、あなたのことをちゃんと知っています」と。例えば、乳酸菌飲料を注文してくれた方でも、遺伝子や腸内環境を調べたら、乳酸菌をとる必要がない状態であることがわかるかもしれません。
古賀:たしかに。
出雲:でもちょっと運動不足かもしれない。だったら、運動を頑張ってもらうための提案をするべきですよね。お客さまご自身の感覚に加え、遺伝子情報や腸内環境などのデータを活用することで、お客さまの健康に貢献できると考えています。ユーグレナ社を信頼して検査してくださった方には、本気でいい提案がしたいですよね。「注文いただいた商品を売らない」「注文いただいた商品と違う商品が届く」というのはこれまでの常識ではありえないかもしれませんけれど。
古賀:でも、それこそが「本気で健康になってもらいたい」という思いの現れですよね。
出雲:はい。現在の日本人は、健康寿命と平均寿命との間に男性で約9年、女性で約13年の開きがあると言われています。私たちの活動によって、健康寿命を伸ばし、平均寿命と健康寿命を近づけられないか……。これは大きな挑戦ですが、本気で目指していきたいですね。そのためにはヘルスケアに関するデータをより精緻に集めて商品を開発していく必要があるし、それによって実際にお客さまの健康状態を改善できるという結果も集めていかなければいけません。
古賀:健康に貢献するアドバイスを提供することで、お客さまのヘルスケアに対する意識も高めることができますね。MEJはただのサプリメントメーカーではありません。デジタルシフトが進んでいくからこそ、私たちらしい価値を発揮して、本気で健康を追い求める企業でありたいですね。
※文章中敬称略
編集:多田慎介/撮影:稲田礼子