「TVで、あの食品がダイエットにいいと言っていたから……」。
ついついそんな気持ちで食品をチョイスしてしまうこと、ありませんか? しかし本来、「自分の健康にいいもの」は人それぞれ異なります。
自分の体にとって何がいいのか?どうしたらもっと、自分の体のことを知ることができるのか?
そんな疑問を解消すべく、腸内フローラ解析の事業化を進める株式会社サイキンソーの代表・沢井悠氏と、株式会社ジーンクエストの代表であり、ユーグレナ社執行役員の高橋祥子に、腸内フローラや遺伝子解析でわかること、その活用方法について聞きました。
腸内フローラ、そして遺伝子解析のプロはそれぞれどんな健康管理をしているのでしょうか?
“腸活”に欠かせない!「腸内フローラ」って?
ー近年、腸内環境を整える「腸活」が女性を中心に注目を集めています。その中で「腸内フローラ」という言葉もよく耳にするようになりましたが、そもそも「腸内フローラ」とは何でしょうか?
沢井代表(以下沢井):私たち人間の腸内には数百種類、数にして600兆から1,000兆個もの細菌が棲み着いていて、人間が食べたものをエサにし、互いに競い合い、助け合いながら生きる”生態系”を作っています。
細菌がお花畑のように腸中に広がっていることから、花畑を表す「flora(フローラ)」という言葉を使い、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。
—腸内に細菌が1,000兆個も!?
高橋祥子(以下高橋):ビフィズス菌や乳酸菌、酪酸菌、エクオール菌。これらも腸内細菌ですよね。
沢井:そうそう。一口に「腸内細菌」といっても、さまざまな種類があるんです。
腸内環境にも、必要なのは「多様性」?
—ちなみに腸内フローラはどのような状態にあることが望ましいのでしょう? たくさんの種類の細菌がいたほうがいいのか、それとも特定の細菌が欠かせないのか。
沢井:基本的に、多様性は高いほうがいいと考えられています。
腸内の細菌は、人間の体が消化できない食物を分解したり、免疫系を調整して有害な細菌から体を守ったり、感染症を抑制したりと、さまざまな機能を持っています。
こうした働きは人間だけではできないことなんです。つまり、人間は自身が持っていない機能を、体内に棲まわせた腸内細菌に担わせている。だからこそ、多様性があった方がいいんですよね。
高橋:ヒトは、多様な腸内細菌からさまざまな機能を獲得して生きているんですよね。細菌の多様性があることによって、環境の変化に対応していけるということですね。最近グローバル化や流通の変化に伴いヒトの食生活が変化してきたことによって、腸内環境も変化する食生活に影響されているのでしょうか?
沢井:はい、腸内細菌は食習慣によって変わりますので、時代によって食生活の変化に伴って腸内環境も変化してきています。また、腸内環境がいろいろな病気にも関わっていて、例えば食物アレルギーには、腸内フローラにおける腸内細菌のありようが大きく関与していると言われています。
基本的に多種多様な食べ物を食べていれば、特定のものに対して過敏な反応は起きにくいと考えられていますが、偏った食事は、腸内フローラの多様性を低くする可能性があります。
自分の腸内を知ると、コンビニでのチョイスも変わる
—雑誌などで「腸内フローラを整えるのが大切」と書かれているのを見ますが、自分の腸内フローラの状態って、どうすればわかるのでしょうか?
沢井:腸内フローラを解析するキットなどを使えば、今の状態を確認することができますよ。腸内フローラの解析では、どのような菌がどれくらいいるのかを計測します。そのデータをもとに、自分の行動リズムや生活習慣を振り返ることができるんです。
高橋:私はここ数年の間に、「腸内フローラバランスチェック」を3回受けましたよ。
沢井:3回も!(笑)
沢井:受けてみて、どうでした?
高橋:1回目に便秘体質という結果が出て、そのあと健康に気を遣うようになりましたね。
以前は忙しくてコンビニのお弁当で済ませることが多かったんですけど、今は自炊をして野菜を多くとるなどバランスよく摂取するようにしています。タンパク質や糖質のバランスを考えたり、摂取カロリーを計算したり。
すると2回目、3回目の結果で、それぞれの腸内フローラの割合が変わったんです!
沢井:さすがですね。食事を変えて半年ほど、ですよね。
実は僕、逆に悪くなってきているんですよ(笑)。体の免疫力を高めるのに重要と言われている細菌がちょっとずつ減ってきていて、「これはやばい」と。
そこで、コンビニで選ぶ商品を変えてみたりしています。雑穀米で作られたおにぎりにしたり、玄米ブランにしたり。高橋さんのように自炊とまではいきませんが、食べ物に気を遣うようになりました。
高橋:コンビニのごはんでも、チョイスが変わりますよね。結果、何か変わりました?
沢井:それを今度、また検査して確認してみようと思います(笑) 僕がいい例ですが、このような検査キットで健康状態が可視化されることは、食事や生活習慣を見直すきっかけになるはずです。
高橋:なんとなくお腹の調子がよくないなとか最近体調が優れないな、という主観で判断することも今は多いですが、科学に基づいたデータがあれば、客観的に健康についての指標が知れるので現状把握と対策もしやすくなると思います。
沢井:そうですね。データで自分の身体の状態を客観的に知っておくことで、情報の受け取り方や接し方も変わってくるでしょう。
健康な人の場合、半年から1年に1回、健康診断を受けるくらいの気持ちで使っていただけたらと思います。
スピーディに進捗する研究開発。新しい未来は近づいている
—今後は、こうしたセルフチェックによる健康管理が当たり前になっていくのでしょうか?
沢井:そう思います。こと腸内フローラの解析には、2つの可能性があると思っています。1つは、疾患の早期発見。もう1つは、個々人の「体質」を腸内フローラで把握すること。
例えば、この食べ物が合うか合わないか、どちらを食べていけばより将来の病気が予防できるのか、とか。自分にとっての健康リスクを予見するものとして、用途が広がるんじゃないかなと思っています。
高橋:現在は、病気になってから治す考え方がまだ一般的ですが、遺伝子や腸内フローラの解析が広まることで、自分の体の未来を予測し、予防によってその未来を変えていく「未病」の発想に変わっていくのでは、と考えています。
また、「なんだかよくわからないけれど体調が悪い」というような状態がテクノロジーによって可視化されることにより、病気の早期発見や日常のパフォーマンス向上にもつながると思います。
沢井:さらにこの領域は、かなり速いスピードで進化しています。例えば2019年1月には、認知症と腸内細菌は強く関係するという論文が発表されて話題になりました。業界に身を置く立場として、研究が多岐にわたり進歩していることを肌で感じています。
高橋:ここ2、3年で論文の数が加速度的に増えていますよね。論文が増えるということは、新しい発見が次々になされているということ。今の流れを考えると、これから数年ごとにさまざまなことが解明されていくのだろうな、と思います。
沢井:それらが社会実装されれば、人類の未来もきっと大きく変わっていくでしょうね。
高橋:みんなが自分の体をよりよく知ることができる社会の実現に向けて、ともにがんばりましょう!
※文章中敬称略
構成:水本このむ/撮影:丹野雄二/編集:大島悠