第2回では、微細藻類(びさいそうるい)がなぜ食品に活用されるのか。さらに代表的な微細藻類としてユーグレナ(ミドリムシ)、クロレラ、オーランチオキトリウムについて解説しました。
『小さな生物”藻“が地球の未来を変える!?「微細藻類」とは?』。最終回となる第3回では、微細藻類の食品分野以外の利用について解説します。

微細藻類が産業に利用されている、期待されている分野として、食品(栄養素)のほかにも
・燃料
・化粧品
・その他(肥料・飼料)
などがあります。

次世代のバイオ燃料の原料として研究開発が活発に

バイオ燃料は、バイオマス(生物資源)を原料とし、石油由来のディーゼル燃料やジェット燃料に代替できる燃料です。そのバイオマス原料として微細藻類が大きな注目を集めています。
バイオ燃料は燃焼されると、石油などと同じように二酸化炭素を排出しますが、原料となる植物の成長過程において光合成を行うことで二酸化炭素を吸収しているため、燃焼時の二酸化炭素の排出量はプラスマイナスゼロとなると考えられています。これが「カーボンニュートラル」と呼ばれる概念です。
このようにバイオ燃料は、気候変動問題の解決策の一つとして期待されており、世界中で研究開発が活発に行われています。

微細藻類は、光合成により二酸化炭素を固定して酸素と炭水化物を作り出しますが、その際の代謝産物として、環境条件によっては、油をより多く産生することがあります。
「微細藻類は油を作るんだ!」と驚く方もいるかもしれませんが、植物も体内に油を産生しています。
代表的な例でいえば、食卓で使用されるオリーブ油、コーン油、ごま油、キャノーラ油、パーム油、ひまわり油など、植物が産生した油を原料とした植物油には数多くの種類があります。

過去に石油価格が高騰した際、トウモロコシやサトウキビなどの穀物を原料としたバイオ燃料の研究開発・実用化が進みましたが、穀物を原料とするバイオ燃料の需要が急増した結果、食料価格が高騰したことや、原料を育てるために広大な森林を畑に開墾するなど環境破壊などが問題となりました。

そこで、現在穀物以外のバイオ燃料の原料として期待されている素材の一つが微細藻類です。
面積当たりの油の産生量を、微細藻類と穀物などの植物と比較する場合、微細藻類はヤシなどの油を多くつくる植物よりも数十倍の油を産生することができ、効率の良い土地活用が可能です。
また、微細藻類を使用することで、通常の農業では使用できない土地、たとえば工場の跡地などが使用可能であり、穀物との競合を避けることができます。

さらに、微細藻類を培養する際に、
・飲料水に適さない排水などを利用することができる
・たとえば食品加工の際にでる廃棄物など、未利用の資源を栄養源として利用することができる
などの利点もあります。

以下はバイオ燃料の原料として研究開発が進んでいる微細藻類です。
・ユーグレナ
・クラミドモナス
・ボツリオコッカス
・オーランチオキトリウム
・シュードコリシスティス
・イカダモ
など

10年以上前、当社ではユーグレナが体内に蓄える油が、ジェット燃料の原料に適した組成だとわかったことから、バイオ燃料製造に関する研究がスタートしました。

※ユーグレナ社のバイオ燃料:https://www.euglena.jp/businessrd/energy/

ユーグレナの油の大きな特徴は、「炭素数14が主体」であることです。
石油由来の燃料である既存のジェット燃料は灯油に近い組成であり、炭素数分布10~16のパラフィンまたはナフテンという成分が中心となります。
一般的な植物の油は炭素分布が16以上であり、軽油あるいはそれよりも重質な燃料に相当しますが、ユーグレナに含まれる油脂は炭素数14を中心として構成されているため、炭素数分布10~16のジェット燃料の組成に比較的近いのです。

※出典:解説 微細藻類ユーグレナの特徴と食品・環境分野への応用(学会誌「光合成研究」第63号(2012年04月)/ 第22巻第1号)

石油由来燃料の炭素数
ユーグレナに含まれる油脂からつくられたバイオディーゼル燃料とバイオジェット燃料

ジェット燃料の例で説明しましたが、微細藻類の油はバイオジェット燃料のほか、バイオディーゼル燃料などの原料として世界各国で実証が進んでいます。
しかし、微細藻類の油は、理論的に生産効率がよいといってもまだまだ石油由来の原料と比較して量が足りず、コスト(価格)も追いついていないため、ゲノム編集で油を多く産生する原料効率のよい株へ品種改良したり、油を多く産生した微細藻類の株のみを選別して培養したり、より効率的な培地(微生物や細胞の培養のために用いる、養分などを含む液状や固形の物質)、未利用資源の培地利活用、培養方法などの研究開発が世界中で行われています。

バイオジェット燃料を使用したフライトに成功
バイオディーゼル燃料で航行する船舶

高機能かつサステナブルな化粧品原料として

微細藻類は化粧品原料としての利用が広まり始めています。
・ユーグレナ
・クロレラ
・スピルリナ
・オーランチオキトリウム
・ナンノクロロプシス
などの微細藻類において化粧品原料の研究開発は進んでおり、すでに成分が配合された商品もあります。

微細藻類にはさまざまな機能があり、その機能性を目的とする食品としての利用が進んでいますが、スキンケアにおいてもその機能が注目され始めているのです。
・皮膚の保湿力を高める
・肌の免疫細胞を活性化する
・紫外線からの肌ダメージを抑える
・肌のターンオーバーを促進する など

※ユーグレナエキスの入った化粧品って?ユーグレナと化粧品の関係や期待できる効果について解説! https://www.euglab.jp/column/euglena_clm/000462.html

また、「持続可能」な原料という点でも、注目されています。
パーム油は、食用のほか洗剤など私たちの生活の多くに使われていますが、化粧品原料にも多く使われています。
さらには、バイオ燃料の原料としても注目されており需要が増加しているのですが、世界的な人口増加などもあいまって、このままパーム油の使用量が増えると森林の開墾などが進み、大規模な環境破壊などにつながると専門家が警鐘を鳴らしている状況です。
そこで、微細藻類の成分が機能面も含めて新たな化粧品原料として期待されているのです。

化粧品原料としてのほかにも、バイオプラスチックの原料などとしても期待されている微細藻類ですが、ぜひご紹介したい「これから」の分野があります。
飼料や肥料としての、農業や水産業での活用です。

農業や水産業でも?!微細藻類の意外な分野での活用

微細藻類は農業において土壌改善や肥料の原料の一つとして研究開発が進められている側面があります。
栄養が豊富な微細藻類は、ほかの微生物などの栄養源になることがしばしばあり、乳酸菌の働きを活発にさせる研究結果などもあるんですよ。

※ユーグレナと乳酸菌の相性は良いの?ユーグレナと乳酸菌の関係性について解説! https://www.euglab.jp/column/euglena_clm/000463.html

それがどう農業によいのでしょうか?
農業といえば土地、すなわち土が必要ですね。その土の中には多種多様な微生物が存在しています。
この微生物の存在と多様性は土にとってとても重要で、微生物の多様性が失われ、バランスが崩れた土は、植物の病害や生育不良を招きます。
たとえば、特定の作物を同じ場所で栽培し続けると作物の生育が悪くなったり、枯れてしまうことがあります。この現象を連作障害といいますが、この連作障害は、同じ場所で同じ種類の作物を作り続けることで微生物の種類が単純になって、病原菌の増殖につながってしまうことが原因で起こるとも考えられています。

化学肥料や農薬を使用しない「有機栽培」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、この有機栽培の場合、生物由来の有機質のものを肥料として主に利用するため、土の中の微生物をはじめとする生態系の豊富さを保つことができ、連作障害が起きにくいと言われています。

ここでも注目されているのが微細藻類の活用です。
微細藻類を農地の土に混入したり、肥料の原料として使うと、作物の生育がよくなるという研究が報告されています。
これは、微細藻類が土の中の微生物の働きを活発にすることで微生物の多様性が保たれ、結果、土が「健康」になるという実験結果もあり、現在さらなる研究が進んでいます。

微細藻類を原料の一部に使用したペレット堆肥(イメージ)

農業より少し先行して実証が進んでいるのが、家畜や魚類養殖の飼料の一部として微細藻類を活用することです。
家畜や魚が育つための飼料に不可欠なタンパク質ですが、世界的な人口の増加や気候変動の影響による不作などの影響で、現在、飼料の原料となる農作物や水産資源の供給が危ぶまれており、それが原料の高騰などにつながっています。
そこで農地不要で植物よりも成長の早い微細藻類に白羽の矢がたった、というわけです。

水産養殖試験に使用した微細藻類入りの飼料と水産養殖試験のマダイ

微細藻類の中には、タンパク質を多く含むものがあり、飼料の原料に使用する「代替タンパク質」となります。
微細藻類をいろいろな割合で飼料にまぜて、家畜や魚にどの割合が好まれるか、また免疫などにどのような影響があるか、などの研究も行われています。
このように農業、畜産業、水産業においても微細藻類を活用したさまざま取り組みが進められているのです。

3回にわたってお届けした『小さな生物”藻“が地球の未来を変える!?「微細藻類」とは?』
いかがでしたでしょうか?
私たちにとって身近な食品、海藻のワカメや昆布の仲間でもある微細藻類は、太古の時代より地球上に存在し、現在に至るまで、そして未来においても私たちが生命を維持するのに必要な酸素の産生をはじめ、地球上の生態系において重要な役割を果たしています。
そして近年では、ユーグレナ(ミドリムシ)をはじめとしたさまざまな微細藻類の特徴や機能性を活かし、食品、化粧品、燃料、繊維、肥料、飼料など多種多様な分野で活用されています。顕微鏡を使わないと見ることができない小さな小さな“藻”ですが、その大きな可能性は無限に広がっていくといっても過言ではないでしょう。
今後、さらに微細藻類の研究が進んでいくことで、タイトルに示したように”地球の未来を変える”ことができるかもしれません。

■監修
中野 良平(なかの りょうへい)
株式会社ユーグレナ R&Dセンター 共同センター長
八重山殖産株式会社 代表取締役社長
2007年 東北大学大学院農学研究科 博士課程修了。2007年 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士研究員に就任。2008年 株式会社ユーグレナに入社。2016年に同社の生産技術開発部長に就任。2017年に
ユーグレナグループの八重山殖産株式会社の代表取締役に就任。2018年に株式会社ユーグレナの執行役員生産技術開発担当に就任。2024年、R&Dセンター センター長に就任。

【第1回】太古の時代より現代まで地球環境を育み、さらに持続可能な未来に向けて注目される「微細藻類」とは?

【第2回】食品の分野で産業利用されている微細藻類とその特徴を解説