ライフセーバーとは、ビーチやプールでの水難事故の防止や一次救命処置などを、ボランティア活動として行う人々のこと。なかには実際のレスキューを想定して技術を競うライフセービングスポーツに取り組む選手も多く、池端選手は日本ライフセービング界のトップランナーです。数々の世界大会でも入賞し、2018年には世界チャンピオンに輝きました。 ユーグレナ社のスポーツ用飲料ブランド「SPURT(スパート)」が提唱する「サステナブル・アスリート※1」にも参画し、トレーニングの前後に商品を愛飲いただいています。そんな池端選手に、ライフセーバーとしての生活や、アスリートとしてデュアルキャリアを選んだ理由、そして海辺での安全管理の方法などについて、お話を伺いました。
※1:現役の競技生活の中で「アスリート自身の健康維持」はもちろん、 「地球の健康への配慮」、「途上国への健康支援」という3つの「健康」視点で無理のない持続可能な活動を実践し、また、競技生活から離れた後も健康を継続維持し、セカンドキャリアを歩んでいくことを目指すアスリートのこと。
人命救助のスキルをアップさせる「ライフセービングスポーツ」
―まずはライフセービングというスポーツについて、簡単にご紹介お願いします。
池端拓海さん(以下、池端):夏になると海やプールなどの水辺に、赤と黄色のユニフォームを着て監視している人がいますよね。それがみなさんのイメージするライフセーバーだと思いますが、実はライフセービングにはスポーツ競技の側面もあります。水辺での救助力を向上させるためにつくられたスポーツで、基本的にどの種目も人命救助に直結するような内容になっています。
具体的には海をベースにした競技と、プールをベースにした競技に大別できます。私が主に取り組んでいるのは、泳ぎの競技であるサーフレース、パドルボードに乗って競うボードレース、サーフスキーというカヤックのような舟を漕ぐサーフスキーレースの3つで、これらをトライアスロンのように連続して各1周ずつ行います。これらが個々の競技として行われることもありますし、これら以外にもさまざまな競技や種目があります。シーズンを通して全国大会があり、海の競技は夏季、プールの競技は冬季に開催されています。私は普段は会社員としてフルタイムで働いているので、主に休日にライフセービングの活動をしています。
―小さい頃から水泳をされていたそうですが、ライフセービングを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
池端:18歳までは水泳をやっていて、高校を卒業するときに大学でも続けようか迷っていました。というのも、水泳の練習をあまり楽しめなかったんですね。そんなときに当時、進学する大学でライフセービングクラブの主将をやっていた昔から仲の良い先輩に話を聞いたんです。私の父の故郷は鹿児島で、小さい頃から海に行くのが好きだったこともあり、興味を持ちました。それでライフセービングのサークルに入ったのですが、最初は単純に楽しむのが目的で、まさか日本代表を目指すなんて思ってもいませんでした。
ライフセービングを始めてみると、水泳の練習とは全然ちがうものだと実感しました。海でのトレーニングが圧倒的に多かったのですが、雨の日も風の日も、雪の日でさえトレーニングするんです。きつかったのですが、水泳には見出せなかった面白みをたくさん発見できました。練習に嫌気が差したときは、波乗りをしてリフレッシュできるのもよかった。次第にライフセービングの練習が好きになっていきました。
アスリートのセカンドキャリア問題と向き合い両立の道を選択
―大学生で日本代表、そして世界チャンピオンにまで上り詰めた池端選手ですが、卒業後は会社員とライフセーバーを両立することを選んでいらっしゃいます。その理由を教えてください。
池端:ライフセービングのスキルを活かす場合、プロライフセーバーという選択肢も確かにあります。しかし、アスリートのセカンドキャリアの難しさはすごく重要な問題だと捉えていて、例えばサッカー選手でも35歳くらいが限界ですよね。会社員の定年が65歳だとして、あと30年もあります。競技の専門性を活かした仕事ができる人などごくわずかなので、多くの人は30歳を過ぎてから一般的な社会人としてのキャリアをスタートさせなければならない。その時点で非常に遅れをとってしまうわけです。私としては、それは避けたかった。
一方で、アスリートとしてライフセービングは続けたかったんですね。ライフセービング活動の先輩にコンサルタントとして働きながらライフセービング競技でも好成績を残している方がいて、彼の影響もあり、就職活動ではライフセービング活動と両立できることを軸に会社選びをしていました。正社員以外の働き方だとライフセービングに時間を割けるかもしれませんが、その先輩の背中を見てきたので、正社員としてフルタイムで働きながら、ライフセービングも両立したいという思いが強かったんだと思います。
―最近では、競技を続けながら会社員として働いたり、セカンドキャリアを見据えて副業を行ったりする「デュアルキャリア」を選択するアスリートも増えてきましたが、まさに池端選手はそれを実践されていますね。
池端:そうですね。自分が両立することで、後輩の手本になればいいなという思いもあります。最近はこういう働き方を選ぶ後輩も増えてきて、仕事や就職活動について相談を受けることもあります。自分自身で両立してみて思うのですが、アスリートって一つのことを極めてきた人ですし、ナンバーワンにこだわるタイプが多いんですね。そういう志向は仕事をするうえでも非常に大切なので、会社という組織でも活躍できると思っています。ただ、両立を実践するのは簡単ではないため、職場の理解を得ることも大事。そのためにはやるべきことをきっちりやり、仕事でも成果を出す必要があります。
―会社での仕事とライフセービング活動を両立するために、どのように工夫されているのでしょうか。
会社での仕事とライフセービング活動を両立するのは確かに大変ですが、よい影響もあります。練習時間が限られている分、一回の練習をすごく大切にして、その時間でできる限りのことをしようと考えるようになりましたし、仕事で後輩の指導をしたことで、ライフセーバーの後輩への教え方も変化しました。仕事とライフセービング活動が相互によい影響を与え合っていると感じます。
―かなり忙しそうなスケジュールですが、コンディションを保つために意識していることはありますか?
池端:睡眠と食事は大切にしています。食事に関しては、ユーグレナ社の「SPURT(スパート)」も日々飲んでいますよ。以前、ケガで2回も手術をしているのですが、その時に尊敬する先生から紹介され、以来ずっと飲んでいます。季節の変わり目に体調を崩すことが減り、飲み続けることで身体が変わっていくのを実感しています。私はゼリータイプをいつも愛飲していて、朝のトレーニング前に半分、トレーニング後に残りの半分、といった感じの飲み方をしています。ゼリーだと満腹感も得られるので、時間のない朝に重宝しています。
それから、スケジュールをこなすのに息が詰まってしまったら、ちゃんとストレス発散もするように心がけています。友達と遊んだり、時にはお酒も飲んだり。ライフセービング以外のスポーツをして、いつもとは違う身体の動かし方をするのも効果的です。次の日もがんばろうという糧になっています。
「もしも」のときのために覚えておきたい海辺での注意事項
―これから夏本番を迎えますが、水辺で遊ぶ際に気を付けるべきことを教えてください。
池端:最近はどんどん暑くなってきているので、熱中症は非常に危険です。対策としては水分補給をしっかり行ってほしいのですが、水の中にいると汗が流れているのに気づかないうえ、喉の渇きを感じにくいんですね。そのため、ちょっと調子が悪いなと感じて水から上がり、しばらくすると熱中症で倒れてしまう、ということが結構あります。脱水症状が出るまえに、小まめに水分補給をしてください。
それから、もしライフセーバーがいたら、声をかけてみるのもおすすめです。ライフセーバーは毎日同じ海を見ているため、その日の状態から気を付けるポイントを教えてくれたり、より楽しめる遊び方を紹介してくれたりします。ぜひその海のプロに聞いてみてほしいですね。ちなみに、ライフセーバーは私のように資格を持つ者と、一時的に臨時で来ているアルバイトの方がいます。資格保有者はユニフォームの胸の部分に日本ライフセービング協会のマークが貼ってあるので、それで見分けることができます。
水難事故はなるべく未然に防ぎたいですが、万が一溺れている人がいたら、すぐに水の中に入らないことが重要。まずは近くに浮くものがないかを探して、それを溺れている人に投げて持たせることを優先してください。何も持たずに入ってしまうと、自分も一緒に溺れる確率が高いです。ライフセーバーであっても、素のままで助けに入ることは稀です。浮き輪があったらベストですが、なかったら例えばクーラーボックスなど浮力の代わりになるものを探しましょう。それを投げるか、自分で持って助けに入るかで、生存確率はぐっと上がります。ペットボトルのような小さなものでもよいので、とにかく浮くものを探す、これを徹底してほしいと思います。近くで溺れていたら、上着を投げて引っ張るのもよいですが、自分も引きずられないよう、複数人で引き上げるようにしてください。
「ライフセービングをライフスタイルに」をモットーに普及活動
―ライフセーバーとして10年以上海を見続けてこられて、海を取り巻く環境の変化は感じますか?
池端:一番変化を感じるのは、水温です。10年前に比べると、海の水を温かく感じる気がします。昔は冷たくて気持ちいいな、というだけでしたが、今は温かいな、というのをすごく感じます。実際に温度を測っているわけではないのであくまでも直感に過ぎないのですが、昔は冬の海に入ると凄く冷たいと感じていたのですが、今はそんなに冷たくないなと言うような感覚です。
それから、特に夏場ですが、水の色がきれいではなくなってきている感じがします。夏の浜辺には観光客の多くのごみが捨てられるので、潮の満ち引きで海に流れ込んでしまうんですね。そのため、私が担当する海では海水浴場に来た方々がそろそろ帰る時間帯にあわせて15分間のビーチクリーンタイムを設けていて、数人の監視員を残す以外は全員で一斉にごみ拾いをするようにしています。そのおかげで、担当しているビーチが美しい海の証である「ブルーフラッグ※2」の認証を与えられ、毎年の審査でも更新されています。
※2:国際NGO FEE(国際環境教育基金)が実施する、ビーチ・マリーナ・観光船舶を対象とした世界で最も歴史ある国際環境認証制度。UNEP(国連環境計画)やUNWTO(国連世界観光機関)等との連携のもと、世界各国において推進され、毎年の審査を通じて、ビーチやマリーナ等における持続可能な発展を目指す。日本では2つのマリーナ、12のビーチで認証を与えられている。
―これからもライフセービングを継続していくうえで、何か目指していることはありますか?
池端:私は以前、ライフセービングの本場であるオーストラリアで修行したことがあるのですが、そこではライフセーバーは非常に尊敬される存在なんですね。島国だからか、水難事故も多いため、ライフセーバーの地位が高く、例えばオリンピックの選手がライフセービングの資格を持っていたりもします。日本も同じ島国ですが、ライフセービングのほとんどはボランティアに頼っている状況で、ライフセーバーのいないビーチのほうが多いです。
このような状況を変えるためには、もっとライフセービングの認知度を高める必要があります。私が目指すのは、ライフセービングスポーツを通して、ライフセービングに興味を持つ人を一人でも増やすこと。オーストラリアのように、他の競技のアスリートが資格も持っていたっていいですよね。アスリートの力を使って、もっとライフセービングを広めたいので、色んなアスリートに声をかけるようにしています。先日はプロスケートボードの選手に、自分のボードに乗ってみないかと誘ったり。そういうところからライフセービングの裾野を広げ、ライフセーバーをやる人が増えたら、もっと安全に楽しく水辺で遊んでもらえるようになるはずです。「ライフセービングをライフスタイルに」をモットーに、もっとライフセービングを身近な存在にしていきたいと思っています。
インタビューを通して、ライフセービングが単なるスポーツである以上に、人命救助のスキルを向上させるための重要な活動であることがわかりました。また、池端選手のように、アスリートとしてのキャリアを積みながらセカンドキャリアについても真摯に考え、両立を目指す姿勢は、他のアスリートにとってもロールモデルとなるでしょう。池端選手のようなアスリートが増えることで、アスリートが競技生活と併行して会社員としても仕事をするなど、競技以外のキャリアも形成していく「デュアルキャリア」がより一般的になることや、「デュアルキャリア」を積極的に認める企業が増えていくことも期待しています。池端選手の活動を通して、日本におけるライフセービングの認知度が向上し、重要性が広く理解されることで、より多くの人々が水辺での安全に関心を持つようになることを願っています。
<プロフィール>
池端 拓海(いけはた たくみ)
幼少期から取り組んできた競泳経験を活かし、2015年大学入学とともにライフセービング活動と出会う。国内大会では学生選手権3連覇、2017年全日本選手権で優勝を果たし、日本代表に初選出。国際大会でも数々の大会で入賞を果たし、2018年には日本代表として出場した世界選手権で優勝し、世界チャンピオンに輝いた。
夏の海水浴シーズンは、本須賀海水浴場を中心に千葉県九十九里浜のビーチに立ち、パトロール活動を行い、水辺の事故減少に向けたライフセービング活動を行っている。
現在は、単身でライフセービング活動本場のオーストラリアに渡り1年間武者修行を行った後、トップライフセーバーとして日の丸を背負い海外選手と戦う一方で、一般企業に就職し会社員として働きながら、二足の草鞋を履いたトップアスリートとして活動している。
文/福光 春菜