循環型社会とは、限りある資源を効率的に活用し、持続可能な形で循環させながら利用していく社会のことです。しかし、天然資源の枯渇やエネルギー価格高騰に加え、廃棄物処理の問題など、循環型社会の実現には多くの課題があり、解決が急がれています。そこで、今回は循環型社会とはどのような社会なのか、実現のためにどのような取り組みが必要なのかを、詳しく解説していきます。
循環型社会とは?定義を解説
循環型社会とは、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会から脱却し、生産から流通、消費、廃棄に至るまで、物質の効率的な利用やリサイクルを進めることにより、天然資源の消費が抑制され、環境への負荷が低減される社会であると定義されています。
具体的には、製品の廃棄を抑制すること、すでに排出した廃棄物はリサイクルするなど適正に再利用すること、そしてどうしても利用できないものは適正に処分することを掲げています。これらを実現するためには、法整備はもちろんのこと、私たちの価値観の転換も必要とされており、さまざまな課題が指摘されています。
また、循環型社会は持続可能な社会を実現するためにも不可欠であると言われています。最近では持続可能な社会、低炭素社会、自然共生社会など、さまざまな環境に関する用語がありますが、循環型社会は主に資源や廃棄物に主眼を置いた概念であり、そこが理解するためのポイントとなります。
循環型社会の実現に不可欠である「3R」とは
循環型社会を語る上で重要なキーワードである「3R」は、学校の授業などでも盛んに取り上げられるため、ご存じの方も多いでしょう。3Rとは、Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の3つのR(アール)の総称です。
① Reduce(リデュース)とは、物を大切に使い、ごみを減らすことです。
例:必要ない物は買わない、もらわない
例:買い物にはマイバッグを持参する
② Reuse(リユース)とは、使える物は、繰り返し使うことです。
例:詰め替え用の製品を選ぶ
例:いらなくなった物を譲り合う
③ Recycle(リサイクル)とは、資源として再び利用することです。
例:ごみを正しく分別する
例:再生紙など、ごみを再生して作られた製品を利用する
3Rはそれぞれ大切ですが、言葉の順番にも意味があり、前から優先度が高くなっています。つまり、
リデュース>リユース>リサイクル
という順番で重要であるという意味が込められているのです。
さらに最近では3Rの進化版として、「5R」という言葉も見られるようになりました。5Rとは、Refuse(リフューズ)、Reduce(リデュース)、Repair(リペアー)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の5つのR(アール)の総称です。
リフューズはいらないものは断ること、リペアーは修理することで、3Rと同様この順番で優先度が高いとされています。レジ袋有料化や紙のストローの導入などが身近になってきた昨今では、リフューズも大切な行動です。また、面倒でも直せるものは修理しながら長く使い続けることも、循環型社会にとって大きな意味があります。
なぜ循環型社会が注目されるようになったのか
世界の廃棄物の状況に目を向けると、経済成長と人口増に伴って発生量は増大しています。2010年では約104億トンだった廃棄物量が、2050年には2倍となる見込みとなっており、世界中で対策が求められています。
一方日本国内では、最終処分される廃棄物の量は減少傾向です。再利用される資源の割合が増加しているという良い面もありますが、しかし資源生産性という、産業や人々の生活がいかにものを有効に使っているかを示す指標を見ると、横ばいなのです。
特に金属資源が天然資源の中でも再生利用されずに処分場に多く埋め立てられており、このような資源は「都市鉱山」と呼ばれています。廃棄された家電製品などに含まれるレアメタル(希少金属)は、資源として循環的に利用される可能性が高く、東京五輪ではメダルにこの都市鉱山の金属が使われ注目を集めました。世界中で金属価格が高騰している今、さらに都市鉱山の有効利用が強く望まれています。
このように、世界中で廃棄物の増加が問題になっている一方で、天然資源は枯渇に近づいています。天然資源や環境保全のためにも、廃棄ではなく資源として循環させることの重要性が見直されてきているのです。
循環型社会形成推進基本法ってどんな法律?
そんな中、日本では循環型社会を実現させるために、法整備を進めてきました。特に2001年に完全施行された「循環型社会形成推進基本法」は主軸となる法律で、その下に廃棄物の適正処理について規定した廃棄物処理法や、再生利用を推進する資源有効利用促進法などが続き、個別の物品に関しても細かく規制されています。そのため、私たちはどんなものでも自由に廃棄できるわけではなく、例えばテレビや冷蔵庫などは通常のごみのように処分できません。家電リサイクル法に則って指定の方法・場所のみで処分ができるのです。
また、先ほどの都市鉱山については、小型家電リサイクル法で有効に再利用するよう規定されています。私たちの携帯電話やスマートフォンには、有用な貴金属が含まれているからです。
さらに、自然災害の多い日本では、災害ごみの処理についても深刻な問題になっています。災害ごみは非常に膨大で、例えば東日本大震災で津波の甚大な被害を受けた岩手県釜石市では、なんと60年分のごみ処理量となっていました。気候変動の影響によって将来的に災害が深刻化すると、災害ごみの問題は法律含めしっかり練る必要がありますが、自治体での計画作成はまだ道半ばです。
循環型社会の実現のためにどのような取り組みがあるのか?
このままでは2050年には世界の廃棄物は2010年の2倍になると推計されていますが、循環型社会の実現のためには、どのような取り組みが求められているのでしょうか。世界の取り組みと、日本国内の取り組みをそれぞれ見てみましょう。
世界の取り組み事例
循環型社会実現への取り組みとして、最も進んでいるEUの動向をご紹介します。
■ 欧州グリーン・ディール
EUでは 2015 年、プラスチックや食品廃棄物などを優先分野とし、製品の製造と消費、 廃棄物処理、二次原材料に関する取り組みを盛り込んだ「循環型経済行動計画」を初めて発表しました。その後、2019 年に持続可能なEU経済の実現に向けた成長戦略「欧州グリーン・ディール」を発表。ここでは、「経済成長と資源の利用のデカップリング(切り離し)」などを主な目標として掲げました。
EU各国が目標を掲げ対策するなか、委員会は2022年11月に包装材と包装廃棄物に関する規則案を発表し、注目を集めています。これは包装材のリサイクルや再利用の促進と、包装廃棄物の削減を義務付けるというもので、リサイクルが進まない包装廃棄物の状況を改善する目的で作成されました。EU加盟国には包装廃棄物削減などの目標値を設定し、事業者に対しては包装材をリサイクル可能にすることや、包装材の再利用を義務付けるなどを規定しています。
具体的には、以下の制度の整備を求めています。
・あらゆる包装廃棄物の返却・分別回収制度
・飲料用の使い捨てプラスチックボトルや金属製の缶類などを対象にしたデポジット制度
・包装材の再利用や詰め替え(リフィル)を容易にする制度
これに伴って、包装材の製造業者に対しても、さまざまな義務が新たに課されることになりました。主に以下の内容が、猶予期間を設けて段階的に実施するとされています。
<製造業の新たな義務>
・全ての包装材をサイクル可能な設計にすること
・ガラスや紙等の再利用しやすい特定の原材料に関してはリサイクルが可能な設計にすること
・プラスチック製包装材に関しては種類に応じてリサイクル済みプラスチックを使用すること
・ティーバッグやコーヒーカプセル、青果物に直接添付するシール、バラ売りの食品を分ける際などに利用する超軽量プラスチック袋については、堆肥化可能な設計にすること
・原材料や再利用の可能性などの情報を含むラベルとQRコードを包装材に貼付すること
また、レストランやホテルなどのサービス業においても、以下のような新たな義務が段階的に課せられることになります。
<サービス業の新たな義務>
・食品・飲料、小型シャンプーなどを使い捨てプラスチック製品で提供することを禁止
・大型家電の運送用包装やコーヒーなど飲料のテイクアウト販売の容器、調理済み食品の持ち帰り用の容器、アルコール飲料・水・ソフトドリンクの容器、運送用のパレットや包装材、保護材などを対象に、再利用・詰め替えが可能な包装材の利用率の目標値を設定
さらに同日、いわゆる「代替プラスチック」に関する取り組みについても発表されました。代替プラスチックとは、自然に分解されるバイオマスをベースにしたプラスチック、生分解性プラスチック、堆肥化可能プラスチックなどの新しい原料であり、従来のプラスチックの代わりになるとして期待されています。
現在、これらはプラスチック生産の約1%にとどまっていますが、世界での生産規模は2022年に前年比でほぼ倍増が見込まれるなど、急成長中です。EUでの代替プラスチックの普及を目的として、今回方針が打ち出されたようです。 EUの動きは日本にも大きな影響を与えるため、今後も注目したいところです。
日本の取り組み事例
日本でも循環型社会の実現に向け、さまざまな取り組みが行われていますが、ここでは大きく3つの取り組みついてご紹介します。
■ 都市鉱山の有効利用
都市鉱山問題の対策として、2013年に小型家電リサイクル法が施行されました。これは一般家庭から排出されるスマートフォン、デジカメ、ゲーム機、ドライヤーなどの小型家電を市町村が回収し、国が認定した業者に引き渡し、小型家電の中に含まれる貴金属やベースメタル等を取り出し、リサイクルする仕組みです。 認知度を上げさらに回収量を増やすために、2022年の東京五輪では金・銀・銅メダルには都市鉱山が使用されましたが、まだまだ多くの都市鉱山が眠っているとされています。環境省は、都市鉱山から金属を回収して再資源化する量を2030年度までに倍増するという方針を掲げ、今後さらなる取り組みの強化を目指しています。
■ 2Rの推進
個別リサイクル法の整備により、最終処分場の大幅な削減を達成しました。しかし、循環型社会の実現のためにはリサイクルよりもリデュースとリユースがより重要であるにもかかわらず、これらはあまり進んでいないのが現状です。現在はリサイクルよりも、2Rがより進む社会経済システムの構築が求められています。
そこで、国内ではレジ袋やプラスチック製品の削減を促進してきました。レジ袋に関しては2020年に有料化され、レジ袋使用の大きな抑制につながっています。 また2022年4月にはプラスチック新法が施行され、フォークやスプーンなど特定のプラスチック製品の排出を抑制するよう求められるようになりました。これにより、多くのコンビニやファーストフード店が紙などの代替素材で作られた製品を採用しています。
一方で、リサイクルに頼りすぎている点やレジ袋や食器だけでは不十分であるなどの指摘もあるため、よりリデュースとリユースを促進するための取り組みが必要です。
■ アジア地域への循環産業・技術の展開
世界の廃棄物排出量は全体的に増加傾向ですが、中でもアジアは総排出量の4割を占めています。そこで、日本の廃棄物処理・リサイクル分野における先進的な技術を活かし、これらの技術をアジア諸国へ展開することにより、世界規模での環境負荷の低減に貢献しようとしています。 2009年には、アジアの途上国における3Rを推進するため、アジア太平洋3R推進フォーラムが設立され、参加国の協力関係が推進しています。
日本が支援する事業の一例として、インドでの小型家電等リサイクル事業、タイでのセメント工場を核とした廃棄物の3Rシステムの構築、ベトナムでの建設解体廃棄物の循環システム構築・展開事業など、数多くの事業を支援しています。これらの国々で循環産業を育成することで、アジアを中心した国々で適正な廃棄物処理・リサイクルシステムが普及することを目指しています。
国内企業の取り組み事例
政府の取り組みだけでなく、3Rをビジネスとして実践している企業も増えています。ここでは循環型社会を目指して新たな事業を行っている例をご紹介します。
■ 株式会社カマン
株式会社カマン は、テイクアウト容器ゴミを削減するリユース容器シェアリングサービス「Megloo(メグルー)」を2021年に開始したスタートアップ企業です。現在は鎌倉駅周辺や墨田区の商店街、鈴鹿サーキットなどで導入され、普及を目指しています。サービス開始から1周年を迎える鎌倉市では、これまでに約2500食分のテイクアウト容器の削減、330キロのCO2削減に貢献してきました。
2022年6月には、プラスチック汚染防止に関する世界最大のネットワーク「Alliance to End Plastic Waste」が主催する「廃棄プラスチックをなくし、循環型経済を実現する」という国際的な目標を達成することを目的にした日本初のプログラムに選出された、今注目の企業です。
■ 株式会社マーケットエンタープライズ
ネット型リユース事業を中心に、メディア事業、モバイル通信事業などを展開するマーケットエンタープライズは、2006年に創立して以来、「持続可能な社会を実現する最適化商社」をビジョンに掲げて成長している会社です。
2022年3月、大阪市と事業連携協定を締結し、地域社会における課題解決を目的とした不要品リユース事業の連携をスタートすると発表し、注目されています。事業としては、マーケットエンタープライズが運営するリユースプラットフォーム「おいくら」を用いて、不要品を廃棄物として捨てずに再利用する仕組みを構築。大阪市の廃棄物削減と循環型社会の形成を目指しています。
■ 株式会社ユーグレナ
ユーグレナ社は2020年9月にペットボトル商品を全廃し、紙容器に切り替えると発表しました。これは初代CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)小澤杏子氏の提案を受けてのことで、2020年6月に提案され、翌年に実現しました。
さらに2021年3月、ユーグレナ社はセイコーエプソン株式会社と日本電気株式会社、東京大学との共同で、微細藻類ユーグレナが有するパラミロンという物質を使ったバイオマスプラスチックの一つである「パラレジン®」を開発し、注目を集めています。プラスチックをめぐる問題の解決のため、パラレジン®の安定供給・製品化を目指しています。
循環型社会の課題や浸透しない理由とは?
世界においても国内においても、循環型社会の実現のためにさまざまな取り組みをしていますが、まだまだ多くの課題を抱えており、循環型社会への道のりは遠いと言えます。特に国内では、リサイクル化が進んだことによる新たな課題も生まれているようです。
大量生産、大量消費、大量リサイクル時代
循環型社会の実現には、3Rの実践が不可欠です。日本では、最終処分場の廃棄物量は減少しつつも、廃棄物の発生量は減少していません。さらに、市民の排出する一般廃棄物は減少傾向にあるものの、人口減少と見合った減少とは言えないのが現状です。資源を投入する量が減っていないため、大量生産されたものが大量にリサイクルされ、それがまた大量廃棄されるというサイクルに陥っている側面もあります。
例えば資源リサイクルにおいては、建築資材などはリサイクル率が高く、一見よいことのようですが、使い終わった資材を再度資源とするためには莫大なエネルギーが必要となります。さらに、再利用という性質上、どうしても不純物の混入などにより品質は劣化します。そのため再資源化できたとしても、需要とのマッチの問題も生じます。
いくらエネルギーを使って再資源化しても、余ってしまっては逆に環境負荷を高める結果につながります。これは建築資材に限らず、プラスチックなどほかの原料も同様の問題を抱えています。
排出された不要物を資源にしようと技術が進歩してきたものの、排出自体を減らすことが不十分だったため、課題の解決に至っていないということです。もちろんリサイクルによって改善した面もあるでしょう。しかし、資源を大量消費して生産しているままでは、決して循環型社会は実現できないということです。
私たち個人ができることとは ?
循環型社会の実現には多くの課題がありますが、では私たち個人でもできることはどのようなことでしょうか。リサイクルによらない方法を見ていきましょう。
省資源な製品を選ぶ
限りある資源を大切に使うため、省資源な製品づくりに積極的に取り組む企業が増えてきました。現在もすでに普及していますが、パッケージを軽量化にして原材料の使用量を減らしたり、詰め替え用パッケージにするなど、商品設計での工夫がさらに求められます。
私たち消費者も、これらを重視して商品を購入することが求められます。
ものに依存しない生活
ものを必要以上に買わないこと、ものに頼りすぎないことなど、これまでの価値観を変えることも必要でしょう。例えばカーシェアが普及したように、ものを所有せず共有する生活スタイルがより重要になります。
ただ、家電製品のように便利なものが日々生産され、広告も進化するこの時代に、利便性を追求しないというのは難しいことです。そのため、本当に廃棄物を減らすなら、EUの発表にあったように企業に細かい規制をすることも不可欠でしょう。また、個人としてはレンタルやリースの活用を増やす工夫をするのもよいかもしれません。
ものを長く使う行動
マイボトルやエコバッグなどのように、面倒でもその都度買わず、自宅から持参する生活スタイルを、より進化させる必要があります。また、近年はネットオークションやフリマアプリの普及に伴い、個人間でもリユース品のやり取りが活性化しています。不要になったものでもすぐに廃棄せずに、必要な人に譲ることがさらに定着するとよいでしょう。
また、修理しながら長く使うことも、ごみを減らすためには効果的です。
まとめ
循環型社会の実現は、持続可能な社会の実現のためにも不可欠です。まだまだあらゆる面で課題は多いですが、私たち個人でできることもたくさんあります。日々の消費のなかで、本当にその商品が必要か、その商品はどのように生み出されているのかを配慮することで、循環型社会へ近づくはずです。
文/福光春菜