古くから続くといわれる化粧品開発。近年、この化粧品分野で最先端技術を用いた技術革新に注目が集まっています。
ユーグレナ社もミドリムシやカラハリスイカといった素材を用いた研究開発を進めています。

そんな化粧品分野を研究することの魅力や将来像について、ユーグレナ社執行役員研究開発担当で農学博士/医学博士の鈴木が語ります。

化粧品は多角的に魅力的!

―ずばり、化粧品の研究開発の面白さはどんなところですか?

鈴木:化粧品の研究開発は「研究」としてというのもありますが、実は「事業」としても魅力的で楽しいんです。
その理由の1つは、日本国内だけでも化粧品市場は2兆7,858億円(矢野経済調べ、2018年)の市場規模があるから。近年ではヘルスケア分野だけでなく、生命科学分野の研究者も化粧品開発に取り組むケースも多くみられていますね。

―2兆円も市場規模があるですね!スポーツ用品の市場規模が1兆4,685億円(2017年)と言われているので規模の大きさが分かりますね。ニーズが高いんですね。

鈴木:そうですね。消費者のニーズはとても高いと思います。
なお、私が最初に化粧品分野で携わった研究はミドリムシ(微細藻類ユーグレナ)の成分を分解して化粧品に適した部分を抽出したユーグレナエキスについての研究でした。
この研究から、ユーグレナエキスが紫外線で傷ついた細胞の回復を高めることが期待されることが分かりました。これはミドリムシが、過酷な環境下でも力強く自身の細胞を増やすことができる成分を抽出することで、肌などに効果がある可能性を見出したのです。

ミドリムシから抽出した有用成分加水分解ユーグレナエキス

―ユーグレナエキス!そのほか化粧品関連での研究はありますか?

鈴木: いかに効果的に成分を届けられるかということも研究しました。
具体的には、水素イオン濃度が変わるとカプセルが崩壊するというpH応答性カプセルというのがあり、そのカプセルは弱酸性の肌表面では閉じたままで肌の内部に浸透してアルカリ性になったところでカプセル内の成分が放出されるというデザインになっています。このカプセルに内包する効果的なエキスを開発しました。

鈴木:新しい成分を研究して見つけて、その成分をより効率よく届けることができる…あたらしい価値を創造する研究は正直とても楽しいですね。

次の化粧品関連研究は?

―ミドリムシの化粧品素材や方法の研究と、新しいことを研究してきたとのことですが、今新しく取り組んでいる研究はなんですか?

最近は、南部アフリカのカラハリ砂漠に自生する「カラハリスイカ」に注目して研究を進めています。
「カラハリスイカ」は、スイカのルーツにもなっていて、保水力と高酸化力に優れた植物なんです。「カラハリスイカ」には、砂漠の乾燥状態を生き抜くことができる成分が存在するのではないかと考えて、そのメカニズムの解明を行っています。

ボツワナ共和国のカラハリ砂漠で自然のカラハリスイカに出会った鈴木

鈴木:最近は最新のテクノロジーを使った研究も盛んで、直接小さな針で肌の構造の狙った深さに有効な成分を届けたり、微小電力を使って肌のケアをするというような研究も進んでいます。
これらのテクノロジーに関連した技術の開発も興味があります。

―テクノロジーの進化により、化粧品研究も変化してきているのですね。

鈴木:そうですね。私は今後、個別化医療と同じように化粧品も自分にあったものを選ぶという傾向がもっと強くなってくるだろうなと感じています。
個人ごとに遺伝子や環境が異なるので、万人にフィットする化粧品があるかというとそうではありません。遺伝子や環境に合わせて個別化された化粧品を開発できたとしたら、消費者の個別ニーズに答えることができます。

化粧品業界大手のシャネルの研究開発部門であるシャネル・リサーチ・アンド・テクノロジーが、生体の中の遺伝子関連物質であるマイクロRNAがどれぐらいあるかで、肌の老化の状況を確認することなどを2013年に発表をしたことはこの一例です。このような遺伝子×化粧品分野の開発も急速に進んでいます。

将来的に、最先端の技術で「その人のその時に最も合った化粧品」を届けられるような商品やサービスを開発し、世界中の人々にそれぞれが笑顔でいられるような状況を作れたいですね…!

―遺伝子解析とのコラボは本当に楽しみです!ありがとうございました。

鈴木:ちなみに「化粧品検定一級」という資格も、興味が高じて取得しました!
化粧品を開発するためには、化粧品開発に関する歴史や処方の方法、香りに関する知識、人の体の部位に関する知識、それに関連する法律などの知識が必要になってくるので、総合的に化粧品のことを知りたいなと。
知れば知るほど、化粧品は奥深くて楽しい研究案件ですね!

「日本化粧品検定1級」を取得して満面の笑みの鈴木

株式会社ユーグレナ 執行役員研究開発担当 
鈴木 健吾(すずき けんご) 


東京大学農学部生物システム工学専修卒、2005年8月株式会社ユーグレナ創業、取締役研究開発部長就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の食用屋外大量培養に成功。2016年東京大学大学院 農学博士学位取得。微細藻類ミドリムシの利活用およびその他藻類に関する研究に携わるかたわら、ミドリムシ由来のバイオ燃料製造開発に向けた研究に挑む。
東京都ベンチャー技術大賞受賞(2010年)、共著に『微細藻類の大量生産・事業化に向けた培養技術』(株式会社情報機構)。