新型コロナウイルス感染症を機に急激に世の中が変化していく中で、環境への配慮を意識して生活していく「サステナブル」な暮らしへの関心が高まっています。
そんな中、企業としていち早くこの変化に着目し、「1. HUMAN RIGHTS 脱・紛争鉱物」「2. ANTI POLLUTION 脱・フッ素コート」「3. HEALTH PROTECTION 脱・丸投げ生産」「4. SUSTAINABILITY 脱・プラスチックごみ」という「4つの約束」を新たに掲げ、タイガーボトルサイトをオープンさせたのが、タイガー魔法瓶株式会社です。
今回は、同社のステンレスボトルブランドマネージャーの南村さん、広報宣伝担当の玉矢さんにお話を伺い、同社のボトルを一例に、今後のサステナブル商品の在り方について探ります。
「次の100年」を見据え、これまでの「当たり前」を宣言した老舗メーカーの挑戦
ものづくりをされる上で、これまでに重点をおいてきたポイントについて教えてください。
南村さん(以下、南村):これまでは、「携帯用魔法瓶」というステンレスボトルの主な用途を考えた時に、やはり最重要となる、軽量化、保温・保冷能力ですね。あとは、日本メーカー製ならではの使い勝手の良さ、お手入れのしやすさ、品質の高さなどです。
それらの点で各メーカーと競争してきたのですが、実は、業界内で全体的に差がつきにくいレベルまで達してしまっているんですよ。国内外の各メーカーで、もはや同質的競争に陥ってしまっているんです。
このような現状があり、「今後は何で競争していくのか?」「グローバルに勝負していくには?」「ミレニアル世代・Z世代に向けて響くようにしていくには?」といったことを考えました。そこで、これまでは「当たり前のこと」として言わなかったことを、あえて社会に宣言することにしたんです。社内でも、賛否両論ありましたが。
もともと、社風としては奥ゆかしさがある方だったと自覚しています。でも、「いわなくてもいい」と思って当たり前にやってきたことは、実は、タイガー魔法瓶として持ち合わせている武器だったんですよね。
以前からあるものをわざわざ宣言することへの恥じらいを克服し、実行するに至ったポイントは何だったんでしょうか?
南村:弊社は、2023年で創業100年を迎えるんです。それを見据え、「NEXT100年」に向けた会社としての試みの一環として、という部分ですね。
これまで様々な取り組みをされてきた中で、今回、訴求点を「1. HUMAN RIGHTS 脱・紛争鉱物」「2. ANTI POLLUTION 脱・フッ素コート」「3. HEALTH PTOTECTION 脱・丸投げ生産」「4. SUSTAINABILITY 脱・プラスチックごみ」の4つに絞られた理由は、何かありますか?
南村:他にも候補はありましたが、人権、健康、環境配慮の項目を優先して考えた際に、自然にこれらに絞り込まれました。
宣言をする上で、気がかりだった点はありますか?
南村:「2. ANTI POLLUTION 脱・フッ素コート」に関してですね。我々の他の製品では、今もフッ素コートを使っているものもあるので。その中で、ステンレスボトルについてだけ宣言するのか?といった部分は、正直ありました。
ただ、それらをふまえてもフッ素コートに替わる良い技術を持ち合わせているので、それなら信念を持って宣言していこう、という話になりました。
ボトルというアイテムを選ばれた理由はありますか?
南村:「4つの約束」やサステナブルという要素を体現する、具現化するとなると、弊社の様々な取り扱い商品の中で、ステンレスボトルが最も体現できることが多かったんです。シンプルに、わかりやすく語るなら、ステンレスボトルだと思いました。
これまで「マイボトル」という言葉で発信していた部分を、「脱・プラスチックゴミ」と言い換えたことで、反応が変わった部分はありましたか?
南村:実はここも、他のメーカーさんに比べて宣言できてなかった部分だったので、ここまでしっかりと宣言したのは初めてでしたね。
玉矢さん(以下、玉矢):弊社のECサイトのリリースが、偶然、7月3日だったんです。7月1日がちょうどビニール袋有料化のタイミングだったので、それに合わせて取り上げてもらえたのはいいきっかけだったように思いますね。
新たな「EC」という販路に向けた、プロモーションの変化
今回、販売をイーコマース(以下、EC)限定にされているのはどういった意図によるものでしょうか?販路の観点でしょうか、在庫管理で無駄を出さないという観点でしょうか?
南村:我々のメッセージをしっかりと伝えつつ、お客様とコミュニケーションを取れる場を作るには、ECが最適かなぁと。
また、今回カスタムボトルは10色でラインナップしていますが、店舗も今、縮小傾向にある中で、全色揃えてお客様に見てもらうということが現実的には少々難しいんですよね。
そういう意味でも、また製造上の意味でも、自社サイトでやるメリットはあると思っています。
プロモーションについてもお伺いしたいです。今回訴求点を一新していく中で、プロモーションの方法に変化はありましたか?
玉矢:今回のカスタムボトルの販売は、ECサイト限定なので、プロモーションの選び方も大きく変わりました。これまでと違い、店頭用のプロモーションではなくなったんですよね。
まず、認知してもらい、集客すること。
それから、どう中に入ってもらって、興味を持ってもらうか。
そこから、どう商品購入に繋げていくか。
その4点を中心に、PDCAを回す仕組みづくりが必須です。ECサイトでは、せっかくお客様の動向を購入まで追うことができるので、そこをしっかりデータとして追いかけていく必要があると思っています。
あとはメッセージの届け方ですね。我々が届けたい、サステナブルや「4つの約束」などのテーマは、重くて内容の深いもの。
だから、意識的にターゲット層にとって身近なインフルエンサーの方や、ユーグレナさんのような、サステナビリティに取り組まれている企業様と組んで、発信に取り組むようにしています。その発信の延長線上で、タイガーボトルに辿り着いていただけたら嬉しいですね。
インフルエンサーの方は、どういった基準で選ばれていますか?また、その方に提案してもらうメッセージは、どういったものですか?
玉矢:インスタグラムのアカウントを見て、日頃からサステナブルに関連したことを訴求されている方を、インフルエンサーさんとして選んでいます。今回はサイトのデザイン性なども重視しているので、若い方も興味を持っていただけるように、「世界観にしっかりはまる方」という点もポイントにしています。
また、タイガーボトルの公式インスタグラムアカウントでは、インタビュー動画も配信しています。その時注意しているのは、淡々とサステナビリティについて語るよりも、まずは興味を持っていただけるようなコンテンツを作ること。インスタグラムの役割として、憧れの人の生活の中に、サステナブルさが馴染んでいるような発信方法になるように気をつけています。
宣言を実際に世間に出してみて、想定していたものと比べて、反応はいかがでしたか?
玉矢:正直、想定以上の反応があったと思います。特にツイッターですね。「広告」に対しても、我々も驚くくらいに、たくさんのリツイートやコメントをいただけたんです。フッ素コートのお話1つとっても、「使っていないなんて、素晴らしいですね」とか。みなさん、関心のある方はしっかり理解されているのだと、肌で感じましたね。
南村:「1. HUMAN RIGHTS 脱・紛争鉱物」に関してもそうですね。「よく宣言した!」とか、「日本メーカーじゃ珍しい」とか。みなさんやっぱりそういう観点で、物事を捉えていらっしゃるんだなぁ、と。
玉矢:個人的にも、アフリカ関連の仕事をしている後輩から2年ぶりに連絡があって、「めちゃめちゃいいプロモーションしてるね」と言ってもらえました。
ツイッターで反響が大きかったのは、興味深いですね。今回はどんな世代の方からの、どんな反応やコメントが多かったのでしょうか?どういった層に、より響いたと感じますか?
玉矢:ツイッターなので仮説としては若い世代の方が中心かなぁと思っていたのですが、よく中身を見てみるとご年配の方にも反応をいただいているので、予想以上にリーチしている層は幅広いのかもしれません。
コメントの中身としては、こちらの気分も良くなってしまうくらい、とにかく褒めてくださる方が多いですね。「これからは御社商品しか買いません」とか、「こんな企業がたくさん増えたらいいのに」とか。
南村:社内の目も変わりましたよね。今後はサステナビリティが刺さっていく時代なんだ、と。
今回の宣言は、社会的背景として求められている部分を感じて出されたのでしょうか?それとも、会社として、あるいはご担当者として、考えられてのことでしょうか?
南村:私たち担当者レベルや、経営層からも、「こういった観点は今後絶対重要になっていくからやろう」という強い意志を持った者たちが集まって、プロジェクトを推進してきた形ですね。
この数年間を振り返って、これまでお仕事されてきた時代との変化は感じていますか?
南村:違いはありますね。けれど、その中で「うちの商品は、アフターコロナ時代でも推せるな」ということもわかりました。「4つの約束」によって、自分たちの中にもそういう視点ができたんでしょうね。
暮らしに馴染む「サステナビリティ」
普段から、ご自身でも、サステナブルな活動はされてますか?
南村:10年以上、いつもマイボトルを2本使いしています。朝は1本目のマイボトルでコーヒー、午後からは2本目のマイボトルでお茶、といった風に。弊社には、そういう社員がゴロゴロいますね。
玉矢:私は、普段からエコバッグは使っています。けれど、どういうことがサステナブルっていわれることなんでしょうね。結構みなさん普段からやられていることの中にサステナブルな活動ってある気がします。電気をこまめに消したりとか。
そういう観点で言えば、今回のアイテムはまさしく、そういったことを自覚できるキッカケになりそうですね。
商品のカラー展開についてもお伺いしたいです。サステナブル=白や茶色などの自然色、といったイメージがありますが、カラフルさを取り入れたのはなぜですか?
南村:サステナブルな商品にするためにお客様に色を我慢していただくとか、要素をカットしていくのは違うなと思ったんです。
色を選ぶ楽しみを体験していただきながら、それがエシカルやサステナブルに繋がっていくといいと思ったんですよね。
今回それぞれのカラーにテーマをつけられていますが、その意味づけの意図とはどういったものでしたか?
玉矢:選ぶ楽しさは作りたい、と思いました。地球環境や守りたいものに共感する新しいキッカケとして、ボトルを選んでもらう観点があってもいいかなと。
たとえサステナブルに興味がなかった人でも、可愛い名前などに心惹かれる部分はあると思うので。特に若い年齢層の人たちにとっては、そういうところもポイントだと思っています。
「名前が可愛いから選ぶ」というのがキッカケだったとしても、それがサステナブルに関心を持ってもらえることに繋がっていったらいいな、と。
サステナブルな「4つの約束」を主軸とした、今後の展望
今後ボトル自体が社会に広まっていく中で、衛生上の問題や給水所の問題等が出てくると思いますが、これから社会的に変わっていく部分については、見越されていますか?
南村:やはり、新型コロナウイルス感染症というのが大きな変化のポイントですよね。世界レベルで衛生意識が高まっていると感じています。マスク着用や手洗いうがいといった衛生意識も浸透していますよね。
その上で、我々のキーワード「ワンパーソン、ワンボトル」というものを体現して、衛生面の高さ、オペレーションの高さを、その文脈で語っていけるようになりたいですね。
その部分をしっかり構築して、アフターコロナ時代の世の中に向けて広げていきたいです。
すでに手応えを感じられている部分かとも思いますが、今後より広げていくための戦略などはありますか?
南村:ものづくりを行っている会社として、掛け声や宣伝だけでは続かないと思っています。勝負どころは常に、「それをプロダクトにどれだけ落とし込んで、体現できるか」。「なんちゃって」な宣言にならないようにしたいですね。
弊社の開発メンバーも、「こういう技術が取り入れられたら、さらにサステナビリティを大きく訴求できるよね」という観点を常に持ってくれています。
ものづくりのメーカーとして、ものをどれだけ進化させられるかには、常にチャレンジしていきたいですね。
今後、「4つの約束」を会社全体として広げていこう、というお考えはありますか?
南村:世の中でこれだけ評価をいただけるのなら、この文脈をしっかり拾っていこう、沿っていこう、という流れになっていますね。
元々、「脱・フッ素コート」の部分も、ステンレスボトルだけで宣言することは、難しかったんです。でも、他の製品についてもすでに技術開発に取り組んでいるという背景があったので、宣言することができました。
最後に、今後チャレンジしていきたいことについてお聞かせください。
南村:やはり、今回発表した「4つの約束」について、さらに進化させていきたいですね。そしてそれを、きちんと世の中に対して発信していきたいです。
あとは、グローバルにタイガーボトルを展開したいですね。今後は世界中の人々に我々の「4つの約束」を広げていきたいです。
玉矢:ECサイトを立ち上げて、そこを通じて直接お客様とコミュニケーションを取れるところは、かなりの強みだと思っています。どんな関連商品が欲しいとか、どういうプロモーションに魅力を感じるか、といったことを伺って、それを今後に活かしていきたいですね。そして、そういったお声に応えることを通じて、もっと世の中にこの取り組みが浸透していったらいいなと思ってます。
文/本田恵理