持続可能な地球の未来をつくるため、大人は若者に、若者は大人に何を求めていくべきか?ユーグレナ初代CFO(Chief Future Officer: 最高未来責任者)である小澤杏子の問いかけをきっかけに、同執行役員で、ジーンクエスト代表でもある高橋祥子との対談を実施。2人がイメージする未来の姿や若者の進路選択、そして教育のあり方とは。小澤による高橋への質問から対話が始まります。
「高橋さんは、18歳以下の私たちの世代をどう思っていますか?」
「しらけ」「ゆとり」……いつだって世代は“くくられる”もの
高橋祥子(以下、高橋):「今の若い世代は……」と一口にくくるつもりはありませんが、傾向としては、今の若い人たちは従来の資本主義経済よりも、人とのつながりや体験、個人の価値観を尊重する「価値経済」にどんどんシフトしている印象があります。上の世代の人が高い車や広い家などモノを持つことをステータスとしていた時代とは違い、代替性がない価値を重視している人が多いように感じます。
小澤杏子(以下、小澤):親以上の年代の人からかけられる言葉と、ユーグレナの仲間からかけられる言葉では随分差があったりして、実際に、私たちは「若者」として一口にくくられることが多い気がします。
高橋:例えばどんな言葉ですか?
小澤:私は学校外での活動を昔から行ってきましたが、「日本の中高生って社会問題に対して冷めているよね」と言われることが多いです。
高橋:私は、全然そんなことはないと思いますよ。若者が冷めているのではなく、かつての世代とは情熱を傾ける対象が違うから、価値観が違う人にとっては見えにくくなっているだけなのでは、と思います。個人としての経済的な成功に情熱をかける人は減ってきているけど、社会的な意義がある取り組みへ目を向けている人は増えていると感じています。それは冷めているということではなく、そうした価値観は時代によっていつも変わるものだ、というだけの話なので、「今の若者は冷めている」という論調は、何も言っていないに等しいと私は思います。
小澤:自分の何倍も生きている人からすると、いろいろなことを見た上で今の若い世代は冷めていると思われているのかなぁ?と感じていました。
高橋:そんなことないと思いますよ。これはいつの時代も、年齢を重ねた分のバイアスがかかってしまうのは同じで、例えば私はいわゆる「ゆとり世代」の初期。「これだからゆとりは……」と言われ続けた年代です。もっと上だと、団塊の次の世代は、政治的な運動が収束して無関心になってしまった「しらけ世代」だと言われていました。いつだって世代はくくられるもの。その程度の話なので気にする必要はないと思います。
悩んでいるときは、選択肢が幅広い方向へ進んだほうがいい
高橋:ただ、各種の若い世代のアンケート結果などを見ていると、未来を悲観的にとらえている人も多いように感じます。
小澤:たしかに、日本の将来に悲観的な人が多い印象です。でも私の周りのコミュニティでは、「上の世代ができなかったことを自分たちで成し遂げよう」という意識の人も多いです。
高橋:以前、テレビ番組で、渋谷にいる若い人たちに「今後の日本をどう思う?」と聞くアンケートを実施していたのですが、意外にも楽観的な人が多かったんです。でもそれは、どちらかというと受け身の楽観主義で「別にこのままでもいいんじゃない?」みたいな回答が多かったです。私自身は条件付きの積極的楽観主義というか、「このままでは危ないんだけど、私たちが頑張れば何とかいい方向に進むのではないか」と考えています。
小澤:そうした「自分が頑張ろう」という社会問題へのモチベーションは、どんなタイミングから生まれてきたんですか?大学に入る前からモチベーションがありましたか?
高橋:私の家系は医師や研究者が多く、その影響もあって高校生の頃から「生命科学系の研究がしたいな」と思っていたんですね。その研究を通じて社会に役立つことができればいいな、と漠然と考えていました。でもモチベーションが加速したのは大学に入ってからです。遺伝子を活用した生活習慣病予防の研究をしているうちに研究にどんどんのめり込み、「これを社会に実装していくためにはどうすればいいのか」と考えた結果、ジーンクエストという会社を作ることにしました。もともと起業するつもりはなかったけれど、社会のために研究成果を世に出していく方法として見えてきた道でした。人は行動することで情熱が湧き出てくるものだと思います。きっと高校生の私に何をやりたいか聞いても、その選択肢を知らないので起業したいという答えは出てこない。その意味では、「やったことがないことを減らす」ことが大切なんだと思います。
小澤:私自身、高校1年生から腸内細菌の研究をしてきましたが、研究以外に、ユーグレナのCFOや、ほかにもいろいろなことを始めていくうちに、自分が何にいちばん興味を持っているのか分からなくなったこともありました。それを決めるのが、これから先の大学での課題なのかなぁとも考えています。
高橋:領域選択で悩んでいるときは、選択肢が幅広い方向へ進んだほうがいいと思います。私は大学で農学部を選びましたが、それは領域が幅広いから。経済を研究している人もいるし、水産や土壌や分子生物学を突き詰めている人もいました。「研究者か起業家か」の道を選ぶときにも、私は選択肢が広いほうを選びました。もし起業に失敗したとしても大学に戻ることはできるけど、研究者の道を選んで、その後50代で起業するのは難しいかもしれない。そんなふうに考えました。
「未来のストーリー」が今を豊かにしてくれる
高橋:小澤さんは地球規模の課題を自分ごととして認識しているからこそ、進路選択に本気で悩んでいるわけですよね。サミットメンバーも含めて、地球規模の課題を自分ごととして捉えられる人とそうでない人の違いは何で形成されると思いますか?
小澤:先ほど高橋さんがおっしゃっていた「受け身か否か」の部分だと思います。サミットメンバーの仲間は、解決すべき問題だと感じる事柄に対して、何かしらの形で自分からぶつかっていった経験を持っています。そこで得た学びや発見が能動性をもたらしているんじゃないでしょうか。アフリカの人が苦しんでいると聞いて同情することは簡単ですが、大切なのは想像力をはたらかせられるかどうかだと感じます。
高橋:そうした想像力の豊かさは、どうやって形成されると思いますか?
小澤:私の場合は、自分の視野を広げるために、とにかくいろいろな環境に首を突っ込みました。
高橋:まさに「体験」ですね。これからの教育に必要なものはそれかもしれません。ひたすら正解のある問いを解く、ではなく、体験を通じて自ら問いを立てる。そんな教育が大切なんだと思いますね。
小澤:これまでの教育って、それこそ受験勉強などは、与えられた問いに対する決められた一つの正解を探すことばかりやっていますよね。もちろん、受験勉強などといった机上での教養も非常に大切だと思いますが。
高橋:そうした与えられた問いを解くことよりも、問いを作る力の方が社会に出てから本当に役に立つと思いますね。私が学んだ生物学の知識は今に生かされているものの、研究や事業のベースになっている最も役立った学びは、大学院時代の研究で、世界の流れを知り、自ら問いを立てて、仮説検証のサイクルを回して発信していったことでした。それは「何をやりたいか」という問いを自分で立てる力につながっていると思うんです。
小澤:そういえば、私が日本とアメリカの社会をそれぞれ体験して感じた違いもそこでした。アメリカでは、自分のやりたいことを周囲にはっきりと言う人が比較的多い印象です。企業のトップが「やりたい」と言うことで実現性が大きく変わるように、私は発言した上で行動に移すことに価値があると思うんです。
高橋:日本の場合、やりたいことを言わないのは「言ったのに失敗したら恥ずかしいから」という風潮が多いように感じます。本当は必死にテスト勉強をしているのに「全然勉強してないよ」と友だちに言っちゃうとか(笑)。「めっちゃ勉強したー!」と言える人が増えたらいいなと思います。
小澤:そうですよね。自分の夢を言うことは恥ずかしくない、そんな社会にしていかないと心が豊かにならない気がします。挑戦して失敗しても、そのプロセスを評価すべき。それこそが成長につながるわけですよね。「失敗は成功のもと」と言いながら、失敗をさらけ出す文化はまだまだ日本には浸透していないんじゃないかと思います。いろいろなことを体験してみるのも同じで、見えない世界を想像して怖がるのではなく、自分の目で見てから判断すべきだと思っています。
高橋:私は、「未来のストーリー」が「今」を豊かにしてくれる可能性もあると思っています。「地球の二酸化炭素濃度は努力すれば改善できる」というストーリーがある「今」と、「努力したところで悪化する一方だ」という「今」では、豊かさがまったく違う。だから、私は未来へのポジティブなストーリーを語り続けていきたいし、きっと日本の未来を担うリーダーになるであろう小澤さんにも、そうあってもらえたらうれしいです。未来を描く力は、若い人のほうが強いはずだから。
文/多田慎介