急速にサイエンスが発展している中で、科学リテラシーを向上させることが重要となっています。私たちは、日々様々な情報が流れるニュースをどのように読み解けば良いのでしょうか。
今回は、「文系でも誤解しないサイエンス系ニュースの読み方」を題材にそのポイントを、ユーグレナ社執行役員/株式会社ジーンクエスト社長、そして生命科学者の高橋祥子が解説します。
サイエンス系ニュースを読む際のポイントは3つ
―ニュースの中でも、読みづらいなと多くの人が感じやすいサイエンス系ニュースですが、上手にサイエンス系ニュースを読み解くコツはありますか?
高橋:サイエンスに日ごろから関わっていないと取っかかりづらいですよね。
サイエンス系ニュースを読む際は3つのポイントを意識するといいと思っています。そのポイントとは、
1. 因果関係
2. 部分と全体
3. 情報源
です。
「因果関係」と「相関関係」は違う?
―「因果関係」「部分と全体」「情報源」ですか…?
…すみません、意味がわからないので、まず1つ目のポイントである「因果関係」から説明してもらえますか?
高橋:事例で話すとわかりやすいので、事例を出しますね。
例えば、以前「気持ちが若い人は脳も本当に若かった」というタイトルのニュースがありました。そのニュースに対するネット上のコメントには「脳も気の疲れからなのか」「脳の老化を防ぐためにまずは気持ちを若く保とう」というようなものが並びました。
しかしニュースで書かれているのは『気持ちが若い人の脳を調べた結果、脳の構造が衰えていない人が、気持ちも若いことが判明した』という内容。
脳が若いから気持ちが若いのか、気持ちが若いから脳を健康に保てる生活習慣が送れるのか、その因果関係は定かではない、と書かれています。
すなわち、コメントの『気持ちが若い⇒脳も若い』という因果関係はこのニュースからわからないわけですね。
―なんと。でもコメントした方々の気持ちわかります。自身もタイトルにつられやすいので...
高橋:そうですね。でも、ニュースのタイトルは少ない文字数で限られた情報だけが書かれていることも多いので、特にサイエンス系ニュースの場合はそのまま受け取ってしまうのは要注意。タイトルで話の流れのイメージを持ってしまいそうなのはぐっとこらえて因果関係に目を向けてみましょう。
因果関係をとらえるについて具体的に説明すると、事象Aと事象Bの関係性を示すニュースにおいて、AとBのどちらが因果関係として先に来るのか、その順番をしっかりと見つける必要があります。
加えて、A⇒Bであるから、B⇒Aであるとは必ずしも限らない事に気を付ける必要があります。そして、大前提として、何が「A」か「B」かを正しく把握することも重要ですね。
また、研究系のニュースや発表では、AとBの関係性の誤解が起こりがちです。
「Aが原因となってBという結果が起きる」というような関係は「因果関係」ですが、「Aが多いほど、Bも多い傾向がある」というような「一方の変数の増減にあわせて、もう一方の変数も増減する」というような「相関関係」もあり、それを混同してしまうとまた誤解をしてしまうので気を付けるとよいと思います。
この辺りは『「原因と結果」の経済学』という本がオススメです。
(因果関係は相関関係のうちの一つ)
一部分に関する研究結果と全体の話を混同してはいけない
―事象の立ち位置をきっちり把握するということですね。メモメモ。
2つ目の「部分と全体」についてはどういうことですか?
高橋:「部分と全体」に関しても事例で説明したいと思います。
例えば、「お金持ちになれるかはDNAで決まっていたことが判明」というタイトルのニュースがありました。タイトルだけ見ると「あ、遺伝子レベルでお金持ちになれるか決まっているのか(自分はもともと違うのかも…)」と捉えられてしまうか。
しかし、実際には「遺伝要因が影響すること」と「遺伝要因のみで決まること」は全くの別のことで、お金持ちになることに影響する多くの要素のうちの一部に遺伝要因があるだけに過ぎないです。95%は違う要因にも関わらず、5%でも要因として関わっていたら、このようなタイトルのニュースになる可能性があります。
ほかでは例えば、2型糖尿病は遺伝要因が約30%と言われていますが、「糖尿病になるか否かは、遺伝子で決まっていた」と書いたら嘘になるのは明白です。したがって、サイエンス系ニュースを読むときは、そのニュースが伝えているのは、一部分の話なのか、全体の話なのかをしっかりと吟味して把握する必要があります。
―うう、これは間違えてしまいそうですね。一部分を強調してそうな意見も結構見る気がします。
高橋:一部分を取り出すのはやはりインパクトがあるニュースにしやすく、受け手の関心を寄せやすいからだと思います。
なお、いわゆる否定記事で「一部分のみを取り上げて伝える」ものは多く見られると思います。例えば、「ゲノム編集は精度が高いが、一部予測できない部分もある」という現状において、否定記事は「ゲノム編集は悪だ」といわんばかりのタイトルになることもありますが、これば「一部予測できない部分がある」という点を全体に取り上げて否定する方向になっているということです。
そもそも、サイエンス系ニュースは、科学自体が常に進化しているので他のニュース分野と比べて一部のわからない部分をピックアップした否定記事が多く見られます。理由としては、常に進化過程になるので、少し未来の話をしている人、今現在の話をしている人などの複数の時間軸で議論する人が入り混じり、伝える内容の全体像が見えづらいからです。なので、サイエンス系ニュースの中でも否定っぽさを感じるニュースを読むときは、特に慎重に読む必要があります。
以前、NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパンの編集長・西川さんが、「強固に反対する人ほど、自分には科学知識を持っているとの自信がある。かつ、強硬に反対する人ほど、科学知識の評価の点数が低い」と書かれていました。
これは、強固に反対する人ほど、科学リテラシーが低く、物事の全体をとらえることが困難であると言うことです。しっかりとした科学リテラシーを持つことで、ニュースが一部分のみを取り上げているものなのか、全体を踏まえたものなのか、判断することができるようになります。
―前回のお話で、「科学リテラシーをあげることで、自分の世界を広げることができる」とありましたが、まさにこれに当てはまりますね。
~後編に続く~
株式会社ユーグレナ 執行役員バイオインフォマテクス事業担当
/株式会社ジーンクエスト 代表取締役
高橋 祥子(たかはし しょうこ)
京都大学農学部卒業。2013年6月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に株式会社ジーンクエストを起業。2015年3月に博士課程修了、博士号を取得。個人向けに疾患リスクや体質などに関する遺伝子情報を伝えるゲノム解析サービスを行う。2018年4月株式会社ユーグレナ 執行役員バイオインフォマテクス事業担当 就任。
受賞歴に経済産業省「第二回日本ベンチャー大賞」経済産業大臣賞(女性起業家賞)受賞、第10回「日本バイオベンチャー大賞」日本ベンチャー学会賞受賞、世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ2018」に選出など。
著書に「ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?-生命科学のテクノロジーによって生まれうる未来-」。
遺伝子解析プラットフォーム「ユーグレナ・マイヘルス」