「藻類」といえば、海藻であるワカメや昆布を連想される方もいるかと思いますが、「微細藻類(びさいそうるい)」といわれて、その実態をご存じの方はそう多くないと思います。
『小さな生物”藻“が地球の未来を変える!?「微細藻類」とは?』。第1回は、微細藻類の生物学上の位置づけや、太古の時代より地球環境に果たして来た役割などについて解説します。(全3回の第1回)
「藻類」「微細藻類」って何だろう
「藻類」はコケ植物、シダ植物、種子植物といった陸上植物以外で光合成を行う生物で、淡水、海水といった水中に生息します。
以前は植物に分類されていましたが、近年では教育の場でも生物を「動物界」「植物界」「菌界」「原生生物界」「モネラ界」の5つに分ける「5界説」が一般的となっており、「藻類」は植物とは区別され「原生生物界」に分類されるようになってきました。
私たちの身近な藻類として、ワカメや昆布、海苔、ひじきやもずくなど、食卓ではおなじみの海藻があります。
ワカメや昆布のように肉眼で見ることのできる藻類を「大型藻類」、肉眼では識別困難で1マイクロメートルから1ミリメートル程度の非常に小さな藻類を主に「微細藻類(びさいそうるい)」と呼びます。
基本的には単細胞生物で、水中を浮遊して生息している微細藻類は植物プランクトンとも呼ばれることもあり、その種類は数10万種ともいわれています。
微細藻類は生態系において重要な役割を果たしている
微細藻類は池や湖などの淡水や海、水中の堆積物などで生息しており、光合成を行います。
光合成は、太陽光を利用して二酸化炭素を固定し、酸素と炭水化物を作り出すプロセスです。
微細藻類は地球上の酸素の約50%を生成するともいわれており、そのため地球上の生態系において重要な役割を果たしています。
微細藻類は、哺乳類が誕生するよりもはるかに昔である約30億年以上前に地球に現れ、現在の地球環境の土台をつくってきました。
進化の過程で光合成ができるようになり、太古の地球に酸素が産生されたと考えられています。
そして、現在も地球上の酸素の約半分を微細藻類が産生しています。
微細藻類は酸素の産生だけでなく、食物連鎖にもなくてはならない存在です。
微細藻類などの植物プランクトンをミジンコなどの動物プランクトンが食べ、その動物プランクトンを小魚が、次にその小魚を大型魚が食べ、人間が大型魚を食べる、というような食物連鎖、つまり生命の連鎖の基盤になっているのです。
食物連鎖を通して、微細藻類は人間の食料になっていると考えることもできるかもしれません。
微細藻類は地球環境の基盤を作り、そして今もなお地球上の生命をつないでいます。
現在、地球上には気候変動や食料危機、環境破壊など多くの課題がありますが、微細藻類はそれらの課題を解決するかもしれない素材として、持続可能な未来に向けて注目されています。
微細藻類の種類にもよりますが、注目されている主な機能や特徴として以下のようなことが挙げられます。
・生産効率が高いこと
増殖速度が速く、水温、窒素、リンなどの肥料成分、太陽光などの条件が整えばすぐに増殖し、単位面積当たりのバイオマス(生物資源)の生産効率は陸上植物に比べて高いです。
・農地と競合せずに培養可能なこと
農地として利用できない場所でも培養できます。
・連作可能であること
同じ土地で連続して培養し収穫できるため、土壌のバランスを保ちながら効率的に育てることができます。
・二酸化炭素を吸収すること
光合成により二酸化炭素を吸収します。
・バイオ燃料の原料になる種類がいること
体内にバイオ燃料の原料に適した油をつくるタイプの微細藻類は、エネルギー業界で注目されています。
・豊富な栄養素をもっていること
豊富な栄養素をもつものも多く、食品や健康食品として利用されています。
・健康に関するさまざまな機能性をもっていること
免疫力向上や生活習慣病の改善効果などのさまざまな機能性を有しており、さらなる機能性について研究されています。
このように、数十万種あるといわれている微細藻類の中から、それぞれの特徴や機能を活かしてさまざまな分野における研究や応用が進められています。
次回は、微細藻類の私たちの生活に役に立つ機能についてお伝えします。(全3回の第2回に続く)
■監修
中野 良平(なかの りょうへい)
株式会社ユーグレナ R&Dセンター 共同センター長
八重山殖産株式会社 代表取締役社長2007年 東北大学大学院農学研究科 博士課程修了。2007年 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士研究員に就任。2008年 株式会社ユーグレナに入社。2016年に同社の生産技術開発部長に就任。2017年にユーグレナグループの八重山殖産株式会社の代表取締役に就任。2018年に株式会社ユーグレナの執行役員生産技術開発担当に就任。2024年、R&Dセンター センター長に就任。