2022年からスタートした、ユーグレナ社のサステナブルアグリテック事業。複雑な社会課題の解決に挑む狙いは何か。現状の取組と今後について、ユーグレナ社 執行役員 新規事業本部長の井上陽介が語りました。

バイオマスの5Fにある飼料・肥料領域でビジネスを本格的にスタート

ユーグレナ社の基本戦略として位置付けているバイオマスの5F(Food, Fiber, Feed, Fertilizer, Fuelの頭文字“F”)に沿って重量単価の高いものから順に事業展開しており、創業した翌年から健康食品や化粧品などヘルスケア領域を中心に事業を展開してきました。そして2022年ユーグレナ・グループは新たなビジネスのサステナブルアグリテック領域(Sustainable Agri-Tech≒SAT)に本格参入しました。「人と地球を健康にする」というパーパスのもと、グループの事業成長が社会課題の縮小につながるという“「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」”体現のため、SAT領域に存在する社会課題縮小を目指し、有機肥料の販売や飼料の研究開発などに取組んでいます。

「バイオマスの5F」イメージ

具体的には、微細藻類ユーグレナや、バイオ燃料の原料となる油脂をユーグレナから抽出した後の残渣、そのほかユーグレナ・グループ内外の未利用資源を、飼料や肥料へと活用し、循環型農業への実現に貢献する取り組みを行っています。

サステナブルアグリテックが目指す「循環型農業」イメージ

SAT領域の社会課題は多様に存在する

農林水産省が発表した「みどりの食料システム戦略」ではいくつかの社会課題が記載されています。その内容として主に、海外製品への依存、化学肥料の環境負荷影響、国内の生産者・労働力の減少、高齢化の進行※1があげられます。
日本はエネルギー資源が乏しい国なので輸入に頼りながら経済成長を続けてきました。しかし海外製品に依存し続けると、昨今の地政学リスクに伴う物価高や為替影響、輸送にかかるコスト負担や温室効果ガスに伴うカーボンフットプリントなど、農業従事者や地球環境にも影響を及ぼす可能性が考えられます。輸入依存は資源供給面や価格面でもリスクとなるため、国内の資源安全保障確保という点で対策が必要ではないでしょうか。
また、化学農薬や化学肥料には多くの窒素やカリウム、リンなどが含まれています。特に窒素やリンはプラネタリーバウンダリーの概念に基づくと環境負荷要因として既に地球が許容できる限界値を超えているとさえ報告されています。そのため政府は2050年までに化学農薬の使用量を50%削減、化学肥料の使用量を30%削減し、有機農業に取り組む面積を100万haまで拡大するという目標を掲げています。これにより輸入依存からの脱却も狙えます。
人的な側面に目を向けると、2022年に日本の人口の約30%は65歳以上となり超高齢社会に突入しました。そのため労働集約的な作業に携わる農業従事者が不足することにつながり、日本の生産活動への支障が懸念される昨今です。

SAT領域の事業はこうした社会課題を踏まえ、農業や畜産業、漁業などのジャンルから幅広く社会問題を捉え、自社の既存事業とのシナジーを生み出す事業の展開を目指しています。

※1 農林水産省 みどりの食料システム戦略

ユーグレナ社の研究開発×微細藻類をベースとしたSAT事業の取り組み

■微細藻類ユーグレナ配合培養土の「やさしい栽培キット」※2
SAT事業から初めての個人向け商品となったのが、2023年8月発売の「やさしい栽培キット(ベビーリーフサラダミックス)」。食品グレードとしては使用しない規格外原料であるユーグレナ粉末等を培養土に配合することで、土の中の微生物の働きが活発になり、植物の根張りを向上、その後の成長を促進させることが期待されます。また、ヘルスケア事業における原料生産で生じた食品規格外のユーグレナ粉末を活用することで、資源の有効活用も実現する商品です。

「やさしい栽培キット」商品イメージ

※2 2023年8月28日プレスリリース https://www.euglena.jp/news/20230828-2/

■農林水産省による「ペレット堆肥の広域流通促進モデル実証」※3
これは未利用資源の一つである家畜排せつ物をペレット堆肥として活用し、広域流通させる取り組みの実証実験で、具体的には、ユーグレナ社が代表機関として中日本(中部地方および近畿地方)の事業者・生産者等とコンソーシアムを組み、鶏ふん堆肥を原料にした混合堆肥複合肥料の開発・製造を行うというもの。この肥料を使って、現場レベルでの技術課題の解消や複数作物向けの栽培試験などを実施します。また、農業生産者への調査を通して、混合堆肥複合肥料の機能・性質の周知が堆肥の流通促進にどのように影響するかを検証していく予定です。

※3 2023年9月21日プレスリリース https://www.euglena.jp/news/20230921-2/

■微細藻類ユーグレナと海藻のカギケノリの混合飼料※4
SAT事業の最初の成果は、2023年4月に発表した帯広畜産大学と共同開発した飼料です。同大学の生命・食料科学研究部門・西田武弘教授と共同で行ったこの研究では、ユーグレナと海藻のカギケノリ※5の混合飼料が、牛や羊などの反芻家畜※6の健康を損なうことなく、排出されるメタン※7の量を軽減することを確認しました。

※4 2023年4月12日プレスリリース https://www.euglena.jp/news/20230412-2/
※5 カギケノリ:紅藻と呼ばれる海藻の一種
※6 反芻家畜:牛や羊、ヤギなどの反芻動物の家畜。一度飲み込んだ食べ物を再び口に戻して咀嚼し、胃が4つあるのが特徴
※7 メタン:CH4。二酸化炭素に次いで気候変動への影響が大きな温室効果ガス。湿地や水田、家畜および天然ガスの生産など、その放出源は多岐に渡る

左・ユーグレナ粉末(イメージ)、右・カギケノリ(赤紫色の海藻、イメージ)

畜産業においては近年、その環境負荷や飼料原料の不足・高騰などの課題に直面しており、代替となる飼料原料を見つけることが急務となっています。なかでも、牛をはじめとする反芻家畜が、飼料を消化する過程で胃から放出する大量のメタンを抑制・軽減することは喫緊の課題。今回の混合飼料はその解決の糸口となるべく、さらなる研究を進めています。

■微細藻類ユーグレナ残渣を養魚用飼料の代替原料に※8
続いてSAT事業として発表したのが、2023年6月の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業※9として取り組んでいた研究結果です。
ユーグレナからバイオ燃料の原料となる油脂を抽出したあとの残渣を用いた水産養殖試験において、ユーグレナ残渣が養魚用飼料の代替原料になる可能性を確認できました。
従来、魚の養殖においては天然魚を養魚用の飼料に使用するのが一般的でしたが、水資源を守るためにも代替原料が必要とされてきました。今回の研究は飼料の魚粉依存を減らすことにつながるため、持続可能な漁業へと貢献する研究成果となっています。

※8 2023年6月27日プレスリリース https://www.euglena.jp/news/20230627-2/
※9「バイオジェット燃料生産技術開発事業/微細藻類基盤技術開発/微細藻バイオマスのカスケード利用に基づくバイオジェット燃料次世代事業モデルの実証事業」

SAT事業を通して資源サーキュラーの実現を目指す

上述の通り、SAT事業のミッションは「テクノロジーの力で第一次産業を持続可能な形へとアップデートすること」です。長年当社が研究し続けてきた微細藻類を含むバイオマス未利用資源の研究を通じ、資源サーキュラー(資源循環)を確立しようと取り組んでいます。資源サーキュラーの考え方は生産、消費、リサイクルが循環し究極的には廃棄物を出さないという考え方です。まさにサステナブルですね。
私たちは国産の有機肥料を製造・開発し、一般市場へ流通させることで、輸入原料に依存しない国産の有機肥料の地産地消を狙っています。これによって海外製品からの脱却、輸送コスト削減や為替影響なども受けなくなりますし、地産地消ですがから効率的です。
環境的な側面として化成肥料には窒素やリンが含まれ、それが使用されれば当然一部は残留します。いずれ窒素やリンを含む土壌が流出した先では富栄養化がおこり、赤潮の発生原因にもつながります。結果的に生態系破壊にも影響する可能性があるので、国産の有機肥料開発、販売は自然保護の意義もあると考えています。

2022年12月には、当社はENI(イタリア)、ぺトロナス(マレーシア)と3社共同でバイオ燃料製造のための商業プラント建設に関する発表をしました。そこで使われる原料の一部に藻類も活用する予定ですが、いずれ原料として大規模な生産が求められると想定しています。私としては、藻類残渣の活用によるバイオ燃料事業とのシナジーを見込んで、アジア展開も視野に入れ、ヘルスケア事業、バイオ燃料事業に次ぐグループ第3の柱として収益拡大に貢献したいと考えています。
今後もSAT事業ではさまざまな取り組みを実施していきますので、ぜひご注目ください。

2023年12月19日、ユーグレナ本社オフィスでメディア向けに行われたSAT事業説明会

[プロフィール]

井上 陽介(いのうえ ようすけ)
株式会社ユーグレナ 執行役員 新規事業本部長
2022年、株式会社ユーグレナ入社。サステナブルアグリテック事業部長としてサステナブルアグリテック事業を立ち上げ、飼料・肥料ビジネスをはじめアグリテック領域全般を管掌。2022年、ユーグレナ・グループの大協肥糧株式会社 代表取締役就任。2024年1月よりユーグレナ社の執行役員 新規事業本部長に就任。