気候変動問題の解決に向けたアクションのひとつとして、飛行機のフライト時に排出される二酸化炭素の削減が指摘されており、SAF(Sustainable aviation fuel)はその有効手段として近年注目を集めています。
この記事では持続可能な航空燃料、“SAF”について詳しく解説します。
SAFとは?
SAF(サフ)とは「Sustainable Aviation Fuel」の略で、日本語では「持続可能な航空燃料」を意味します。次世代の航空燃料とも呼ばれるSAFの最も注目すべき点は、化石燃料と比較して二酸化炭素の排出量を大幅に削減できるということです。
化石由来の燃料に代わる、持続可能な燃料「SAF」
人類の活動によって排出される二酸化炭素の量のうち、全体の2~3%を航空機が占めています。従来、航空機の燃料には主に化石燃料が使われており、二酸化炭素排出量を軽減するために、航空各社ではこれまで燃費の良い機体の採用やエンジン洗浄など燃料の削減に取り組んできました。
二酸化炭素の排出量軽減の取り組みの中で、より排出量を削減するための手段として近年登場したのが、化石由来の原料を使用しないSAFです。
持続可能な原料から製造されるSAFは、従来使われてきた化石燃料と比較して、約80%の二酸化炭素排出量を軽減することができます。また、化石燃料と混合して使用することができるため、既存の航空機や給油設備などにそのまま使用できる点も大きな特長です。
このSAFの製造・利用を拡大することで、航空業界として二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを目指しています。
SAFの原料とは
現在、SAFの原料となるのは、主に植物などのバイオマス由来原料や、飲食店や生活の中で排出される廃棄物・廃食油などです。
化石燃料は、使用サイクルにおいて一方的に二酸化炭素を排出するだけのリサイクルできないものでした。ですが、SAFの主な原料となる植物は光合成を行うため、二酸化炭素を一方的に排出するだけではなく、リサイクルしながら燃料として使用できるのが持続可能といわれる理由です。
これらの原料は環境に配慮した画期的なものではありますが、燃料の原料として使用するためには十分な量の確保が必要です。そのため現在は、安定的に原料を集め、製造を行う仕組みづくりが課題となっています。
SAFの製造方法
SAFには「ASTM D7566」と呼ばれる国際規格が存在します。「ASTM D7566」は2022年現在、7種類の製造方法が承認されており、製造方法に応じて従来の燃料への最大混合率も定められています。
SAFの主な製造方法として、
・都市ゴミや廃材などをFischer-Tropsch法により製造する方法(FT)
・使用済み食用油や植物油などを水素化処理することで製造する方法(HEFA)
・バイオマス糖などのアルコールから製造する方法(ATJ)
・脂肪酸エステル・脂肪酸の熱変換・水素化処理により製造する方法(CHJ)
が挙げられます。
その中でも現在、最も普及しているのが、使用済み食用油などを水素を使って製造する「HEFA」です。今後は排ガスや大気中の二酸化炭素から燃料を精製する「PTL」の技術が向上し、SAFの生産量のうち大半を占めることになるといわれています。
しかし、SAFは従来の燃料と比較して原料コストが高く、製造コストが2~10倍かかるとされ、今後はコストを抑えた製造技術の開発が課題です。
SAFの安全性
従来の燃料とは異なる原料で作られているSAFですが、燃料としての特性は従来の燃料とほとんど変わりません。そのため、安全性についても、従来の燃料とほとんど変わらないといわれています。このように、SAFの導入・利用は安全性に配慮したルールのもとで行われています。
またSAFの導入においても、新たな機体やシステムなどを必要としないため、既存のインフラをそのまま活用できます。
なぜ今、SAFが注目されているのか
いま、SAFが大きな注目を集めている背景には、深刻化する気候変動問題や、その対策として近年進められている、カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みがあります。
気候変動問題の深刻化
地球温暖化がもたらす気候変動は、深刻化しています。世界の気温や海水温度は上昇を続けており、このまま対策を行わなかった場合、21世紀末(2081~2100年)の世界の平均気温は、20世紀末と比較して最大で4.8℃の上昇が予想されています。ほかにも北極域の海氷の減少や、台風の発生頻度の増加などの影響が予想されており、これらの気候変動問題により、農作物や生態系、私たちの生活にまで大きな影響をもたらすとされています。
そのため気候変動対策は現在、世界全体で取り組むべき喫緊の課題となっているのです。
カーボンニュートラル社会の実現
気候変動問題への対策として重要なのが、温室効果ガスの排出量削減です。2015年に締結されたパリ協定では、世界の平均気温上昇を2℃より低く保つとともに、1.5℃に抑えるよう努めるため、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとることを長期的な目標として掲げています。
そのような状況の中で各国が目指しているのが、「カーボンニュートラル社会」です。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を同じにし、実質的な排出量をゼロにすることです。日本語では炭素中立ともいわれます。パリ協定で定められた目標を達成するためには、カーボンニュートラルな社会を実現することが必要不可欠です。
日本でも2020年10月に、2050年までに大気中に排出される温室効果ガスを実質ゼロにするという宣言が行われており、アメリカやEUなどでも、2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けた宣言や取り組みが行われています。
SAFはカーボンニュートラルの切り札
カーボンニュートラル社会を実現するためには、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を削減するだけでなく、二酸化炭素を吸収する仕組みを作り、強化する必要があります。
SAFも燃焼時に二酸化炭素を排出するという点は変わりません。ですがSAFは、原料となる植物などが二酸化炭素を吸収するため、原材料の生産から燃焼までのサイクルの中で、排出量と吸収量のバランスをとることができ、従来の化石燃料と比べて、約80%の二酸化炭素の排出量削減に繋がるとされています。
気候変動問題の解決に向け、SAFはカーボンニュートラル社会を実現するために重要な仕組みであるといえます。
世界のSAFへの取り組み
気候変動問題への対策やカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みの中で、世界各国のSAFへの取り組みは拡大しています。
ヨーロッパ
EUでは2050年の二酸化炭素排出量の実質ゼロを目指すため、SAFの導入促進を行っています。EUの成長戦略であるグリーンディール政策の中では、航空会社への出発時のSAF補給の義務化や、SAFの供給割合の段階的な引き上げが明示されました。
エールフランスでは2022年からフランス・オランダ発のすべての便でSAFが導入されるほか、エアバスとSAFを製造するフィンランドのネステは、100%SAFを使用した旅客機の運航の実証を進めています。
アメリカ
アメリカでは2050年までに、航空部門で使用される燃料を全てSAFに置き換えるという目標を掲げています。この目標を達成するために、アメリカ国内ではSAFの生産量拡大を進めており、SAFの生産・利用に携わる企業への資金援助や、技術開発が盛んに行われています。
ユナイテッド航空ではSAFの使用拡大を目指し、2021年4月に「エコ・スカイズ・アライアンス・プログラム」が開始されました。このプログラムはユナイテッド航空とグローバル企業がSAFの購入・利用拡大のための投資を行うもので、現在20社以上の企業が参画しています。
またユナイテッド航空では2021年12月に、片側エンジンにSAFを100%搭載した機体でのフライトを成功させるなど、SAFを使用したフライトについても実証を進めています。
日本
日本では2030年までに国内の航空会社が使用する航空機の燃料のうち10%をSAFに置き換えることを目標にしています。しかし、目標達成に向けては、SAFの国産化が大きな課題です。そこで経済産業省はSAFの製造技術の確立や普及に向けて、各団体・企業と連携した技術開発や実証実験を進めています。
ANAではSAFを使用した定期便の運航が既に行われている他、JALでも一部フライトでSAFが使用されており、国内でのSAFの製造や導入に向けた取り組みが進んでいます。
SAFの国産化に向けて
各国で導入が進むSAFですが、必要とされる量に対して、製造量が追いついていないのが現状です。日本では現状SAFの調達を輸入に頼っている状態ですが、SAFを必要としているのは各国共通であり、輸入に頼るのみでは今後の利用拡大は見込めません。国内でSAFを安定的に調達し、従来の燃料から置き換えていくためには、SAFの国産化が必要不可欠です。
このような状況の中で、ユーグレナ社では、国産のSAFの製造に積極的に取り組んでいます。
ユーグレナ社のバイオ燃料「サステオ」
ユーグレナ社が研究・開発に取り組む「サステオ」は、使用済みの食用油と微細藻類ユーグレナから抽出されるユーグレナ油脂を原料に製造されるバイオ燃料です。従来のバイオ燃料は、作物を主な原料とする場合が多く、食料との競合や森林破壊などの問題がありました。ですが、植物を原料とせず、使用済みの食用油と微細藻類ユーグレナを原料とするサステオには、食料との競合や森林破壊といった影響が生じません。そのためサステオは、名前の由来でもある「サステナブルなオイル」ということができるのです。
サステオのジェット燃料はSAFの国際規格「ASTM D7566 Annex6規格」にも適合しており、2021年から供給が開始されています。2022年3月現在では、D7566 Annex6において、航空機への燃料搭載のためには既存石油系ジェット燃料と50%までの混合が義務づけられています。
日本をバイオ燃料先進国に 「GREEN OIL JAPAN」
バイオ燃料の開発、普及に取り組むユーグレナ社は、2018年10月に「GREEN OIL JAPAN」宣言を行いました。「日本をバイオ燃料先進国にする」という目標を掲げるこの宣言には、2022年現在で40以上の企業・団体が参画しています。
「GREEN OIL JAPAN」宣言を通してユーグレナ社が目指すのは、国内でバイオ燃料事業を産業として確立し、陸・海・空すべてのモビリティでの導入拡大を行うことです。具体的には2025年までにバイオ燃料の大規模生産と商業化体制の整備、2030年までにバイオ燃料の産業化を目指しています。
各国でSAFの製造・利用拡大に向けた取り組みが進む中で、日本国内でのバイオ燃料の製造・流通に向けた体制確立は急務です。ユーグレナ社では日本国内でのバイオ燃料の製造・利用が当たり前になることを目指し、取り組みを続けています。