栄養失調で苦しむ世界中の子どもたちを救いたい。
創業時からの思いを実現するために2014年から始まった「ユーグレナGENKIプログラム」(以下GENKIプログラム)では、これまでに約690万食のユーグレナ入りクッキーをバングラデシュの子どもたちに届けてきました(2018年12月末時点)。 そして、2017年にはバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプでもユーグレナ(ミドリムシ)クッキーを配布。
企業として多くの協賛者とともに地球を救う。ユーグレナ社はそんな「ソーシャルグッド(ビジネス)」に取り組み続けています。その現場では何が起きているのか。代表取締役社長・出雲充に聞きました。
「GENKIプログラム」、そして「言葉も出ない人がほとんど」の難民キャンプで
―「GENKIプログラム」は6年目に入り、着実に実績を積み上げてきました。現状の手応えをどのように感じていますか?
出雲: 私たちは「GENKIプログラム」として、毎日1万人分のユーグレナクッキーを給食としてバングラデシュの小学校で配布し、配布を開始した2014年4月からトータルで 約690万食を届けてきましたが、「まだまだ」だと思っています。
バングラデシュは世界でも最貧国と位置づけられ、人口は1億6000万人を超えているし、昨年からは隣国のミャンマーから約85万人ものロヒンギャ難民と呼ばれる人たちが避難してきている状況ですから。 これがどんなに大変なことか。
そんな中、一昨年に、会社の仲間たちから「GENKIプログラムに加えて、難民キャンプへのユーグレナクッキーを届けたい」という提案が上がりました。それでバングラデシュ現地の工場へお願いして1日2万個ほど増産してもらって、約1カ月をかけて準備し、 実際に2017年末には20万食をロヒンギャの難民キャンプへ届けるという活動も行いました。
―難民キャンプでの反応はいかがでしたか?
出雲:それは、一言では表現しづらいですね。
朝の暗いうちから、大人たちはもちろん、おじいちゃんやおばあちゃん、小さな子どもをおんぶしている小学生くらいの女の子など、たくさんの人たちが並んで待っているんです。私たちが用意できたのは20万食だから、全員分はありません。それでも受け取った人は喜んでくれるのかと思っていました。
「ありがとう」は、ベンガル語では「ドンノバード」。10人に1人くらいは私たちにそう言ってくれましたが、あとは言葉も出ないという感じの人がほとんどでした。
それはすごくよく分かるんです。みんなヘトヘトなんですよ。朝5時から並んで、15時近くになってようやく受け取ることができたという人もいる。それを自分のテントに持って帰るだけではなく、誰かに盗まれないようにしっかり守らないといけない。そんな状況です。
20万食を届けたといっても、「数が足りていないじゃないか。85万食を届けなきゃ意味がないじゃないか」と言われるかもしれません。でもその現場では、とにかく栄養が不足しているんです。あれこれ議論していてもきりがなくて、誰かが何かを届けなければ何も始まりません。
考えていても仕方がないから、まずは行動してみよう
―そうした光景は……実際に現場へ行ってみなければ想像もできないかもしれません。
出雲:この話をすると「自分は行ったことがないから申し訳なく思う」と言う人も多いです。
でも私は、こうした反応が残念でもあるんです。別に後ろめたく思う必要は何もない。「GENKIプログラム」もですが、当社のやっていることがどんな規模かも関係ないと思います。それぞれのフィールドで、ベストを尽くしているかどうか。私が知らないことに取り組んでいる人もたくさんいるわけですから。どんな活動に重きを置くのか、重要度の高低も人によってさまざまでしょう。
―しかし、1カ月を費やしてクッキーを増産し、難民に20万食を届けるというのは、ビジネスとして考えると簡単には行動できないように思います。なぜそのような声が社内から上がり、実際に進めることができたのだと思いますか?
出雲:その質問の前提には、「ロヒンギャの難民キャンプへ食料支援するのは非常に難しいことだ」という考えがあるのではないでしょうか。
私自身、ロヒンギャの難民キャンプといっても住所がどこなのか知らないし、どれくらいのグループがあるのか知らないし、そもそもユーグレナクッキーを届けていいものなのかどうかも分かりませんでした。
だけど、せっかく首都のダッカで「GENKIプログラム」というものをやっているのだから、難民キャンプへ行って渡すのはできるんじゃないかな、と考えたわけです。考えていても仕方がないから、まずは行動してみようと。
それこそ難しいと思われるポイントを挙げればいくつも出てきます。
例えば、クッキーは2tトラックで運びますが、バングラデシュは河川国で低湿地帯が多い。橋が流されてそのままになっている場所も多い中で、トラックが渡れる場所はあるのかと。私が行った際には、トラックの運転手さんが道路事情をギリギリまで見定め、頑張ってあちらこちらに迂回しながら何とか届けてくれたんです。
困難をピックアップしたらキリがありません。でも目標が具体的に定まれば、やり方を考えるようになります。「橋を迂回して進める、地元の人しか知らないルートがある」という情報を手に入れるとか。
動機が善で、「やってみよう」という前向きな仲間が大勢いる。それがすべてです。
~後編に続く~
文:多田 慎介
株式会社ユーグレナ 代表取締役社長
出雲 充(いずも みつる)
駒場東邦中・高等学校、東京大学農学部卒業後、2002年東京三菱銀行入行。2005年株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。
世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leader、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」(2015年)受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書社)。