日本を代表する寿司店、銀座「久兵衛」。二代目主人として江戸前寿司の魅力を伝える今田洋輔さんは、「このまま地球環境が悪化し続ければ、寿司の“粋な食べ方”が失われてしまう」と話します。

久兵衛とユーグレナ社がコラボレーションした企画「寿司が消える日」。久兵衛にとっては決して歓迎できない未来を想定したテーマの企画ですが、なぜ久兵衛はコラボレーションしたのでしょうか。地球環境の未来と海の生き物たちに向けた思いを語っていただきました。

久兵衛×ユーグレナ「寿司が消える日」
地球温暖化の進行により魚の生息が変化し、寿司ネタの消滅が起こる可能性を考える企画。各寿司ネタが食べられる最後の日を特設WEBサイトで公開し、そして、その最後の日に銀座久兵衛を予約できる。2019年のSDGs週間に合わせて開始した。

魚はすべて養殖になってしまうかも

―なぜ「寿司が消える日」という企画に興味を持ったのでしょうか。

今田洋輔さん(以下今田):それはもう、地球温暖化を深刻な問題だと考えているからです。我々もその影響を受けてしまう可能性がある。

南の海ではグレートバリアリーフやサンゴ礁がダメージを受けています。日本の近海だってそう。例えば、海中の植物が育たなくなると、小さい魚が安心して身を隠せる場所がなくなります。10年後はどのような環境になっているのかなと心配しています。

今田さん

今田 洋輔 Yosuke Imada (銀座久兵衛2代目主人)
幼いころ から先代が寿司を握る姿を見て育ち、自然と寿司の世界に入る。高校を卒業して他店で修業後、1965年に銀座久兵衛入店。以来、父親である先代の今田壽治氏と共に経営に参画する。1985年、今田壽治氏の逝去に伴い二代目主人となる。寿司の世界を代表する職人である。

ふり返ってみると日本には長らく、「経済が何より重要」と考える時期が続きました。昭和の時代には水俣病に代表される公害が問題となり、その後も海を汚染してきた。うちは天然モノにこだわりたいと思っているけど、このままではいずれ、魚はすべて養殖になってしまうかもしれません。

マグロを握っていると分かるのですが、養殖だと切り身から脂肪が垂れてきてしまうんです。細胞がゆるんでしまっているのかな。広大な海の中を泳ぎ続けている天然モノの場合は脂肪が垂れてくることはありません。

―市場などで魚の変化を実際に感じることはありますか?

今田:市場を歩いていて直接感じるわけではないけれど、関係者から聞こえてくる話はあります。気になるのは貝類です。寿司屋でも人気の赤貝などは、漁獲量の減少を心配する人が多いようです。

また、最近では「サンマの不漁」が話題になりましたね。因果関係はさまざまでしょうが、マイクロプラスティックによる海洋汚染なども懸念しています。

取材風景

個人・企業・国家、それぞれが全力でやらなきゃいけない

―地球環境の変化によって将来的に漁獲量が減ってしまった場合、寿司を取り巻く環境にはどのような影響があるのでしょうか?

今田:寿司に限らず、和食全般で新鮮な魚介類を使いますよね。ステーキ店のお肉と同じで、和食を提供するにあたり魚はメイン食材です。ステーキ店の場合は一切れ目から最後まで全部ステーキだけど、寿司はマグロや白身、貝など、最低でも8種類から10種類のネタで成り立っています。

こうしたさまざまなネタの中から自分で好きなものを選べるのが寿司の魅力でしょう。職人にコースをお任せするのもいいですが、自分なりの好みや季節に合わせてネタを選び、自分なりのコースをつくるのが寿司の「粋な食べ方」というもの。

だけど、魚が獲れなくなって多彩なネタを用意できなくなると、こうした粋な食べ方もできなくなってしまいます。数百年単位で守られてきた伝統が揺らいでしまうかもしれない。

取材風景

―和食を代表する寿司は海外でも大人気です。今田さんは海外からの来店客と接する機会も多いと思いますが、日本と海外の方では地球環境への意識の差を感じますか?

今田:僕は海外の要人が参加するパーティーでも寿司を握っていますが、そこでは「サスティナブルシーフード」を使うことが求められることもあります。海外では、そうした集まりも多く、地球環境に関心を持つきっかけになっているのかもしれません。

取材風景遠目

―今回の企画をきっかけに、海洋生物が暮らす環境に興味を持つ方も多いと思います。今田さんからぜひメッセージをお願いします。

今田:僕は根っからのケチだから、店ではいつも「水や電気を無駄づかいするな」と言っています。だけど、これからはもっともっとシビアに地球環境について考えていかなきゃいけないなと考えています。

地球温暖化や海の環境変化をいかにして食い止めていくか。ユーグレナ社がバイオ燃料の活動に取り組んでいるように、それぞれの業界で、各個人・各企業・各国家が全力でやらなきゃいけません。それが僕たちの、未来への責任でしょう。寿司を通じて新しい気づきを届けられればうれしいですね。

店の前

※文章中敬称略

編集:多田慎介/撮影:庄子慶太