2019年、ユーグレナ社は、地球と会社の“未来”を考える18歳以下のCFO(Chief Future Officer)を募集しました。多数の応募をいただき、1名のCFOと8名のメンバーを選出。現在、ユーグレナ社のSDGsに関するアクション、および達成目標の策定に携わる会議「フューチャーサミット」の開催などを行っています。
今回はCFOに選ばれた小澤杏子と、サミットメンバー最年少の小学生・檜垣大峯が、応募のきっかけや活動の手応え、将来的な展望などを語り合いました。
「サメ」も「アントシアニン」も、同じテーブルでフラットに語れる
—改めて、自己紹介をお願いします。いま興味を持っていること、なぜ今回のCFO募集に応募したのかも合わせて教えてください。
小澤杏子(以下、小澤):私は東京都内の、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)、SGH(スーパーグローバルハイスクール)の認定を受けている高校に通っています。高校ではバスケットボール部の活動や授業に加え、腸内細菌とアントシアニンの関係について研究しています。
—どうして研究対象としてアントシアニンを選んだのですか?
小澤:一般的に、アントシアニンといえばブルーベリーの色素というイメージが強いけれど、実は人体内で良い働きをする物質でもあるんです。それに対して、最近のヘルスケア領域で注目されているのが腸内環境の改善。
この2つには何らかの関係性があると見込まれているものの、詳しくはまだ解明されていない。その基礎研究に興味を持ったのが最初のきっかけですね。
研究している内容との関係もあって、もともと、微生物に関する研究成果をビジネスにつなげているユーグレナ社の事業に興味を持っていたんです。そんな中、今回のCFO募集を知って応募しました。
檜垣大峯(以下、檜垣):僕はいま小学生で、1年の約半分をカナダで過ごしています。所属している孫正義育英財団の財団生からCFO募集を紹介され、応募しました。
—特にサメに興味があるとか?
檜垣:そうなんです。頭の中の80%くらいはサメのことを考えています。3歳のときに、「いおワールドかごしま水族館」で初めてジンベエザメを見て、最初はエサやり係になりたいと思いました。その後、他の水族館でもサメを見て、どんどん興味がわいていって。
小澤:こんなにサメが好きな子って会ったことなかったから、斬新だなと思いましたね(笑)。
檜垣:他の人が、そこまで興味を持っていないところもおもしろいんです。サメは恐竜がいた中世代より前に出現して、同じくらいの大きさの爬虫類などが大量絶滅しても生き延びてきた生物。そういう事実をもっと、社会に発信したいっていう気持ちがあります。また、サメをはじめとする海洋生物や海洋環境に関しても考えていきたいです。
小澤:サミットメンバーそれぞれが、ベクトルは違っても環境や社会に対する課題意識を持っています。一人ひとりの興味分野についても、ディテールは違うけど共通項がある感じでおもしろいですね。
重要なのは「11歳」ではなく自分のビジョンや考え
—小澤さんと檜垣さんは年齢差(17歳と11歳)があるけれど、とても仲がいいですね。お互い、はじめて会った時の第一印象はどうでしたか?
小澤:実は、CFO就任が決まったときに一番懸念していたのが、バックグラウンドの違うメンバーとのコミュニケーションでした。実際に会ってみたらみんな個性が強くて、なかでも彼(檜垣)が飛びぬけてた(笑)。
檜垣:僕は、はじめて彼女(小澤)に会ったとき、「CFOはきっとこの人だろうな」と思いました。すごく堂々としていたし、人間的にCFOっぽいなって。
小澤:そんなこと思ってたんだ…!
檜垣:確かにメンバーはみんな、年齢も、興味のあるトピックも違うけど、環境や社会課題に興味があってCFOに応募したわけだからその点は共通しますね。
小澤:特に年齢に注目するのは日本の特徴かも。彼(檜垣)のようにカナダに住んでいたりするメンバーもいるし、私も海外に住んでいたことがありますが、海外では年齢よりも実力を重視するので、あまり年齢の話にならないかもしれません。
檜垣:たとえば僕の場合、僕のビジョンや考えが重要なのであって、11歳なのが大事なわけじゃない。CFOやほかのサミットメンバーだって同じ。それを前提として、お互いの意見を尊重してコミュニケーションをとることが重要だと考えています。
小澤:私は何らかのかたちで社会に役立つことをしたいとずっと思っていたのですが、そういう話って学校の友達と話すトピックじゃないんです。サミットメンバーとはむしろそういった軸で話ができるから興味深いです。
多様性のなかに見つける刺激と発見に価値がある
—2030年に向けたユーグレナ社のSDGsに関するアクション、および達成目標の策定に携わる会議「フューチャーサミット」では、メンバー間でどういったディスカッションをしましたか?
小澤:「世の中の関心を環境に向けるためのPR企画を考える」というテーマが出されて、それぞれがアイディアを出しました。1カ月で100個。なかでも彼(檜垣)が51個で、一番多かったんですね。
檜垣:アイディアを磨くんじゃなくて、量をたくさん出すというのがおもしろかったです。僕は、何かを考えるときは何度も見直して大丈夫かどうか確認する習慣があるから、新鮮でした。小澤さんのアイディアは、僕のとは違うタイプで新鮮でした。
小澤:私は、企業が既に取り組んでいる活動を拡大する視点で、具体的な案を出しました。でも全く異なる価値観を持つ9人だから、注目するポイントもみんなそれぞれ違うのが興味深かったです。
檜垣:ミーティングでは、「(SDGsをはじめ、環境問題に取り組むことが)『かっこいい』というトレンドをつくろう」っていう話も出ました。
小澤:そのトピック1つで、確か40分くらい盛り上がってた気がします。
檜垣:「かっこいい」とか「かわいい」「おもしろい」って人それぞれの感覚だから、そこにフォーカスするのは難しいですよね。
小澤:だからまず前提となる「しくみ」をつくり、そのしくみのうえで感覚に訴える方法を考えることはできるかも…という方向で議論しました。
檜垣:例えば「スターバックス」に自分のマグを持って行くと、ディスカウントされるサービスがありますよね。海外ではスターバックス以外でも実施されています。日本のカフェでも、こうした「しくみ」をもっと広げていければいいよね、とか。
小澤:そうそう。スーパーなどではエコバッグを持参すると値引きされたり、ポイント付与があったりするので、定着の素地はあると思うんです。あと必要なのは、そういったアクションを当たり前に実践できるしくみだと考えています。
—これからの活動をどんなふうに展開していきたいですか?
小澤:ユーグレナ社のCFOとして未来の会社や環境のことを考える機会を与えてもらった以上、世の中に影響を及ぼす結果を残したいです。
檜垣:ただ小中高生が話し合った…っていうだけで終わらせたくはないという気持ちはありますね。
小澤:私たちは、世の中の仕組みに関する知識などまだまだ未熟な部分があります。考えることはできても、実現できるかと言われれば不安な面もあります。
でも、9人のメンバーが力を合わせればできるんじゃないかという予感もあるので、きちんと形にしていきたいですね。
研究への想い、結果へのこだわりを貫いていきたい
—最後に、お2人それぞれが将来的に目指していきたいことを教えてください。
小澤:私は、日本の研究環境の改善を目指していきたいと思っています。自分自身、SSH制度の支援を受けながら研究活動を行っていますが、当事者になってはじめて得た気づきがたくさんありました。
—例えばどんなことですか?
小澤:研究を進めたい気持ちはあっても、資金集めの活動なしにはそもそも研究を継続するのが難しいとかですね。私も、この1年のうち半年くらいを直接的な研究以外の活動に時間を使ったような気がします。その時間を研究に充てられれば、もっと研究を進められたかもしれないのにという思いがあります。
檜垣:研究の環境や体制を整備するのはお金がかかることだけど、最終的には全員の利益につながるはずだから、日本でももっとできるようになるといいですよね。
小澤:本当にそう思いました。私自身で言えば、資金集めの活動も貴重な経験になりましたが、もっと早くより良い未来を引き寄せるには、研究環境の改善が欠かせないと感じました。そういう面で貢献できる大人になっていきたいです。
檜垣:僕は、研究者になりたいと考えています。あたたかくて、優しい研究者に。
—あたたかくて優しい研究者ですか?
檜垣:僕はこれまで山中伸弥先生をはじめ、いろんな研究者の方にお会いしたことがあるんですけど、みなさんすごくあたたかくて優しかったんです。研究者って、良い結果を出せばそれでいいっていう職種ではないと思うんです。
小澤:研究はそれ自体で完結するものじゃないですもんね。意義とか内容を、専門外の人にもきちんと理解してもらえないと、研究そのものの価値が落ちてしまうし。
檜垣:だからこそ、いろんな人たちと丁寧にコミュニケーションをとって、きちんと意見を聞いてもらえる努力が大事なんだと考えています。僕もそんな研究者として、自分の好きなサメや海洋研究、地球環境の研究に携わっていきたいです。
ユーグレナ社の活動でもちゃんと結果を出して、自分たちが目指す未来を実現していきたいですね。
小澤:私の場合、より良い社会や地球環境を実現するためには研究支援などしくみの整備が必要だという考えから、CFOへの応募につながりました。これからもそういう目線は忘れることなく、社会や地球環境をより良くし、次の世代にも問題意識を伝えていけたらと思っています。
※文章中敬称略
構成:黒田あき/撮影:内田麻美/編集:大島悠