さまざまな可能性をもつ「微細藻類(びさいそうるい)」。微細藻類はなぜ食品に利用されるのか。
『小さな生物”藻“が地球の未来を変える!?「微細藻類」とは?』。第2回は、食品分野で利用されている微細藻類とその特徴についてご紹介します。(全3回の第2回)

微細藻類が産業に利用されている、または産業に利用するため研究開発が進められている分野をあげると、
・食品
・燃料
・化粧品
・その他(肥料・飼料)
などがあります。

現在、産業利用およびそのために研究されている主な微細藻類の種類です。
・クロレラ 健康食品や安全な食物着色料 など
・ミドリムシ(学名:ユーグレナ) 食品、化粧品、肥料、飼料、バイオ燃料の原料、バイオプラスチックの原料 など
・スピルリナ: 健康食品や安全な食物着色料 など
・コッコミクサ: 健康食品や飼料 など
・クラミドモナス: バイオ燃料 など
・ボツリオコッカス: バイオ燃料 など
・オーランチオキトリウム: 健康食品やバイオ燃料 など
・ドナリエラ: 化粧品や健康食品 など
・ナンノクロロプシス: 健康食品、飼料 など
・ヘマトコッカス: 健康食品 など
・シュードコリシスティス: バイオ燃料 など
・イカダモ: バイオ燃料 など

微細藻類の食品分野での利用

すでに社会実装されて久しいのが、食品分野での利用です。
戦後の1945年ごろから、食料難を解決するために食料としての微細藻類の大量培養の方法が研究されてきました。
微細藻類が健康食品や食品に利用されるのには、
・連作が可能で短期間で収穫ができる
・陸上植物にくらべて成長スピードが速い
・豊富な栄養素をもつ種類がある
・単細胞生物のため、その細胞一つに生きるための必要な栄養素を含んでいる
・研究によって免疫力アップや生活習慣病の改善効果などの機能性が認められている
など、さまざまな理由があげられますが、その中でも「栄養素」が一番の理由ではないでしょうか。

微細藻類のなかには、タンパク質や脂質、炭水化物、ビタミンなどさまざまな栄養素を作りだすことができる種類があり、クロレラ・ユーグレナ(ミドリムシ)・スピルリナなどはサプリメントなどの健康食品や食品の原料として利用されています。
シゾキトリウム・ナンノクロロプシス・ヘマトコッカス・ドナリエラなどはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、アスタキサンチン、βカロテンなどの成分を抽出して利用されています。

ユーグレナ(和名:ミドリムシ)

食品に利用されている微細藻類は様々な種類がありますが、当社では「ミドリムシ」として知られるユーグレナを中心に食品の研究開発を行っています。

ユーグレナ粉末と顕微鏡画像

ここからはユーグレナの特徴について説明します。
ユーグレナにはほかの微細藻類にない「特技」があります。
藻なのに、虫や動物のように光を求めて自ら移動する(動く)ことができるのです。ユーグレナは、細胞の一部が細長い糸状に伸び,運動性をもつ鞭毛(べんもう)と呼ばれる器官を持っています。
顕微鏡でユーグレナを見ると、鞭毛を見ることができるかもしれません。
一見、1本に見えますが、じつは 2 本で、1 本は短く、細胞の中に隠れた状態で存在し、1本だけが長く細胞の外に伸びて細胞の周りで回転することにより、ユーグレナは動くことができるのです。
ユーグレナは単細胞でありながら眼点(がんてん)と言われる光を受容する器官を持ち、光を感じ、その情報により鞭毛を回転させて光のある方向に移動したり、強い光の時には光源から回避する動きもできることから、眼点は最も原始的な眼と考えられています。
ユーグレナという名前の由来にもなっていて、ラテン語でeu- (ユー)とは「真の、美しい」、-glena(グレナ) は「眼」という意味です。

「眼点」と言われる器官で光を感じ、「鞭毛」で動くことができます

ユーグレナは含まれる栄養素にも特徴があります。
植物性の栄養素と動物性の栄養素の両方をバランスよく含んでいるのです。
ユーグレナには、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸など、59種類もの栄養素が含まれており、人間が生きていくために必要な栄養素すべてもっているとも言われています。

ユーグレナ10億個分(約1000mg)に含まれる栄養素を他の食材にたとえるとこんなにもたくさん!

※代表性のある特定ロットのデータを元に算出した目安値です。
石垣島ユーグレナは天然物なので成分値にはばらつきがあります。

また、ユーグレナには野菜などの植物やほかの微細藻類にある「細胞壁」がないため、消化率がよいという特徴もあります。
細胞壁は細胞を守るための植物にとってとても重要な構造ですが、人にとって栄養素の消化率を妨げることもあるのです。

植物と動物、両方の性質がある微細藻類ユーグレナ。吸収を妨げる細胞壁を
もたないため、93.1%という高い消化率を誇ります

栄養豊富で消化率が高く栄養素を体に吸収しやすい、そんな食品原料がユーグレナなのです。
※微細藻類ユーグレナとは? https://www.euglena.jp/whatiseuglena/

さらに、ユーグレナは希少成分であるパラミロンを多く含んでいます。
パラミロンはキノコなどに多く含まれるβ-グルカン(食物繊維)の一種で、パラミロンを摂取することで
・腸内バランスが整い、腸の動きが活発化される
・乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌のエサになるので、菌を増やしお腹の調子を整える
といった主に腸内環境を整える健康への効果が期待されています。

パラミロンの機能性に関する研究では、
・大腸がんの抑制
・免疫バランスの調整
・アトピー性皮膚炎の症状緩和
・インフルエンザ症状の緩和
・胃潰瘍症状の緩和
・自律神経バランスの調整
などの成果が報告されており、今もさまざまな研究が進んでいます。

※ユーグレナおよびパラミロンの研究レポート: https://www.euglab.jp/report/euglena/
※パラミロンってなに?ユーグレナ独自の成分であるパラミロンの基本情報とそのはたらきについて解説!https://www.euglab.jp/column/euglena_clm/000465.html

撮影:青山学院大学 福岡伸一教授

ここまで、ユーグレナに含まれる栄養素について述べてきました。
ユーグレナはどんな味がするのか気になりますよね?
ユーグレナは、食品原料として加工する際に粉状にします。「粉状にします」と述べましたが、とても小さい単細胞生物なので、そのまま乾燥させると粉状になるのです。感じられ方は人それぞれなのですが、食品原料として加工する前の純粋なユーグレナの粉は、磯のような香りがします。この粉をこのまま食べることもできるのですが、摂取しやすいように、主にサプリメントや飲料に加工されています。

最近ではそのバリエーションが増え、
・麺類
・スポーツ飲料
・ふりかけ
・スナック類
・調味料
などの加工食品も登場しています。

クロレラ

当社では「ユーグレナ」のほかに「クロレラ」と「オーランチオキトリウム」という微細藻類も食品原料として扱っています。
微細藻類のなかで知名度がもっとも高いのがクロレラではないでしょうか。

※クロレラとは?: https://www.euglena.jp/chlorella/

クロレラ粉末と顕微鏡画像

クロレラは、1960 年代に健康食品として活用されはじめました。
構成成分の半分はタンパク質でできており、葉緑体(クロロフィル)が多く含まれているのが特長です。
多くの国々で健康食品として親しまれているほか、退色しにくい鮮やかな緑色をしていることから安全な食品着色料としてもつかわれています。

葉緑体(クロロフィル)が多く含まれています
構成成分の半分はタンパク質でできています
繁殖能力が高く、20 日後には1兆個にまで増殖します
着色料としても使われています

従来、クロレラは「野菜代替素材」のイメージがありましたが、この20 年で食品機能に関する学術研究が大きく進展し、近年では「多機能性のスーパーフード」として見直されています。
これまで発表されたクロレラの機能性関連の論文数は推定数百を超え、おもに生活習慣病の症状緩和や抗酸化/抗炎症、毒素吸収阻害/排出、免疫賦活などのカテゴリーで研究が進められています。

オーランチオキトリウム

今年から当社が商業用に生産を開始したのがオーランチオキトリウムです。

オーランチオキトリウム粉末と顕微鏡画像

※2024年1月26日のニュースリリース:https://www.euglena.jp/news/20240126-2/

オーランチオキトリウムは、DHAを豊富に含んでおり、海水と淡水が混ざる汽水域に生息する微細藻類です。
人間の必須栄養素の一つであるDHAは、よく「魚を食べることで摂れる」といいますが、魚に含まれているDHAは、魚がオーランチオキトリウムを食すことによって魚の体内に蓄積されているのです。
漁獲高の減少など海洋環境の持続可能性が危惧される昨今において、DHAを高含有するオーランチオキトリウムは、サプリメント原料のほかプラントベースのシーフード代替素材としての活用などが期待されています。

オーランチオキトリウムの加工イメージ(左から、人工の白子、人工のウニ、ラーメンのスープ)

微細藻類、なかでもユーグレナの食品への応用を中心についてお伝えしましたが、次回は食品以外の応用についてお伝えします。(全3回の第3回に続く)

■監修
中野 良平(なかの りょうへい)
株式会社ユーグレナ R&Dセンター 共同センター長
八重山殖産株式会社 代表取締役社長
2007年 東北大学大学院農学研究科 博士課程修了。2007年 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士研究員に就任。2008年 株式会社ユーグレナに入社。2016年に同社の生産技術開発部長に就任。2017年に
ユーグレナグループの八重山殖産株式会社の代表取締役に就任。2018年に株式会社ユーグレナの執行役員生産技術開発担当に就任。2024年、R&Dセンター センター長に就任。

【第1回】太古の時代より現代まで地球環境を育み、さらに持続可能な未来に向けて注目される「微細藻類」とは

【第3回】食品以外でもさまざまな分野での利用が期待される「微細藻類」