スイム(水泳)、バイク(自転車ロードレース)・ラン(長距離走)の3種目を、一人のアスリートが連続して行う耐久競技、トライアスロン。高橋侑子さんは、アジア競技大会2連覇、アジア選手権3大会チャンピオン、そして日本選手権を3度制覇した戦績を持つ、アジア大陸ランキングNo.1の選手です。
2019年より、ユーグレナ社のスポーツ用飲料ブランド「SPURT(スパート)」が提唱する「サステナブル・アスリート」に参画し、商品も愛飲いただいています。
現在はポルトガルに拠点を置きながら、日本女子のエースとして世界の頂点を目指して戦う高橋選手に、「アスリートのサステナビリティ」をテーマに、海外での競技生活や女性アスリートの活躍、今後の活動について、お話をうかがいました。

※ 現役の競技生活の中で「アスリート自身の健康維持」はもちろん、 「地球の健康への配慮」、「途上国への健康支援」という3つの「健康」視点で無理のない持続可能な活動を実践し、また、競技生活から離れた後も健康を継続維持し、セカンドキャリアを歩んでいくことを目指すアスリートのこと。

すべてを楽しむ姿勢が、強さにつながる

―高橋選手は海外に拠点を置き活動されていますが、海外に拠点を移した時期やきっかけを教えてください。

高橋侑子さん(以下、高橋):主な拠点はポルトガルですが、現在はフランスにいるんです。2017年から海外へ拠点を移して、レースの開催場所に合わせていろんな国々を転々とするような生活を送っています。日本に住んでいたときにも海外のレースにたくさん出場していたのですが、そのなかで海外のトップレベルの選手に出会い、彼らがどんなことをやっているのか興味があって。今のコーチと相談して、海外に拠点を移すことに決めました。大荷物を持って常に転々としているので、周りからは「キャンパー」と呼ばれています(笑)。

―海外だと日本とは文化も異なりますし、食事管理なども大変そうですね。

高橋:もともとトライアスロンはいろんな環境下で行われるものなので、普段から異なる環境に適応しておくのは大事だと思っています。それに、実はそこまで苦労しているわけではないんです。食事に関しては「この食べ物がないとだめ」といったこだわりはなく、その土地で手に入るもののなかで、良いものを選んでいます。気を付けているのは、バランス。その国によっていろんな食べ物がありますが、栄養が偏らないよう、バランスはとても重視していますね。特に、緑黄色野菜など彩り良く食べることを意識しています。

―環境変化に対して順応しやすいというのは、アスリートとして大きな強みですね。高橋選手は変化に強く、楽しんでいる印象ですが、その理由は何ですか。

高橋:そうですね。小さい頃から両親に海外旅行に連れて行ってもらっていたので、外国に抵抗感がないのかもしれません。もちろん子どものときは食べ物の好き嫌いはありましたが、今はどんなものにも対応できるようになりました。日本とは違うものを楽しむことが、順応するコツなのかもしれません。

少し苦労したのは、言葉の問題です。最初に拠点としたアメリカでは、「英語を間違えたらいやだな」と気後れして、あまりしゃべれなかったり。なんとなくは聞き取れるけれど、すぐに反応できないことも多かったですね。そんな状況を、コーチもチームメイトもわかってくれて、いろいろサポートしてくれました。周りの人々のおかげでそこまで不自由なく暮らしてこられたという感じですね。いろんな国々の選手とともに生活するなかで、苦労よりも新鮮な楽しみのほうが勝っていたように思います。

トライアスロンの世界で進む、女性アスリートの長期的活躍に向けた取り組み

―一般的に女性アスリートは男性アスリートよりも選手生命が短いとされています。女性アスリートがより長く活躍するために、どんなことが必要でしょうか。

高橋:確かに一般的には女性アスリートのほうが、先の人生を考えたときに早く一線を退く判断をする人もいるでしょうが、私は競技に注ぎ込む意志があれば続けられる世界だと思っています。そのため、あまり「女性だから」というふうには考えたことがないですね。それから、競技によっても選手生命の長さに差があるでしょう。トライアスロンは比較的長い方で、出産して復帰する選手もいます。

また近年では、トライアスロンを統括する国際競技連盟の「ワールドトライアスロン」で、女性アスリートの復帰をサポートするようなシステムを作り始めています。トライアスロンは2年間の成果がランキングに反映され、それによってレースの出場が決まるという仕組みなのですが、妊娠出産で期間が空くと、ランキングはどうしても下がってしまいます。そこで、そのような不利益を解消しようという流れになっているようです。お母さんになっても戻ってこられる環境になりつつあるのは、とてもよい傾向ですよね。

―競技全般に言えることですが、参加基準や賞金額などの面においても性差の出るケースがあるようです。トライアスロンはいかがでしょう?

高橋:少なくともトライアスロンに関しては、男女平等になっていると思います。レースの参加人数や参加基準も同じですし、賞金も差がないはず。私としては、女性だからといって不公平等感を抱く機会はそこまでなかったように思います。今後はスポーツ業界全体でこのような男女平等の考え方がもっと広まって、どの競技においてもみんなが納得できるシステムになるといいですね。

トライアスロンで広がる視野と次のステップ

―アスリートの中には、副業をしている人やセカンドキャリア考えている方もいるとお聞きします。選手生活で得たことを活用して、今後どのようなことをしていきたいと考えていますか。

高橋:以前から考えていたのは、今年(2024年)をトライアスロン人生の集大成にしたいということです。そのため、最近は自分が何をしたいのか、そして何ができるのかを考える時間が増えてきましたね。ただ、実際に終わってみないとわからないことが多いのが正直なところです。今は「絶対にこれをするんだ」とはっきり決めているわけではありません。

ただ、次世代の選手の育成状況を考えると、自分にできることがありそうだな、という思いはありますね。周りの人からも、今まで培ってきたことを次世代に伝えてほしいという言葉をいただくことがあります。

―周りからそのような声があるというのは、育成者として適していると見られているということですね。何かきっかけはあったのでしょうか。

高橋:具体的に指導者になりたいと思っているわけではありませんが、以前、日本の知人から、学生選手を私の合宿所に参加させてほしいと頼まれたことがありました。それまで日本にいることが少なかったので、そんな機会はありませんでしたが、次世代の選手と交流するうちに、こういう機会をもっと積極的に設けていけたらと思うようになりました。これから国体と日本選手権に出場する予定なので、日本にいる間は次世代の選手と一緒にいられる時間を作りたいですね。

高橋:トライアスロンはまだまだマイナーですが、生涯スポーツになるような素晴らしい競技です。3種目もあって確かにきついのですが、その分奥が深いスポーツ。私の視野をぐっと広げてくれたので、もっと多くの方々にトライアスロンを知ってほしいですね。

トライアスロンやスポーツだけでなく、どんなことにも挑戦することの難しさや壁に直面することはありますが、チームジャパンのスローガンとしてある”一歩踏み出す勇気を”という言葉が私にはとても響いています。一歩踏み出してみて良かった経験があるからこそ、また次の一歩も勇気を持って踏み出せていると思います。私はトライアスロンを通して、みなさんにも勇気を与えるようなレースをしていきたいです。ぜひ、みなさんにもそんな気持ちを持って色々なことに挑戦してほしいです。

今回、高橋選手にお話を伺い、何事もポジティブに捉える思考や楽しむ姿勢が、サステナブルな競技生活を支える強さの源であることがわかりました。トライアスロンという過酷な競技において、環境や文化の違いを楽しみ、順応することで成果を上げてきた高橋選手。「サステナブル・アスリート」として前向きに挑戦し続ける姿勢は、多くのアスリートにとっても、一般の方々にとっても大きな指針となることでしょう。今後も高橋選手の活躍と挑戦を心から応援しています。

<プロフィール>
高橋 侑子(たかはし ゆうこ)
父の影響で兄や妹と一緒にトライアスロンをはじめ、ジュニアカテゴリーで活躍。
2007年にトンヨンASTCトライアスロンアジアカップでジュニア日本代表として国際大会デビュー。
日本学生選手権4度優勝。2014年ブラジリアFISU世界大学選手権に日本代表として選出され、7位入賞。2016年二ヨンFISU世界大学選手権では念願の世界チャンピオンに輝く。
2013年日本デュアスロン選手権優勝。2015年世界デュアスロン選手権7位入賞。シーズンオフはデュアスロンレースや海外で長期合宿をすることが多かったが、2017年1月からPaulo Sousaコーチ率いるチームに加入、海外に拠点を置き主にヨーロッパでトレーニングを行う。
アジア競技大会(2018/ジャカルタ・パレンバン)個人・ミックスリレーでW金メダル獲得。2018年、2019年日本選手権優勝。
2017年、2022年アジア選手権個人・ミックスリレー優勝。東京2020オリンピック競技大会でオリンピック日本代表に初選出され、個人18位、ミックスリレー13位。パリ2024オリンピック競技大会で2度目のオリンピック出場を果たす。

文/福光 春菜