近年、野菜中心の食生活を送る「ベジタリアン」や、動物性の食品を口にしない「ヴィーガン」への志向が世界的に広がるなか、新たに植物由来の食品を表す「プラントベース」という概念が注目されています。そこで今回は、国内最大級のプラントベース・ポータルサイト「Vegewel(ベジウェル)」※を運営するユーグレナ・グループのフレンバシー社代表の播と、ユーグレナ社 ヘルスケアカンパニー ブランドマネージャーの本間が、プラントベースを取り巻く現状や、商品開発を通して実現したいビジョンなどについて語りました。
植物由来の食品「プラントベース」が今注目されている理由
播:私が2015年に起業したフレンバシー社は、植物性に特化したプラントベースのポータルサイト「Vegewel」などを運営する会社で、2022年にユーグレナ・グループに参画しました。
本間:ユーグレナ社では、2023年10月にプラントベースのサプリメントを発売したのですが、その商品開発や販促にはフレンバシー社の知見やノウハウを活かすことができ、グループインによるシナジーが早速生まれています。今やプラントベースは世界的に広がりつつある概念なので、グループ全体で取り組んでいきたい重要テーマになっていますね。
播:そうですね、最近では大手外食チェーンやコンビニ・スーパーでも、プラントベースの商品を取り入れる動きがあります。
本間:新しい言葉なので、景品表示などに関しては消費者庁もガイドライン(※)を出していますね。
播:まだプラントベースの明確な定義はないのが現状ですが、菜食主義やベジタリアン、そしてヴィーガンなどに思想的要素が含まれるのに対し、プラントベースは「植物性の食品」を示す点ではっきりとした線引きがあるのが特徴です。これまでは、例えば食品の提供側が「ヴィーガンの方向け」と明記してよいか迷うところ、プラントベースなら動物性の素材が不使用なら明記できるわけですよね。目の前の食べ物が、動物性なのか植物性なのか、原材料の話に焦点を絞った点が普及の背景にあるようです。
本間:リスク管理の面で汎用性があるということですね。植物由来の食品は世界的に見ると様々な理由から選ばれていますが、日本では主に健康食のひとつとして見られているようですね。
播:確かに、世界的には環境保護や動物愛護などの観点で選ばれることも多いのですが、日本ではヘルシー志向のイメージが強いかもしれません。そのため、プラントベースの食品を訴求する際には少し難しい点もありますね。
本間:「植物由来イコール健康によい」という単純な図式で語れないのが食の分野ですからね。
播:そうなんです。ただ、プラントベースの食品は、環境への負荷が低いものもあるというのは、事実としてあります。例えば食肉用に牛を育てる場合、大量にCO2を排出しますよね。牛が出すメタンもよく問題視されています。それから、畜産業は土地の利用も環境負荷があって、開拓のための森林伐採だけでなく、動物の排泄で土地が汚染されるという面もあります。さらに水も大量に必要で、日本はまだ水資源は切迫していませんが、世界的には非常に重要な課題です。
本間:その点、プラントベースミートは比較的環境負荷が少ないと言えますね。
播:日本ではまだプラントベースの訴求を模索している最中ですが、欧米のスーパーなどではベジタリアンやヴィーガン用のコーナーに大きなスペースを割いています。そのため、世界的には需要はもっと伸びるし、少なくとも縮小することはないだろうと想定されています。
※消費者庁「プラントベース食品等の表示に関するQ&A」
プラントベースが日本国内で広がるために必要なステップ
本間:プラントベースが日本国内で広がっていくには、どんなことが必要になるでしょうか。
播:プラントベースの市場は個人向けと、飲食店などの法人向けがありますが、日本は東京オリンピック・パラリンピックの開催もあり、インバウンドによって飲食店対応が必要になることが予想されていたので、法人向けが先行していました。ただ、外国の方への対応という文脈よりは、最近はCSRの観点から、大手企業が既存品をプラントベースへ置き換えるという動きが活発になっています。そういった動きによって、消費者の方々がプラントベースの食品を目にする機会が増えそうですね。
本間:先日、ある大手コンビニでツナのおにぎりを買ったのですが、そのツナの半分が植物由来だったんですよ。このやり方はすごくいいなと思いましたね。いきなり全部をプラントベースに振り切るのではなく、少しずつ移行したり、半分だけ取り入れたり。プラントベースの食品は味の違和感が課題になることが多いと思うので、ステップを踏んで取り入れるのはベターかもしれませんね。
播:その通りですね。私もコンビニの玉子サンドで、一つが動物性、もう一つが植物性でセットになっていて、食べ比べることができるという商品を買ったことがあります。こういうやり方も革新的です。味の課題は徐々に解消されてきているとも聞きますし。
本間:味や価格の問題はもちろんありますが、まずは食品を選ぶ前提として、環境への意識がもっと高まるといいですよね。日本ではサステナビリティ重視で買い物をするという価値観はまだまだ定着していませんが、2023年夏の異常な暑さなどを実感するにつれ、こういった意識の高まりがいっそう期待されます。
播:ただ、環境意識の高い方も、最初から環境への負荷に配慮していたわけではなく、例えば自分や家族が体調を崩したり、子供が生まれたことなどをきっかけにして意識が変わったという方が多い印象です。これから国内でプラントベースが普及するためには、自分ごとにする難しさを踏まえると、買い手への働きかけだけでなく、作り手や売り手がその責任を負っていくことが重要なのだろうと思います。
プラントベースの価値は、みんなが食べられること
播:環境負荷などの社会的な意味合いは非常に大切ではありますが、私がプラントベースの最も大きな価値だと思っているのが、アレルギーや宗教上の理由から食べられないものがあるなかで、プラントベースなら食べられるという選択肢を提供できることなんです。
本間:それは大きな価値ですよね。ユーグレナ社で発売した動物性原料不使用のサプリメントも、幅広い価値観の方に不安を抱くことなく摂取していただけるよう、賦形剤やカプセルの細かい原料についても、由来となる素材まで1つ1つ細かく確認して作りました。
特に市販されている多くのDHA/EPA含有サプリメントは、イワシなどの青魚を原料にしているため、動物性の食品を避ける方は摂取しづらいんですよね。その点今回開発した「DHA・EPA・アマニ油」サプリメントは、藻類から抽出したものを配合しているので、そういった方々にも手に取っていただけるものになっています。動物性の食品を避けると栄養バランスが気になるという方もいらっしゃるので、みんなが食べられる商品を今後もお届けしたいですね。
播:動物性食品を避けていない場合でも、魚油特有の匂いが気になるという方もいますよね。そういった方々にも飲みやすいサプリメントになっていて、「みんなが食べられる」という価値に大きく貢献していると思います。
今後も食の多様性を支え、誰もが必要な栄養素をおいしく食べられるようになることを目指してプラントベースを普及させていきたいですね。来年はユーグレナ・オンラインショップにある「サステナブルマート」でも、プラントベースの商品が続々販売予定です。ぜひ多くの方へ、選択肢の一つとして知ってもらいたいです。
※2024年4月1日追記
フレンバシー社が運営するポータルサイト「Vegewel」事業は、2024年3月末日付で株式会社cottaに譲渡されました。
[プロフィール]
播 太樹(はり たいき)
株式会社フレンバシー 代表
大手金融企業で法人融資・国際与信に携わったのち、2015年、自分にも世界にもGoodな消費の選択肢を広めることを目指すベンチャー企業、株式会社フレンバシーを創業。プラントベース(植物性)に特化した日本初のポータルサイト「Vegewel(ベジウェル)」を立ち上げる。2022年、ユーグレナ・グループに参画。
本間 哲太郎(ほんま てつたろう)
株式会社ユーグレナ ヘルスケアカンパニー ブランドマネージャー
大手チェーンストアでのプライベート・ブランドの立ち上げ・ブランディング/マーケティング全般に携わったのち、2021年、株式会社ユーグレナに入社。ヘルスケアカンパニーにて『かしこい健康栄養素エルゴチオネイン』『動物性原料不使用のクラフト・サプリメント』をはじめとした多様な食の嗜好や価値観の方に向けたサステナブルな商品の開発に取り組む。
文/福光 春菜