ソーシャルグッドとは、広く社会に対してよいインパクトを与えるものの総称です。特に社会への影響を重視したビジネス、商品、サービスのことを指す場合が多く、昨今ではソーシャルグッドなものを表彰する制度も多く生まれています。今回は、近年注目のソーシャルグッドについて、国内外の事例とともにご紹介します。

■「ソーシャルグッド」とは?

老若男女が手をつないでいる画像

ソーシャルグッドとは、直訳すれば「社会に良いこと」という意味であり、厳密な定義はありませんが、近年は社会に良い影響を与えるサービスや活動、商品を指す場合が多いです。この言葉は、経営学者として著名なマイケル・ポーターが「Creating Shared Value(共有価値の創造)」という考え方を提唱した時期と重なるため、アメリカのIT業界内で、企業が本業で高収益と社会課題の解決両方を実現すべきであるという考えが主流になる流れで普及したと言われています。
その後、日本でも使われるようになり、環境によい商品や社会的意義のあるサービスに対して、「ソーシャルグッドな〇〇」と表現する場合が多いようです。
また、企業のCSR活動や、SDGs(持続可能な開発目標)につながるような活動に対しても使われるようになっています。

CSVとソーシャルグッド

先述のマイケル・ポーターが提唱した「Creating Shared Value(共有価値の創造)」は一般的に「CSV」と略され、経営分野などでよく使用されます。CSVとは、経済的価値を創造しながら、社会的ニーズに対応することで、社会的価値も創造するというアプローチのことを意味します。これは、グローバル化などにより近代企業が巨大化し、影響力が大きくなってきたことで、本来は利益を追求するための存在である企業にも、社会的責任が問われるようになってきたことが背景にあります。
より古い概念としてCSR(企業の社会的責任)がありますが、CSVは奉仕的な意味合いよりも、その本業によって利益を追求しながら社会へ貢献することを提唱しています。そのため、この文脈で普及したソーシャルグッドという言葉も、商品やサービスに対して使用されることが多くなっています。

「ソーシャルグッド」は世界では普及した言葉

ソーシャルグッドという言葉は、まだ日本ではそこまで頻繁に使われていませんが、アメリカを始めとする欧米諸国では広く普及しています。特に1990年代後半から2012年頃に生まれた、いわゆるZ世代にとっては、消費の場面で非常に重要な指標になっています。市場調査会社GfK Japanが行った調査※1によると、アメリカのZ世代のうち、約62%が環境配慮を訴求した商品を購入した経験があると回答しています。この世代は学校教育で環境問題について学んできた世代であり、消費においても意識が高いと言われています。そのため、企業もブランド戦略でのソーシャルグッドな要素は無視できない観点となっています。

※1 出典元:GfK Japan

例えば環境や動物倫理に関して問題が多いとされていたファッション業界では、シャネル、グッチ、プラダなどの多くのハイメゾンでリアルファーの使用を禁止するようになりました。また、最近では「リジェネラティブウール」といった環境再生へ寄与するウールを用いるムーブメントも起きており、ソーシャルグッドな消費行動が、企業に変化を促す時代になっています。

一方日本では、環境保全への重要性は認識されつつも、具体的な消費行動に反映されるまでには至っていないのが現状です。ソーシャルグッドな消費が日本に定着するには、まだ時間がかかりそうです。

ソーシャルグッドとSDGs

持続可能な開発目標を意味する「SDGs」はまさにソーシャルグッドな観点が反映された目標です。2020年に発表された「Sustainable Development Report 2020(持続可能な開発報告書2020)※2」では、各国でSDGsのための取り組みがどれだけ進んでいるかが報告されました。この中で達成率から算出したランキングがあるのですが、1位はスウェーデン、次いでデンマーク、フィンランドと北欧諸国がトップを独占し、日本はなんと17位でした。
特に以下の目標への取り組みが不足していると評価されており、これからの日本の課題が浮き彫りになりました。

目標5:ジェンダー平等
目標13:気候変動
目標14:海の生物多様性
目標15:陸の生物多様性
目標17:パートナーシップ

※2 Sustainable Development Report 2020(持続可能な開発報告書2020)

■ 世界のソーシャルグッドな取り組み事例

さまざまな人種の人たちが一緒に働いてる様子

SDGs達成度ランキングで1~3位を独占した北欧諸国は、いったいどのような取り組みによって評価されているのでしょうか。スウェーデン、デンマーク、フィンランドに焦点を当てて見ていきます。

SDGs先進国であるスウェーデン

SDGs達成度のランキングで1位だったスウェーデンでは、政府はもちろん国民も積極的にSDGs達成に取り組んでいます。
特に廃棄物に関しては、「自然に返せる量の資源しか取らない」という方針を打ち出しており、教育や企業活動はこれに従っています。法律もこの原則を踏まえて整備されており、なんとゴミは100種類に分別するという徹底ぶりです。また、家庭ごみの99%をリサイクルやエネルギー源として循環させています。一般家庭では容器などがデポジット制となっているため、日々の生活にもソーシャルグッドな活動が浸透していると言えます。

スウェーデンの代表的な企業として、日本でも大人気の家具ブランドIKEA(イケア)がありますが、イケアも政府の方針に沿ってサステナブルな暮らしを提供する商品を積極的に販売しています。例えば、代替肉として植物由来の「プラントボール」を発売し、大ヒットとなりました。イケアは店舗にレストランがあるため、植物由来の食品を急拡大するインパクトは非常に大きいと言われており、急速にブームがしぼむ代替肉への追い風となっています。

また、日本が遅れをとるジェンダー平等に関しても、スウェーデンは先進的です。世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数では、スウェーデンは調査以来一度も5位以下になったことがないという実績があります。この要因は、男女の賃金格差が他国に比べて小さいことや、管理職や役員の女性の割合が多いことなどと言われており、育児に関しても男女において大きな差がない点も評価されています。このような背景からも、ソーシャルグッドな活動との親和性が高いことが伺えます。

スマートシティの代表デンマーク

デンマークの首都コペンハーゲンは、最もサステナブルな都市として有名です。デンマークでは、理念としてカーボンニュートラル、都市としての成長、人間の幸福度の3点を同時に達成し、かつその成功を世界に輸出することを目標として掲げています。
デンマークの都市デザインは、建築家として著名なヤン・ゲールによって、車中心から自転車や歩行を中心とした都市へと変化しました。自転車利用促進政策が大成功したこともあり、自転車は車の代わりに頻繁に利用されています。無料自転車も設置されており、自転車の利用がサステナブルな都市のライフラインを支えているのです。

そんなサステナブルな街コペンハーゲンに、2021年秋、ソーシャルグッドな注目のホテルがオープンしました。
「NH Collection Copenhagen」と名付けられたこのホテルは、サステナビリティにこだわったホテルです。屋根が植物によって緑化されていたり、冷房に海水が使用されていたり、廃材が建築材に用いられていたりなど、さまざまな工夫が施されています。また、ホテルになる以前の建物のコンクリート構造部分がそのまま利用されていることも、サステナブルな建築方法だと言えます。さらに、電気の節約のため採光などが自動制御されているところもサステナブルな点としてアピールしています。

今後はホテル業界にも、このようなソーシャルグッドな工夫が採用されると予想できます。

サステナブルな観光を推進するフィンランド

フィンランドはSDGs推進で先進国であるうえ、国連による世界幸福度調査で常に上位、もしくはトップとなることで有名な国です。フィンランドは国土の90%以上を森林や湖が占めるため、自然とのつながりが幸福度に大きく関係しているのではないかと考えられています。

そんな美しい自然が観光資源となって、フィンランドは観光産業でサステナブルな取り組みをしています。「サステナブル・トラベル・フィンランド・プログラム」という名称の取り組みは、経済的、生態学的、社会的、文化的な観点から持続可能性を重視したプログラム。フィンランドの風土や文化に合わせて独自に設計したもので、国が定めたすべてのプログラムを修了し、サステナブルな光開発計画を作成した企業や観光地へ、プログラムから認定が与えられるという仕組みです。これにより、観光地の地元企業などがエネルギーや水の節約、地産地消の実践などを行っています。
ポシオという小さな地域は初めてこのプログラムの認証を受けた土地で、プログラムが生まれる前から長くサステナブルな取り組みをしていました。このプログラムがさらに観光地としての魅力となり、海外へアピールする材料にもなっています。

■ 日本のソーシャルグッドな取り組み事例

車いすの老人にプレゼントする子ども

北欧諸国のソーシャルグッドな取り組みをご紹介してきましたが、日本ではどのような取り組みがあるでしょうか。ソーシャルグッドな商品やサービスを表彰する「ソーシャルプロダクツ・アワード」と、企業のサステナビリティを表彰する「SUSTAINA ESG AWARDS」、さらにソーシャルグッドな個人や団体を表彰する「Sustainable Japan Award」についてご紹介します。

ソーシャルグッドな商品・サービスを表彰「ソーシャルプロダクツ・アワード」

持続可能な社会の実現につながる、優れたプロダクトへ与えられる表彰制度が、ソーシャルプロダクツ・アワード。一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会が2012年から開催し、毎年さまざまな商品・サービスを表彰してきました。
この賞が定義するソーシャルプロダクツとは以下のようなものです。

● エコ(環境配慮)
電気自動車や廃材を利用したお箸など、エネルギー消費やリサイクルといった環境負荷に配慮された商品が対象となります。
2022年に受賞したBlue Green Group株式会社の「Chipolo One Ocean Edition」は、海洋プラスチック問題に着目し、漁網などを原料として作ったアクセサリーを制作しています。スマートフォンと連動させることで、なくしものを防ぐ機能が特徴的な、ヨーロッパ発のアクセサリーです。

● オーガニック
オーガニックコットンを使用した服や有機野菜で作られた食品など、環境や生産者への負荷を軽減し、安心して使える商品やサービスが対象となります。
2021年で受賞した「100%国産オーガニック冷凍カリフラワーライス」(楽天農業株式会社)は、豪雨の被災地である愛媛県大洲市にある工場の取り組みで、被害を受けた工場を冷凍工場として再建し、カリフラワーライスを生産。野菜の廃棄量を最小限まで抑えることが可能になりました。

● フェアトレード
フェアトレードを考慮して生産されたチョコレート、コーヒー、衣料品など、発展途上国の生産者から適切に購入し、彼らの自立支援につながる商品が対象となります。
2017年に大賞となったフェアトレードカンパニーの「フェアトレード・チョコ」は、ボリビアとペルーのフェアトレード原料を用いたチョコレートを日本で発売した先駆けの商品。チョコレートの包装紙に印刷したポイントを集めると、病害虫被害に苦しむ生産者へカカオ苗木を贈る活動も行っています。

● 寄付(売上の一部を通じた寄付)
途上国支援を目的とした寄付つき飲料や、教育支援目的の寄付つきクレジットカードなど、売り上げの一部が社会的課題へ取り組む団体へ寄付されるものが対象となります。
2021年に三井住友カード株式会社が受賞した「タッチハッピー」は、Visaのタッチ決済を通じて、1回につき1円寄付されるサービスです。寄付は教育、病児保育、食のセーフティネットを支援する団体へ行われます。

● 地域の活力向上
地域の歴史などをめぐるツアーや、森林資源を活用して生産された家具など、その地域ならではの資源を活用することで、活性化につながるものが対象となります。
2022年に受賞した和眞嘉傳株式会社「キットガレージ『木にこころ』」は、茨城県常陸太田の木材を、地元の製材所および職人で製品化する地域密着型生産です。原料の長距離運搬によるCO2排出を削減し、処分する際も環境負荷の少ない木材と塗料を使用しているため、土に還すことができるエコな製品です。

● 伝統の継承・保存
伝統的な技術を用いて作った装飾品や工芸品など、日本の伝統文化の保護、継承につながるものが対象となります。
2020年に受賞した有限会社データプロ「藍染め鹿革商品DITA」は、徳島県祖谷地方で駆除された鹿を、藍染製品として生まれ変わらせる鹿皮ブランドです。鹿による被害の実情をより多くの人に伝えることと、伝統技法である藍染めの味わい深さを伝えることを目指しています。

● 障がい者支援
障がいを持つ人々が作る商品など、生産過程に障がい者の参加を得ているもので、彼らの社会参加や自立につながるものが対象となります。
2022年で受賞した株式会社BottleTokyoの「社会復帰を目指すワイン」は、障がい者支援施設や後継者のいない農家が育てるブドウを使用したナチュラルワインを生産。過疎化の町に雇用を生みながら、酸化防止剤などを使用しない身体にやさしいワインです。

● 復興支援
被災地でとれた食材や、被災地で生産されている商品など、復興支援につながるものが対象となります。
2013年に受賞した久米繊維工業株式会社による「3.11復興支援Tシャツプロジェクト」は、東日本大震災を支援する団体へ、オリジナルTシャツの売り上げの一部を寄付する仕組みです。寄付につながるだけでなく、購入者が楽しみながら社会貢献できるようにという願いが込められているそうです。

以上のように、さまざまな観点からソーシャルグッドな取り組みが表彰されています。2023年も開催予定なので、ぜひ注目してみましょう。

ソーシャルグッドな経営を表彰する「SUSTAINA ESG AWARDS」

ハートを手のひらに包む親子

環境、社会、ガバナンスに対して積極的に取り組む企業をたたえる「SUSTAINA ESG AWARDS」は、サステナビリティに特化したプラットフォームサービス「SUSTAINA」を運営するサステナ株式会社が主催する表彰制度です。商品やサービスではなく、企業として環境への取り組み、働き方改革、ガバナンス強化などをいかに積極的に行っているかを評価します。総合部門、ESG部門、業種別部門、市場別部門と4つの部門で選出され、受賞企業には受賞ロゴマークが授与されます。
財務やコーポレートガバナンスなど専門的な指標が評価されるため、投資対象の企業を選定する際などにも参考になるでしょう。
2022年は、住友林業やアサヒホールディングス、三菱商事などが受賞しました。

社会課題の解決に貢献した団体・個人を表彰する「Sustainable Japan Award」

新聞社である株式会社ジャパンタイムズが主催する「Sustainable Japan Award」は、ソーシャルグッドな取り組みをしている企業や団体、個人を表彰し、その活動を国内外に伝えていくことを目的として実施されています。対象が個人から団体まで幅広いのが特徴であり、この賞を通じて多様な先進的取り組みを知ることができます。

● 株式会社さかうえ
2022年に優秀賞を受賞した株式会社さかうえは、鹿児島を拠点とする農業の会社です。受賞した「里山牛プロジェクト」は、荒廃していく中山間地域に、牛を放牧することで里山の保全を目指す活動です。牛に与える飼料も自給することで、持続可能な畜産事業を可能としています。
この地域は高齢化や人口減少による離農者の増加が課題となっていましたが、それによって生まれる遊休農地を放牧によって有効活用するスタイルが評価されました。
それに加え、この畜産で生じる糞尿を堆肥化し、農業に活用する循環型農業にも貢献しています。このモデルを他の地域にも波及させることで、日本の地域の共通の課題を解決することにつながると高評価を得ました。

● 株式会社ユーグレナ 
2021年に大賞を受賞したユーグレナは、一つの取り組みというよりも、これまでの事業全体を評価されての受賞となりました。ユーグレナ社では10年以上前からバイオ燃料の研究開発を始め、2021年には陸海空すべてのモビリティへ導入されました。また、「ユーグレナGENKIプログラム」として、バングラデシュの子供たちに無償で栄養豊富なユーグレナ入りクッキーを配布。累計1000万食以上も配布したとして評価されました。
さらに、上場企業で初めて18歳以下のCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)を新設。事業内容だけでなく経営も先進的であると注目されています。

● 株式会社フードロスバンク
2021年にESG部門で受賞したフードロスバンクは、食品ロス削減から始まる環境改善を目指して2020年に設立された会社であり、設立後すぐにグローバル企業など多くの企業とコラボレーションし、フードロス削減プロジェクトを推進したことが高く評価されました。
さらに、この取り組みに国連が賛同し、国際連動食料農業機関(FAO)から依頼を受けて「世界食料デー」に上映される動画を制作するに至りました。日本企業が国連主催の世界配信イベントに取り上げられることは、日本初となります。

このように、具体的な商品、サービスから、企業経営全般まで、さまざまな観点でソーシャルグッドな取り組みが評価される制度が生まれています。このような表彰は、確実に企業価値の向上につながるため、ソーシャルグッドな企業の誕生を後押しする重要な存在と言えるでしょう。

■ 私たち個人にできるソーシャルグッドな取り組み

街を歩く人々

個人としてできるソーシャルな行動もたくさんあります。例えば、ソーシャルグッドな企業の商品を購入する、エシカル消費もそのうちの一つです。
エシカル消費とは、ソーシャルグッドな企業や団体が提供している商品やサービスを選んで購入することです。しかし、どの商品やサービスがソーシャルグッドなものなのか、実際に購入するときには把握しにくいでしょう。そこで、今回紹介したようなソーシャルグッドな賞を受賞した企業や商品を参考に選ぶのはいかがでしょうか。そのためには、日頃からこのような取り組みを紹介するニュースなどにアンテナを張っておくことが大切です。SNSなどでサステナブルな情報を発信しているメディアをフォローするところから始めるとよいでしょう。

■ まとめ

ソーシャルグッドという言葉は日本ではまだ普及していませんが、北欧を始め欧米諸国では当たり前となっており、今や大企業をも動かすムーブメントへつながっています。私たちが日頃からソーシャルグッドな企業や商品へ関心を持つことが、サステナブルな社会の実現への第一歩となるでしょう。

文/福光春菜