2021年6月、ユーグレナ社は同社が製造・販売するバイオ燃料「サステオ 」を航空機に供給し、初めての「サステオ」を使用したフライトを実施しました。
この取り組みに興味を持っていただいたのが、環境経営やエコツーリズムを実践する星野リゾートの代表星野佳路氏です。実際に、「サステオ」の製造実証プラントや石垣島の研究所を訪ねていただきました。
後編では、「微細藻類ユーグレナがバイオ燃料の原料の一部として活用されることになったきっかけ」と「新たなエコツーリズムの可能性」について語りました。
(前編はこちら )
燃料として可能性を秘めていた「ぽっちゃりユーグレナ」
星野:ユーグレナ社は、現在、バイオ燃料「サステオ」の原料の一部に微細藻類ユーグレナを活用しています。栄養価の高さへの注目から始まった研究が、どのようにして燃料開発へとつながっていったのでしょうか。
出雲:おっしゃる通り、私は栄養の研究がバックボーンです。日々、ユーグレナの身長や体重を測り、ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養を調べていました。そうしたなかであるとき、「あなたは本当にユーグレナなのか?」と思うくらい、ぽっちゃりした大きな個体のユーグレナに出会ったんです。
星野:有望な個体だった?
出雲:いえ、そのぽっちゃりユーグレナは栄養素がほとんどなく、成分のほとんどが油でした。当時は「これは使えないな」と思い込んでいたんです。そんなときに「ユーグレナを絞ってバイオ燃料を作れないか」と連絡をいただきました。ものは試しということで、ぽっちゃりユーグレナを使ってみたところ、担当の方が「これは油の質が違う。ものすごくピュアな、ジェット燃料に使えるような高品質の油だ!」と喜んでくれたんですよ。
星野:そんなきっかけがあったんですね。そのアプローチがなければ、油がいっぱいのぽっちゃりユーグレナのポテンシャルを見出だせなかったかもしれないと。
出雲:はい。「あのとき日陰に追いやってしまってごめんなさい」という感じですね。ぽっちゃりユーグレナの可能性を見抜けなかったことを反省しました。それから私は、どんなことがあっても、「ちょっと待てよ」と思うように意識しています。昔、このぽっちゃりユーグレナと出会ったときに、自分はすぐその才能を見抜けなかったと。だから自分の今の尺度だけで何かの良し悪しを決めるのは、それだけは本当に一生やめようと思いました。現時点の自分の知識で可能性を判断しようとすることをやめました。
星野:ちなみにユーグレナって、何種類くらいあるんですか?
出雲:私が把握している限りでは、約100種類です。
星野:約100種類もあるのですか。それらが一つひとつ、何らかの役割を果たせるようなポテンシャルを持っていると。実際に石垣島では今、いろいろな種類のユーグレナを研究していますよね。
出雲:はい。それぞれ個性があってとっても面白いですよ。例えば、さっきのようにバイオ燃料の原料に合いそうなユーグレナもいれば、アトピー性皮膚炎や花粉症の対策に有効そうなユーグレナもいて、日々さまざまな種類のユーグレナについて研究しています。
ユーグレナは「五島列島のイルカ」になれるか
星野:バイオ燃料は、飛行機以外にはどのような可能性があるのでしょうか。
出雲:私たちのバイオ燃料「サステオ」には、バイオジェット燃料と次世代バイオディーゼル燃料があるので、たくさんの使いみちがあります。私はとにかく「バイオ燃料を当たり前にしたい」と思って取り組んでいるんです。「サステオ」を、みなさんの生活の中で当たり前にしたい。飛行機もバスも電車もトラックも車も船も、何なら農作業で使う草刈り機やディーゼル発電機も動かせるようにしたい。
「ユーグレナでできないことはない」と証明したいんです。
星野:素晴らしいですね。私はそのユーグレナと、世界的に自然回帰が進むエコツーリズムに大きな親和性があると思っているんです。星野リゾートでも、ユーグレナ社の知見を取り入れて新しい取り組みができるんじゃないかと考えています。
アイデアの一つに「カーボンニュートラルの旅」があります。ユーグレナがカーボンニュートラルの油を生み出し、それが世界の気候変動対策に生かされていることを知らない人はまだまだ多いですよね。他方で私たちはリゾート地で海水を淡水化し、太陽光で電気を起こし、ゴミも可能な限りゼロにしていくことに取り組んでいます 。そうしたエコな旅行先へ行く手段として、ユーグレナ社のバイオ燃料「サステオ」で動く航空機や船を使うことは、世の中への大きなメッセージになると思うんですよ。
出雲:とても面白いアイデアですね。ただ、観光業の素人としては、「そうした旅に興味を持つ人はいるのだろうか?」という不安もありますが……。
星野:世界を含めて考えれば、興味を持つ人はたくさんいると思いますよ。「未来の可能性を感じられるアクティビティ」は、たくさんの人を惹きつけるはずです。
例として、長崎県の五島列島が参考になると思います。五島列島付近の海域にはイルカの群れがたくさんいて、観光船の近くにもイルカたちが遊びに来てくれます。地元の漁師さんたちは何十年も「それが当たり前」だと思っていたけれど、外部から訪れた観光客にとってはそれがとても新鮮で、大人気のツアー企画となったんです。私はユーグレナ社の取り組みにも同じポテンシャルを感じています。人が健康になれると同時に、地球も健康になって未来にもつながる。そんなことを感じられるツアーは世界を見渡してもありませんから。
他にも、フランスの例も面白いですよ。海外からフランスを訪れた旅行者には、パリだけでなく、ボルドーやブルゴーニュなどのワインの産地を巡ってもらい、現地の人がどんな思いでワインを作っているのかを伝えています。そうすると旅行者は、自国に帰ってからもフランスのワインのストーリーを思い出して買い続けてくれるんです。こうした人の心に焼き付けるPRも、観光の大きな役割なんですよね。
出雲:なるほど。私たちが当たり前だと思っていても、新たに見に来てくれる人はまた違った感覚を持ってくれるかもしれないですね。たしかに、ユーグレナは五島列島のイルカや、フランスのワインのような存在になれるのかもしれません。そうだ、星野代表にはぜひ、バングラデシュのプロジェクトの現場も見ていただきですね。
星野:ぜひお願いします。ゆくゆくは、この石垣島の子どもたちとバングラデシュの子どもたちが交換留学をして、互いの地域のことや取り組みについて学び合う機会ができると素晴らしいですよね。出雲さんは大学時代にバングラデシュへ行き、人生が変わった。同じように、日本でSDGsを学んでいる子どもたちが、ひと夏だけでもバングラデシュの現場を見ることができれば、大きな可能性につながるんじゃないでしょうか。
出雲:素晴らしいですね。石垣島とバングラデシュの子どもたちが行き来しあい、学び合う。そんな機会もぜひ作っていきたいと思います。
Sentence / Shinsuke Tada