ユーグレナ社は2022年1月より、経営スピードをさらに加速するため、研究開発の領域で新たな体制をスタートさせました。従来の研究開発部門を管轄していた執行役員CTOの鈴木と、新たに専門役員CROとして迎え入れた丸による2名体制に移行した経緯と、これから目指すユーグレナ社の研究のあり方について語ります。
ユーグレナ社の基礎である研究開発部門を強化することの重要性
鈴木:これまで15年間、私が研究部門を牽引する形で、いわば一人体制でユーグレナ社の研究を統括してきました。当初は微細藻類ユーグレナを活用した社会課題の解決が最大のミッションでしたが、徐々に会社が目指す方針が、いかにサステナブルに社会課題を解決するか、という方向にシフトしていったんですね。つまり取り組む課題が広く、グローバルになっていったわけです。そこで、改めて違う視点で現在の体制を見ることができる丸さんに協力していただこうと、お声をかけたんです。
丸:はい、鈴木さんからは「強い企業研究所に変えていきたい」と声をかけられました。久々に呼び出されたと思ったら、これはまたスケールのデカい課題だ、と思いましたね(笑)。
もともとユーグレナ社は大学発のベンチャー企業ですので、「ワクワクする研究をしよう」という思いを起点にやってきました。これは研究においては非常に大事なことなのですが、企業として15年経ち、「持続可能な社会をつくる」という強い思いで事業を進めていくためには、これまでのやり方から変えていかなければならないフェーズに入ってきたんですね。
声をかけていただいたときは、鈴木さんと二人三脚ならやるよ、と約束しました。
まずはすべての研究所を行脚することから始めた
丸:研究開発部門を変革するにあたり、まずは現状の課題を把握するため、すべての研究所を訪問することから始めました。
そこで見えてきた課題はたくさんあったのですが、最も重要な課題は“とにかくいろんなことをやりすぎている”という点でした。そのため、一番特化して集中しなければならない分野と、優先度がそこまで高くない分野を分けて、改めて5つの研究所に再編し、ひとつのカンパニーにしました。
このような形にしたのは、全ての研究所を訪問してみたことで、熱い思いを持った研究者がたくさんいるということがわかったからです。
もともと私のミッションとしては、ユーグレナ社にとって今ある研究所の全てが必要かどうか、つまりは「Sustainability First」に資するものかを見極めるというものでしたが、訪問し終わったあとは、これら全ての研究所は絶対に必要だと思わされたんです。だから、集中すべき5つの分野を再編し、適切な形にしたかったのです。
鈴木:5つの研究所に再編したことによる効果は、すでにちらほら見えてきています。例えば、コロナ禍でコミュニケーションがとりにくくなっていたなかで、互いに共有すれば効率化できたり新たな発想が生まれたりすることがあるという感触が、メンバーの中にも芽生えているようです。
もちろん、体制の変化はメンバーに非常に影響があることなので、その変化をストレスと感じる人もいると思います。ですが、これは良い変化であるとポジティブに捉えてもらえたらいいなと思います。
ツーマンセルによりカンパニーとしての理想形へ
鈴木:これから私がやりたいこととしては、研究開発の効率化の仕組みづくりです。カンパニー制という形をとると責任の所在がわかりやすく、成果がどういう風に評価されるかが明確となるので、“自分ゴト化”も進むと思います。これは厳しい側面もありますが、成果が正当に評価されやすくなるという面では、今の時代にもあっているとも言えます。
丸:現状では、自分の所属するラボが毎月どれくらいの費用がかかっているか把握していない研究者も多いのです。それがカンパニー制になると、成果に対する“コスト”という意識に変わります。つまり何をもって成果とするか、という視点を持ちやすくなるはずです。
自分の役割としては、あくまで企業の中の研究所として、コストと成果や組織としてのシステム化など、経営的な考え方を研究にマージさせることだと思っています。鈴木さんは研究の楽しさや重要性に比重を置き、私は経営視点をそこに統合する。二人の脳みそがあって初めて一つのカンパニーになると信じています。
サステナビリティを推進するためには、企業としての“信頼性”と、研究への熱量という、いわば“狂気性”の両面をもつ必要があると、ユーグレナ社は考えています。それに照らすと、私は「信頼」で鈴木は「狂気」ですね(笑)。真顔で宇宙に行くことについて語りますから、この人は(笑)。
新たな組織体制で目指すイノベーションとは
鈴木:この組織変更では、イノベーションを生み出す強いカンパニーにするというミッションがあります。そもそもイノベーションというのは、社会で再現性があり、社会に認められて初めて成立するものです。研究者がノートに書き留めるだけなく、社会に実装されるためには、必要なプロセスというのがあります。そのために、イノベーションを継続的に仕組化できるような組織でありたいですね。
丸:イノベーションというものは起こそうとして起きるものではないんですね。何かを解決しようとしてコツコツやっていたら、結果としてイノベーションと言われる。そして、私はイノベーションというのは企業でしか起こせないと思っています。というのも、イノベーションを起こすためには様々な研究をしていることが大切な条件となるからです。だからユーグレナ社では、効率化や成果を求めると同時に、好奇心をもとにした研究も大事にしていきたいですね。
世界へ、宇宙へ広がるミドリムシの可能性
丸:来年は微細藻類ユーグレナの培養をもっと世界規模、1000億規模のビジネスにしたいと考えています。そのためには日本国内だけでは環境的に厳しいので、グローバル化を目指しています。
鈴木:私は日本で生まれ、日本で研究開発していますが、国内の人々にだけユーグレナを届けるのではなく、サステナビリティを考えるなら世界中に届けたい。健康課題やそれに付随する問題を解決するのにより寄与したいのです。そのためにも、研究所は組織の中のエンジンでありたい。これからのユーグレナ社の研究者たちに、ぜひ期待してほしいですね。
文/福光春菜