2021年10月、地球温暖化の第一人者である真鍋淑郎さん(アメリカ・プリンストン大学)が、気候変動モデルを提唱したことでノーベル物理学賞を受賞し、話題となりました。
この記事では、世界で今もっとも注目されているトピックのひとつである、「気候変動」について詳しく解説します。

気候変動とは

異常気象による猛暑

近年、大型台風や豪雨などの異常気象による被害が相次いでいることから、気候変動に関するニュースが数多く取り上げられています。これらのニュースは地球温暖化とセットで語られることが多いため、気候変動の原因は人為的なもの、つまり人間の経済活動による影響であるというイメージがあるかもしれません。しかし、気候変動は自然の要因と人為的な要因の両方があります。

そもそも気候とは、地球上で起こるさまざまな大気現象の平均状態のことを指しています。太陽から受け取ったエネルギーが風や海流などにより、さまざまな形で流れ、地球上で気候というシステムとなっています。そのため、太陽活動の変化や、海流や海面水温の変化など、自然の要因で気候は変動するものなのです。つまり、自然界には長い時間のなかで、「気候の揺らぎ」があり、常に気候が安定しているわけではないということです。

ここで重要なのが、この「気候の揺らぎ」によって、たまたま異常気象が続いているように見えるのか、もしくは人間活動の影響とされている地球温暖化が原因なのか、という点です。
この点を混同してしまうと、本来手を打たなければならない問題を放置し、取り返しのつかない事態を招いてしまうと懸念されています。

気候変動が起こる原因

気候変動の自然的な要因の例として、エルニーニョ現象があります。東太平洋の海水温度が、東風の影響で平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。逆に、平年より低い状態が続くのをラニーニャ現象と呼び、それぞれ数年ごとに発生を繰り返します。これらが世界はもちろん、日本にも冷夏や暖冬などの異常気象を引き起こす原因となります。

一方で、人為的な原因による気候変動として、地球温暖化の問題があります。

地球にはもともと、自然現象として温室効果、つまり地球表面の温度を適度に保つ役割がありました。その温室効果をもたらす物質として、水蒸気や二酸化炭素などの微量成分が、人類が誕生するはるか昔から地球の温度を適度に保つ役割を果たしてきました。しかし、人間の産業活動の活発化によって大気中の二酸化炭素が急増し、温室効果が強まってしまったのです。これにより地球表面の温度が上昇し、これまでにないさまざまな問題を生み出しているのです。

これまで地球温暖化の原因については諸説あり、立場によって主張が異なっていましたが、2021年の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次報告書では、「人間活動の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断定されました。これまでは、あくまでその可能性があると、明確にはされてこなかった地球温暖化に対する人為的な影響ですが、ここにきて多くの科学者が認めることとなったのです。

気候変動の現状

では、実際にどれくらい地球は温暖化しているのでしょうか。

地球が温暖化している様子

前述の報告書によると、地球の平均気温は人間の経済活動が活発化する産業革命前(1850~1900年)よりも、0.99℃上昇したとされています。さらに直近の2011~2020年の10年平均に絞った場合、1.09℃上昇し、観測史上最も暑くなっているという結果が出ています。

一見、1℃前後の上昇では大した影響はなさそうですが、これによりさまざまな災害が引き起こされています。1950年代以降、高温による熱波や集中的な大雨が発生する頻度が高まり、厳しさも増しています。さらには、熱波、乾燥、強風といった要素が合わさることで引き起こされる山火事のような、複合的な災害も世界各地で発生し、問題となっています。

近年、日本においても海面温度の上昇などの影響によって、台風や集中豪雨の勢力が強まっています。特に2018年の西日本豪雨の凄惨さは記憶に新しいですが、気象庁の研究によると、温暖化の影響が大きかったということが報告されています。

気候変動により引き起こされる影響

南極の氷河

IPCC第6次報告書では、人間活動による二酸化炭素の排出量がどれくらい変化するかによって、複数のシミュレーションを作成しています。そこでは、2040年までに平均気温が1.5℃上昇する場合、50年に1度しか起こらなかったレベルの熱波が、5~6年間隔で発生するようになると予測されています。

では、このまま気温が上昇し続けた場合、どのようなリスクがあると予測されているでしょうか。IPCCの第5次報告書では、大きく以下のようなリスクを挙げています。

① 洪水や水災害による、健康障害や生計崩壊のリスク
➁ 豪雨などの極端な気象現象による、インフラ機能停止
③ 熱波による、死亡や疾病
④ 気温上昇や干ばつ、水資源不足による食料不足や食料安全保障の問題
⑤ 生態系の変化による、生物多様性への影響および恩恵の損失

さらに、IPCC第6次報告書では、世界の地域ごとに影響を分析しています。

【アフリカにおける影響】

アフリカでは、ほとんどの地域で洪水を引き起こす可能性のある大雨が増加すると指摘されています。
さらに、北アフリカと南アフリカの一部では、大陸の大部分で火災の発生、干ばつによる農作物へのダメージが増加すると予想されています。

【アジアにおける影響】

アジアでも、ほとんどの地域で極端な降水量の増加が予想されています。特に中国全域で河川の氾濫が増加し、南アジアではモンスーンが強まるとされています。
さらに、多くの地域で危険なレベルの高温が予想され、身体へのストレスが高頻度で起こるとされています。

【オセアニアにおける影響】

オーストラリアでは2019年から2020年にかけて、前例のない大規模な火災が起きました。これは著しく乾燥した極端な高温・乾燥によるものであり、今後もこのような温暖化による気候変動が原因となって引き起こされる火災は増加するとしています。また、南部および東部では降雨量が減少しますが、一方で中央部および北東部では降雨量が増加するため、洪水のリスクも指摘されています。
さらに、農業や健康に影響を及ぼすほどの暑さも、これまでより頻繁に発生するという見込みです。

【中央・南アメリカにおける影響】

南アメリカには、世界最大の熱帯雨林であるアマゾンがありますが、アマゾンは「乾燥ホットスポット」のひとつであり、今後は乾燥による干ばつが生態系、農業に影響を与えると予測されています。
また、2100年までに中南米のほとんどの地域で異常な暑さが、はるかに頻繁に発生するとのこと。温度の上昇により、アンデス山脈の氷河が溶け、河川が氾濫し洪水の可能性も高いとされています。これにより、低地の沿岸部での暮らしが脅かされる可能性も高いとされています。

【ヨーロッパにおける影響】

ヨーロッパでは、全域で極端な暑さがより頻繁に起こり、特に南に向かって厳しくなると予想されています。地中海沿岸地域では、乾燥化が深刻となり、干ばつによる農業や生態系のダメージが大きく、火災も増加するという予想です。
北欧では、海面上昇と豪雨による複合的な洪水が沿岸部で特に多発するとの見込みです。
さらに、北欧の氷河は二酸化炭素の排出量が最も少ないシミュレーションであっても、21世紀末までに消滅するとされています。

【北アメリカにおける影響】

北アメリカでは、乾燥による森林火災のリスクが高まっていると報告されています。2000~2015年の間に、気候変動によって火災のリスクが高い森林面積が75%も増加し、さらに今後、温暖化による気温の上昇が2℃を超えた場合、北米で火災が起きる期間が劇的に拡大すると指摘されています。
さらにハリケーンもより極端な特徴に変化しており、メキシコ湾岸や大西洋沿岸では、高潮を伴う激しい暴風雨が発生すると予想されています。これらの地域のほかにも、小さな島々は壊滅的な打撃を受けると指摘されています。

気候変動問題を解決するために

風力発電

地球温暖化による異常気象を食い止めるために、2015年の国際会議でパリ協定が合意されました。パリ協定とは、産業革命以降の気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃に抑えることを目標として掲げ、各国に削減目標の提出・更新を義務づけている枠組みです。この協定に合意した国では、それぞれ目標を掲げ、取り組みを始めています。

日本では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げています。そのための中期目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを表明しています。
達成のために必要な取り組みを、それぞれの分野から見ていきましょう。

化石燃料に頼らない産業革新

日本において二酸化炭素の排出量が多い産業は、金属や化学、セメント産業などの工業です。
こういった工業部門の脱炭素化に向けては、

  • 徹底した省エネルギーによるエネルギー消費効率の改善
  • 製造プロセスそのものを脱炭素化するため、供給サイドの脱炭素化に併せて需要サイドの電化・エネルギー転換の推進

など、旧来の生産体制を見直すことで、カーボンニュートラルを目指しています。
そこで経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)は、日本政府と連携し企業・団体のイノベーションを後押しする「チャレンジ・ゼロ」を宣言し、参加企業は技術革新で二酸化炭素排出を減らす取り組みを実行しています。参加企業では、二酸化炭素を除去する技術や、二酸化炭素を再資源化する取り組みなど、各社の強みを用いて技術開発が進んでいます。

また、運輸部門での二酸化炭素排出量も多く、全体の2割を占めています。
そこで運輸部門では、

  • 渋滞対策等の不必要な交通の削減
  • 公共交通の利用促進やモーダルシフト等の、二酸化炭素排出原単位の小さい輸送手段への転換
  • AI・IoT、ビッグデータ等のデジタル技術の技術革新、新技術を活用した新たなサービスの創出

など、複合的な対策の強化が必要と言われています。
これらを実現させるためにも、2035年までに乗用車の新車販売で電動車(電気自動車、ハイブリットカー)100% を実現できるよう、環境整備が進められています。

ライフスタイルの転換

脱炭素社会の実現のためには、私たち一人一人の行動・選択を変えることも重要です。
例えば消費者として、

  • カーシェアリング、シェアサイクル、民泊、シェアハウスの拡大
  • 地産地消の製品の選択

などにより、製品の生産時や輸送時における二酸化炭素の排出を抑制することができるなどが挙げられます。
また生産者の観点では、

  • テレワークやフレックスタイム制の導入の推進
  • オフィスのフリーアドレス化とエアコン利用時間・スペースの縮小

などにより、通勤時の交通に伴う二酸化炭素排出の抑制や、オフィスの省エネルギー効果も期待できます。近年需要が増加している宅配便などの物流に関しても、受取方法の多様化・利便性向上、再配達の削減により、二酸化炭素排出量の抑制を図ることが望まれています。

さらに、カーボンニュートラルなライフスタイルの実現のためにはこのような仕組みづくりに加え、個人の意識の変革も重要です。そのためには、

  • モノの消費からコトの消費への転換
  • 消費における価格重視から品質重視への転換
  • 「エシカル消費」の拡大

など、経済全体を「量から質へ」と転換し、これまでのような大量生産・大量消費の生活から脱却することが必須でしょう。

再生可能エネルギーに切り替える

脱炭素社会の実現のために、二酸化炭素の排出が比較的少ない、風力・太陽光・地熱などの再生可能エネルギーの導入が進められています。この結果、日本は平地面積当たりの太陽光設備導入容量において主要国トップレベルになりました。

太陽光発電

一方で、コストや最適な土地の確保、環境との共生など、課題はまだまだ山積しています。今後も国を挙げて課題を乗り越え、かつ地域にメリットがある形で導入していく取り組みが求められています。

<風力発電>

風力発電は、大量導入やコスト低減が可能であることから、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札とされています。特に事業規模が大きいため、関連産業への波及効果が大きく、経済効果も期待されています。
しかし、風力発電が主力電源となるためには、さらなる技術開発とそれによる競争力の向上が必要であり、取り組む企業や国内外の投資の増加によって市場が活性化することが課題とされています。

<太陽光発電>

国内での太陽光発電の導入は拡大しており、平地面積当たりの導入量は世界一となりました。一方で、再生可能エネルギーの買い取り価格を固定化するFIT 制度導入後、産業の適正化を図ってきた結果、当初よりも導入量が大きく減少傾向となっています。今後は再拡大を目指していますが、そのためには課題となっている設置困難な場所にも設置できる次世代型太陽電池の技術開発が必要と言われています。

<地熱発電>

地熱発電は、太陽光発電や風力発電と異なり、季節、天候、昼夜を問わず、一定量の電力を安定的に供給できる点で非常に重視されている再生可能エネルギーです。
国内の地熱資源の8割が国立・国定公園内に存在することも踏まえ、導入する最適な土地の調査が重要になります。そのため、国をあげて資源量の調査、事業者に対するリスクマネーの供給、地元理解の促進に向けた取り組みを行うことにより、開発のコストやリスクの低減を図ることが求められています。

脱炭素社会の実現には、これらの再生可能エネルギーの拡大が急務となっています。なぜなら、たとえ電気自動車やハイブリットカーが普及したとしても、発電自体が火力由来のものであれば、二酸化炭素が大量に排出され続けるためです。カーボンニュートラル社会の実現のためにも、再生可能エネルギーの技術開発、拡大は最重要課題となっているのです。

自然環境の保護

脱炭素社会の実現のためには、温室効果ガスの排出を減らすとともに、除去することも必要です。そのためには、温室効果ガスを吸収する自然環境の保全が急務となっています。
自然環境には、森林、農地、都市緑化などがありますが、特に吸収量の大半を占める森林吸収源が重要であり、「森林・林業基本計画」(令和 3 年 6 月 15 日閣議決定)に基づき、森林の適正な管理と森林資源の持続的な循環利用の促進が掲げられています。
具体的には、

  • 人工林の適切な間伐
  • エリートツリー(優れた木を人工的に交配)の開発・普及
  • 林業機械の自動化等の林業イノベーション
  • 担い手となる林業経営体の育成や、林業従事者の確

などへの取り組みが必要となっています。

温室効果ガスの除去

森林によって二酸化炭素を吸収させる仕組みに加え、技術によって直接回収・貯留(CCS)する方法も開発されています。

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)とは、大気中に排出された二酸化炭素を集めて地中に貯留し、さらに集めた二酸化炭素を何かに役立てることを目指した技術です。日本では2012年から北海道・苫小牧で大規模な実証実験が行われています。2016年度からは、海底の下に高い圧力で二酸化炭素を貯留する作業を開始しました。ガス中の二酸化炭素とそれ以外の気体を分離し、海底の深くに掘った井戸に、年10万トン規模の二酸化炭素を埋めこむ計画です。

ただし、CCSに関してはコスト面、適切な土地、技術面など様々な課題があるため、普及には長期的な計画が必要となります。

気候変動問題に取り組む企業

オフィスビル群

このように、気候変動の問題には国をあげた各分野での対策が求められています。その中でも、自ら独自の取り組みをしている企業が社会から注目を集めています。

Euglena Co., Ltd.

微細藻類ユーグレナの有用性をさまざまな分野で活用しているユーグレナでは、化石燃料に代わる、サステナブルな社会を実現するため、バイオ燃料『サステオ』を開発し、バイオディーゼル燃料・バイオジェット燃料(SAF)を供給開始しています。

微細藻類ユーグレナは、光合成によって培養され、また培養方法によって、体内により多くの油を作ることができます。この油を抽出したものがバイオ燃料の原料の一部となります。
すでに日本各地で使用済み食用油と微細藻類ユーグレナ等を原料にした次世代バイオディーゼル燃料を使ったバスや乗用車が公道走行しています。

株式会社UPDATER

UPDATERは、2011年創業以来、再生可能エネルギー事業「みんな電力」に取り組んできました。
2016年の電力自由化以降には、小売電気事業者として発電事業者の情報を開示した「顔の見える電力」を開始、約600の再エネ発電所から電力を仕入れ、法人顧客、個人顧客に電力を供給しています。

電気の生産者を見える化し、生産者を知らないというブラックボックスによるさまざまな社会課題にアプローチすることを目指している企業です。

株式会社チャレナジー

チャレナジーは、「垂直軸型マグナス式風力発電機」という「羽のない風車」を利用した独特な風力発電機を開発。風力を使った再生可能エネルギーに取り組んでいます。

台風が多く、風向きが変わりやすい日本では風車が故障しやすいため、欧米と比べて風力発電には向いていないとされてきました。その課題をクリアするためにチャレナジーは羽のない風車の開発に至ったとのことです。
さらに2021年には第一生命保険株式会社との共同で、都市のオープンスペースやビルの外構などに設置が可能な、小型の垂直軸型マグナス風力発電機の開発を開始しています。

まとめ

きれいな空と緑の草原

地球温暖化や気候変動の問題は、一朝一夕に解決できるものではありません。
企業や生産者として持続可能なあり方を模索するとともに、消費者、生活者としても、自分の選択が将来の地球の姿を決定しているということを意識することが重要でしょう。

文/福光春菜