「サステナビリティ」とは「持続可能性」を意味する言葉です。企業や自治体がさまざまな取り組みをするなか、聞き慣れない方は「サステナビリティとは?」と疑問に思うこともあるのではないでしょうか。今回は、サステナビリティの目的や注目された背景、各企業の取り組みについてご説明します。

サステナビリティとは

サステナビリティとは、「持続可能性」「持続すること」を意味します。「サステナビリティ活動」「サステナビリティ商品」など、最近では日常生活でも見聞きする機会が多いかもしれません。

サステナビリティは、企業だけでなく、個人の生活にも深く関係しています。

「持続可能性」を意味するサステナビリティ

サステナビリティの対象は幅広く、飢餓や貧困、不平等といった社会課題から気候変動や環境汚染などの環境問題まで、実にさまざまです。

次の世代も変わらず美しい地球で暮らせるように、また、すべての人が平和で豊かに暮らし続けられるように。サステナリビティは、今ある地球を将来へと「持続」させていくことを大きな目的としています。

目指すのは「社会課題の解決」

サステナビリティが目指すのは、社会や環境の持続を妨げる「社会課題」を解決することです。そのためには、地球上に暮らす一人ひとりが課題を認識し、自分事として受け止める必要があります。

自分には関係ないと目をつむるのではなく、まずは世界中でどのような問題が起きているのかを知ってください。そこからが「社会課題解決」への一歩となります。

解決すべき社会課題は数多い。一例を紹介

持続可能な社会の実現に向け、世界が解決すべき課題は多岐にわたります。二酸化炭素濃度の上昇による地球温暖化問題や、世界人口の増加、飢餓や貧困など、内容はさまざまです。

ここからは、サステナビリティが目指す、解決すべき社会課題の一例に目を向けていきましょう。

気候変動

世界各地で問題視されている気候変動は、地球温暖化により引き起こされているといわれています。地球温暖化の原因の1つとされているのが、大気中の二酸化炭素濃度の上昇です。18世紀半ばからの産業革命以来、世界で活発化する経済活動により、二酸化炭素の排出量は増加し続けてきました。

気象庁の報告によると、2100年には最大で4.8度も世界の平均気温が上昇するといわれています。世界的な気温上昇により、多くの地域で降水量の増加が懸念されており、近年の日本においても、集中豪雨や台風といった自然災害が頻繁に発生し、問題となっています。

地球人口の増加

世界では、地球人口の急増が問題視されています。地球人口が増加することで、食料をはじめとする資源の不足、貧困層の増加といった問題が発生する可能性が高まるからです。
2019年の国連の報告書によると、同年の地球人口は77億人でした。しかし、2050年の地球人口は97億人と、30年間で20億人の増加が試算されています。

地球人口の急激な増加により、すべての人が豊かに暮らし続けるための地球基盤は限界に達しつつあるといえます。今後はさらに従来のような消費型な生活ではなく、「持続可能型」な生活がより一層求められていくでしょう。

健康と福祉

世界銀行と国連の報告によると、全世界のなかで必須となる医療サービスを受けられている人は、地球上の人口の半分未満とされています。小児保健や妊産婦保健、HIV/AIDSなど多くの保健分野で前進が見られるものの、今後は取り組みのさらなる加速が必要です。

健康を維持し、病気に罹ったときに医療サービスを受けられることは、人が生きる上で保障されるべき重要な項目です。世界中すべての人の健康と福祉を改善することは、持続可能性を意味するサステナビリティにとって大きく関係する課題だといえます。

児童労働

国際労働機関の調査によると、2020年には全世界で1億6,000万人の児童労働が確認されています。地域別にみるとアフリカ(55.7%)がもっとも多く、次いでアジア太平洋地域(39%)と、両地域が世界の児童労働の大半を占めているのです。

日本に輸入される食料品やアパレル用品のなかには、労働賃金が低いアジア太平洋地域で生産されたものも多数あり、過去には有名アパレルメーカーが東南アジア工場での児童労働が発覚し、大規模な不買運動に繋がる事案も発生しました。
また、嗜好品として人気のチョコレートの原料であるカカオ豆は、生産地の7割以上が西アフリカからの輸入です。もしかしたらあなたが普段食べているチョコレートのカカオ豆も、児童労働により収穫されたものかもしれません。

児童労働は決して自分とは関係のない、どこか遠くで起こっている対岸の火事ではありません。SDGs(持続可能な開発目標)の1番目に出てくる「あらゆる場所であらゆる形態の貧困に終止符を打つ」というゴールがあるように重視すべき事案なのです。

廃棄物の排出量増加

開発途上国の急速な都市開発と人口の増加により、世界の廃棄物排出量は、2016年の20億tから今後30年間で推定34億tに達すると予想されています。しかし、2019年時点では全世界で排出された廃棄物のうち、わずか16%しかリサイクルされておらず、循環型社会の形成が急務であることがわかります。

これまでは「大量生産・大量消費」という考えが一般的でした。しかし、サステナブルな社会を目指すには、「資源の循環利用」という意識が求められます。

多様性の尊重

サステナブルな社会を実現するためには、誰もがみな自由に生きられ、個々の多様性が尊重される社会となる必要があります。代表例として挙げられるのがジェンダー問題です。性差別やLGBTQ+といったジェンダー不平等を解消しようと、さまざまな取り組みが進められているものの、一部の地域では依然として不平等が常態化しています。

人々の生き方が多様化するなか、ジェンダーの枠を超え、お互いを認め合う社会づくりは今後より一層必要となっていくでしょう。

【参考】
気象庁「気候変動2013」
国際連合「世界人口推計2019年版:要旨」
国際連合広報センター「SDGs報告2020」
ILO「Global Estimates of Child Labour, Result and Trends, 2012-2016」
白木朋子「児童労働撤廃に向けたステークホルダー連携の意義とNGOの役割」

サステナビリティが注目された背景

サステナビリティが注目されるようになった背景には、2015年に国連が打ち出した「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」が大きく関係していますが、サステナビリティという概念は、1987年に開催された「環境と開発に関する世界委員会」ですでに取り上げられていました。

2000年9月にSDGsの前身といわれるMDGs(Millennium Development Goals: ミレニアム開発目標)がニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択されました。MDGsは貧困や飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げています。SDGsでは、MDGsで達成できなかった目標に引き続き取り組むとともに、MDGsには含まれていなかった平和や暴力等の課題、また、近年明らかになってきた教育などさまざまな格差の拡大や環境問題等にも取り組む、包括的な目標となっています。

2015年9月の「SDGs」採択から現在までの流れについて、サステナビリティが注目されるようになった背景を追っていきましょう。

2015年国連で「SDGs」が採択

2015年、国連サミットは「SDGs」を採択します。SDGsは、持続可能な社会の実現に向け、2030年までに解決すべき課題を盛り込んだものです。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰ひとり取り残さない」包摂的な目標を掲げています。ゴールの中には、貧困や飢餓、環境問題、ジェンダー問題などが挙げられています。

この国連サミットには、加盟国の世界193ヶ国の首相・大統領が参加していました。加盟国が一同に賛成したことで、世界におけるサステナビリティに関する取り組みは一気に加速していきます。

企業がESG投資への対応を加速

サステナビリティな取り組みが世界で推し進められた背景には「ESG投資」の活発化も深く関係しています。ESG投資とは、企業の財務情報だけでなく「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」に配慮した企業へ投資することです。

2015年、日本最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、ESGに配慮する国連責任投資原則に署名したことにより、各企業にESGの理念は急速に広がっていきます。2018年には、ESG投資額は約31兆ドル(約3,418兆円)となり、2025年までに世界の運用資産残高の1/3以上規模になると言われています。
これまでのような短期的な利益追求による弊害から脱却するため、企業の長期的な持続可能性が評価されるようになり、企業は自社の長期的成長と社会の持続可能性を実現するため、積極的にESG対応を進めたことで、社会のサステナビリティへの関心はさらに高まっていったのです。

サステナビリティを推し進めた「SDGs」とは

サステナビリティを推し進めた「SDGs」は、「持続可能な開発目標」として17の項目を掲げています。それらの目標は「5つのP」と呼ばれる基本方針を軸としたものです。

SDGsは「No one will be left behind(誰ひとり取り残さない)」という考えの下、地球上すべての人のための目標達成を目指しています。具体的な開発目標について、さらに詳しく掘り下げていきましょう。

SDGsは「持続可能な開発目標」

SDGsは、「Sustainable Development Goals」を略したものです。

  • Sustainable(持続可能な)
  • Development(開発)
  • Goals(目標)

将来へと豊かな地球環境を受け継ぐため、2015年の国連サミットで採択されました。SDGsの目標は、以下の5つPと呼ばれる基本方針をもとに設定されています。

  1. People(人間)
  2. Planet(地球)
  3. Prosperity(豊かさ) 
  4. Peace(平和)
  5. Partnership(パートナーシップ)

SDGsは人間と地球、豊かさと平和のための目標であり、国際社会のパートナーシップによる実現を基本としたものです。世界で弱い立場にある人々に焦点を当てつつ、すべての人の目標達成を目指しています。

世界を変えるための17の目標

SDGsは、5つの基本方針を軸に以下の17の目標を掲げています。

  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロに
  3. すべての人に健康と福祉を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを世界中に
  7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  8. 働きがいも経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. 住み続けられるまちづくりを
  12. つくる責任つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 緑の豊かさも守ろう
  16. 平和と公正をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

これらは世界を変えるための目標であると同時に、地球に暮らす一人ひとりが受け止める必要がある課題です。また、日本政府はSDGsの17の目標をベースに、国内の現状に即した8つの優先課題と具体的施策を掲げています。

【SDGsアクションプラン2021】

  1. あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
  2. 健康・長寿の達成
  3. 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
  4. 持続可能で強靱な国土と質の高いイ ンフラの整備
  5. 省・再生可能エネ ルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
  6. 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
  7. 平和と安全・安心社会の実現
  8. SDGs実施推進の体制と手段

1つめの課題にある「あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現」では、女性の活躍推進や子どもの貧困対策を重視しているのが特徴です。超高齢化社会が進む日本社会における「健康・長寿の達成」も優先されるべき課題として挙げられています。

サステナビリティにつながる企業経営を支える「ESG」

「ESG」は、持続可能な社会実現のために、企業の長期的な成長に重要な「環境(E)」「社会(S)」「ガバナンス(G)」の3つの観点のことです。
ここからは、企業の長期的な成長とも深い関係を持つ、ESGの観点と具体策についてみていきましょう。

Environment(環境)

「Environment」は、主に環境対策における具体的な取り組みなど、事業活動における廃棄物や二酸化炭素の排出量削減などが挙げられます。他にも排水による水質汚染の防止や、省・再生可能エネルギーの活用も考えられるでしょう。
世界の環境保全に関わる企業も多く、商品の売り上げの一部を環境保護活動にあてるケースも見られます。消費者は商品の購入を通し、間接的にサステナビリティな活動へ関与することが可能です。

Social(社会)

「Social」は、主に男女平等や適正な労働条件の設定といった人権対策を指します。近年では、「人権デューデリジェンス」という言葉で表現されることもあります。全ての従業員が長期的に活躍するためには、ワークライフバランスを重視した労働環境の改善も必要です。
また、対外的な取り組みとして、強制労働や児童労働問題への対策が挙げられます。企業として、サプライチェーン上での人権侵害が起きないよう、全体をしっかり把握、管理するという姿勢も重視されるでしょう。

Governance(企業統治

「Governance」は、企業自身による管理体制を意味します。具体例として挙げられるのが、不祥事の回避やリスク管理のための積極的な情報提供などです。
また、資本効率に対する意識の高さも、サステナビリティな社会を実現するための必須項目だといえます。投資家が企業を評価する際には、利益規模とともに重視される項目です。

ができるサステナリビティな取り組み

サステナビリティな取り組みは、個人の生活に深く密着しています。2020年7月に全国でプラスチック製の買物袋(レジ袋)が有料化になったこともあり、最近ではすでに当たり前となりましたが、買い物にマイバッグを持参することも、サステナビリティな取り組みのひとつです。

今までの“当たり前”を違う角度で見直してみると、実践できることが多々あることに気付くかもしれません。ここからは、個人ができるサステナビリティな取り組みの代表例を紹介します。

1. ごみの量を減らす

家庭ごみの量を減らすことは、廃棄物量削減へとつながります。以下の項目は、すべてごみ削減へとつながる取り組みです。

  • 詰め替え容器に入った商品を選ぶ
  • マイバッグやマイボトルを持参する
  • 使い捨ての割りばしやプラスッチックスプーン、フォークは不要なものは断る
  • 不要なものはリサイクルへ出す

また、計画的な食品の購入は、食品ロス削減につながります。食べきれる分だけ購入し、賞味期限や消費期限切れの食材を出さないよう、冷蔵庫内を整理する心がけも大切です。

2. フェアトレード商品を購入する

フェアトレードとは、「公平・公正な取引」を意味します。海外から輸入された商品で、安い価格で販売されているものを目にしたことはないでしょうか。これは、生産者に正当な対価が支払われていない可能性があるためです。また、生産性向上のため、必要以上の農薬を使用し、環境や生産者の健康に害を及ぼしている恐れもあるでしょう。

フェアトレード商品は、現地の生産者と公平で公正な取引がなされたことを認証した商品です。フェアトレード商品を購入すれば、開発途上国における労働者の賃金向上と自立を間接的に支援できます。

3. 省エネルギーを意識した生活を送る

持続可能な世界を実現するためには、省エネルギーへの意識が必要です。個人の取り組みとしては、こまめに電気を消す、古い電化製品は省エネ仕様のものに買い替えるといったものが挙げられます。
また、2016年以降から電力自由化となり、誰もが自由に使用する電力会社を選択できるようになりました。自然エネルギーや二酸化炭素の排出量の少ないエネルギーなどを供給する、環境に配慮した電力会社を選択することも個人でできる取り組みの1つと言えるでしょう。

そのほか、エアコンや冷蔵庫内の温度を見直すといった取り組みもできます。人々の生活に欠かせない電気やガス、水といった資源は限りあるものです。個々の小さな心がけがサステナビリティな社会の実現へとつながります。

サステナリビティな取り組みをする企業

さまざまな企業が、それぞれの特性を活かしたサステナビリティな取り組みを実践しています。どれも事業を通じて、環境保全や社会課題の解決を目指しているのが特徴です。

ここでは「ユーグレナ」「カルビー」「サラヤ」の3企業のサステナビリティな取り組みを紹介します。

1.ユーグレナ

ユーグレナ社は、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げるバイオテクノロジー企業です。世界の食料問題や環境問題を解決するための事業を推し進めています。
人と地球を健康にするため、主に藻の一種であるユーグレナ(和名:ミドリムシ)を活用して、社会課題を解決するための事業を推し進めています。

ユーグレナ社では、気候変動問題の解決のため、日本で初めて使用済みの食用油と微細藻類ユーグレナを使用したバイオ燃料(通称サステオ)の製造に成功しました。 これはSDGsの目標13:「気候変動に具体的な対策を」に貢献する取り組みであり、日本がバイオ燃料先進国となることを目指しています。

また、ユーグレナ社は売り上げの一部を協賛金として「ユーグレナGENKIプログラム」を運営しています。「ユーグレナGENKIプログラム」では、栄養失調に苦しむバングラデシュの子どもたちへ栄養豊富なユーグレナクッキーを無償配布しています。これは、SDGsの目標1「貧困をなくそう」及び目標2「飢餓をゼロに」につながる活動です。

2.カルビー

カルビーは、スナック菓子を中心に事業展開を進める食品メーカーです。商品を通じた食の安全・安心の確保と、多様なライフスタイルへの貢献を目指しています。

カルビーでは、従業員一人ひとりにチャレンジする機会を提供し、ライフワークバランスを尊重しながら活躍できる職場づくりを推進しています。2020年にはオフィスのモバイルワークを標準化するなど、働き方の多様性への対応が見てとれる企業です。
特に「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」という信念の下、ダイバーシティの最優先課題として女性活躍の推進に注力しています。10年間で女性管理職を20%以上まで引き上げるなど、働く女性のための環境整備に積極的に取り組んでいます。

3.サラヤ

サラヤは、家庭用および業務用洗剤や消毒剤、食品などの製造販売を手掛けるメーカーです。「世界の衛生・環境・健康に貢献する」を企業テーマに掲げ、より豊かで実りある地球社会の実現を目指しています。

企業を代表するヤシノミ洗剤には、植物原料であるパーム油を使用していますが、パーム油の生産によって引き起こされる熱帯雨林減少問題にも対峙してきました。
熱帯雨林保護のために打ち出されたのが「ボルネオ環境保全プロジェクト」です。プロジェクトでは、分断された森に隔離された動物たちを救出し、森へ返す活動を続けています。活動には商品の売上の一部があてられ、消費者は商品購入を通しサステナビリティな取り組みに参加できるという仕組みです。

また、プラスチックごみの削減にも力を注ぎ、1982年には食器用洗剤で初めて詰め替えパックを発売しました。現在は、多くの商品に詰め替え方式が採用されています。

まとめ

サステナビリティとは、世界が直面する社会課題を解決し、持続可能な社会の実現を目指す考えのことを指します。
環境保護や人権問題など解決すべき社会課題は多く、サステナビリティな取り組みは、地球に暮らす私たち一人ひとりに求められるものだと考えられます。次世代に豊かな未来を引き継げるよう、サステナビリティへの理解を深め、持続可能な社会を実現するための第一歩を踏み出していきましょう。