環境問題への意識や健康志向の高まりから、注目を集める代替肉。欧米が先行する市場環境の中、日本ブランドとして、日本のフードテックカンパニーとして、研究開発から製造、販売まで行う「ネクストミーツ(NEXT MEATS)」。フードロス問題や、気候変動に対して、食の分野でどのような挑戦をされているのか。創業の経緯や商品の魅力、代替肉市場の展望について、ネクストミーツ株式会社の共同創業者、取締役会長であり、米国法人CEOの白井良さんに伺いました。
ビジネスと地球環境問題への対峙を両立したい
ネクストミーツ創業のきっかけは、社会貢献をしながら、かつ経済成長も実現できるようなビジネスモデルを作りたい、と思ったことでした。もともと15年ほど前から、地球環境問題に対峙するようなビジネスを行いたいという思いは持っていましたが、環境分野はベンチャー企業が一社でビジネスとして取り組むには規模が大きすぎる問題です。思いは持ちつつも、なかなか真正面から取り組むことができず、ある種の虚しさを感じていました。そんなときに、目に留まったのが、代替肉でした。
代替肉には大きく分けて、私たちが現在商品化している植物性の代替肉のほかに、培養肉というものがあります。これは牛や豚などの細胞を動物の体外で培養することによって得られる肉のこと。私たちが最初に注目したのは、培養肉でした。ただ、研究を進めると、培養肉は将来性があるものの、技術的な問題等で実用化にはまだ10年程度かかることがわかりました。
そこで、まずは植物性の代替肉から取り組むことにしたのです。
研究開発に3年。心が折れかけたことも
研究開発を始めたのは2017年。形になるかも不確かな状態から、自分たちだけで研究を開始し、大学や研究機関、ビーガン系のメーカーとコンタクトを取るなどして、知見を深めていきました。
やっと、商品として出せる段階に到達したのが2020年です。しかも、「かなり先端を行っている」という自負もありました。時をほぼ同じくして株式会社化。ESG投資銘柄として、2021年1月にアメリカで上場することができました。
これだけ聞くと、順調に見えるかもしれませんが、研究開発を進める過程では3回ほど心が折れそうなタイミングがありました。
ミンチの肉は他の会社でも出されていますが、弊社が開発したのはスライス肉です。開発を始めた当初も、スライス肉は市場にほとんどありませんでした。目の前が真っ暗になり、もうやめてしまおうかな、と思うこともありました。
子ども達が未来に絶望するような社会であってはならない
技術的に一番難しいのが肉の食感を出すこと。その次が味。もうひとつは見た目です。そもそも、食べ物としてのDNAが植物と肉では違うので、それらを肉に近づけるのは試行錯誤の連続でした。
ネクストミーツが作っている、代替肉は、100%植物性で基本的には無添加です。材料となるのは大豆やえんどう豆、ヒヨコ豆といった、植物性のタンパク質。材料の配合や熱の加え方、圧力のかけ方、水分量など様々な変数を考慮しながら、ベストな組み合わせを探っていきました。
何万通りも試して最も肉に近づける作業は気の遠くなるような作業で、根性論と言っても良いかもしれません。ただ、それらがネクストミーツの技術力であり、ノウハウと言える部分だと思っています。
心が折れかけても立ち上がれたのは、子ども達の未来をつくっていこうというのが、私たちの根源的なテーマとしてあったからです。私たちの子ども達が大人になっていくにあたって、未来に絶望するような社会ではあってはならない。その思いが原動力になりました。
また、個人的な話をしますと、私には子どもが2人いるのですが、「自分の子どもに食べさせても安全なものを作りたい。子どもの未来を過剰な畜産から守りたい。サステナブルな食べ物を食べさせたい。」という親としての思いもありましたね。
いま世界では人口の増加に伴って、肉の消費量も増えています。工場型(ないし工業型)畜産と言って、牛や豚などの家畜が過酷な環境で育てられ、食肉として大量に市場に流通されています。
それを育てるために使われるエネルギー量も相当なものです。畜産が世界全体の温室効果ガス排出に占める割合が15〜20%。畜産の問題に革命を起こすことができれば、エネルギー問題にも大きな効果が期待できると思います。
欧米に比べて、まだまだ日本の意識は低い
世界の代替肉の市場規模は現在、2,500億円ですが、2030年には1兆8,000億円に伸びると予想されています(※1)。特に欧米の意識の高さには驚かされるばかり。SDGsや気候変動問題に対する問題意識を持っている人も多く、多様な考え方の下で市場が広がっています。
(※1 参考:株式会社矢野経済研究所プレスリリース「代替肉(植物由来肉・培養肉)世界市場に関する調査を実施(2020年)」 )
一方で、欧米と比較すると日本はまだまだ、というのが私の実感。そのために「日本ブランドとして、日本での普及をしっかり役割を持ってやっていきたい」と思っています。
「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の理念を共有
認知度向上とブランドの構築。その実現のため、ユーグレナ社をはじめ、オイシックス・ラ・大地、IKEA、外食チェーンの「焼肉ライク」など、多くの企業とのコラボレーションを進めています。
特に、2021年2月9日の肉の日に販売を開始した、ユーグレナ社とのコラボ商品「NEXTユーグレナ焼肉EX」では、ユーグレナ社のフィロソフィーでもある「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」という理念を両社で共有できた、良い事例になりました。
コラボによって、我々の強みと、各社の強みを合わせることができれば、その数倍の価値を作れます。「地球をなんとかしないと」と言っている時に、企業対企業で戦っても何の意味もない。利益ファーストではなく、サステナビリティ・ファースト。そこに、競合という概念はありません。
消費者の選択肢を広げたい
例えば近年、居酒屋のメニューでビールとは別に、ノンアルコールビールが加わって来たように、代替肉も肉を選ぶ際の、消費者の選択肢のひとつになっていくことができればと考えています。現在のテクノロジーの進化のスピードは凄まじいものがあり、フードテック、バイオテックの世界も、加速度的に技術や市場が変化すると想定されます。冒頭で培養肉について話をしましたが、今後、弊社が作るものも、植物性の代替肉から培養肉に変わっていくでしょう。一粒の細胞から、100キログラムのA5ランクができるような未来も夢ではないと思っています。
そんな未来を見据えながら、足元で取り組んでいるのは、商品の品質向上です。昨年発売した第一号の商品は、みなさんから評価していただいたものの、肉の再現化率での自己評価は50点くらいだと思っています。これをさらに肉に近づけていきたいです。
最初は珍しいもの見たさでも良い
味や食感といった品質向上をみなさんに実感していただきたい。そういう思いで私たちの各製品には、ソフトウェアのように名前の後ろに「ver.(バージョン)」番号を振っています。「NEXT(ネクスト)カルビ1.0」、「NEXT(ネクスト)カルビ1.1」、大幅なバージョンアップがあれば「2.0」になる、という感じです。数字が大きくなるほどより肉に近くなる。私たちの企業努力を消費者の方々にも実感してもらえる仕掛けです。
代替肉はできたばかりの商品、市場です。私たちネクストミーツの取り組みを理解していただくには、まだ時間がかかるかもしれません。だからこそ、最初は新しいもの、珍しいもの見たさで、ひとつの体験として食べてもらっても構いません。色々な入り方で、まずは口に運んでいただいて、ゆくゆくは私たちの理念に共感してもらえたら、嬉しいと思っています。
文/杉浦雄大